仕事をやりすぎてしまう人の中には、本当に仕事が好きだとか、働くことに充実感や熱意を持っているからこそ、無理をしてでも働く人はいるものです。
しかし、ごく稀に働きすぎることで自らの健康を損ねる将来を望んでいる、自身を傷つける未来が起きることを心の奥底で求めている…そんな、破滅願望とも解釈できる複雑な感情を持つこともあります。
今回は、そんな仕事をやりすぎてしまう人と破滅願望について、お話しいたします。
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疾病利得から見る働きすぎ
健康を損ねるまで働くことに関連しているのが「疾病利得」という概念です。
疾病利得とは、何かしらの病気にかかることで金銭的、精神的、社会亭利益を受けることを指す言葉です。
例を上げるとすれば…
- マラソン大会に参加したくないので、前日にわざと風邪をひくような真似をして風邪にかかる。風邪の苦痛を味わう羽目になるが、これによりマラソン大会に参加しなくてもいい正当な理由を手にすることができる。
- 周囲の注目を浴びたい、承認欲求を満たしたいがために、あえて自分の体を傷つけたり、自暴自棄な行動に出る。身体的・精神的な苦痛を味わう羽目になるが、自分の奇行により周囲の人が注目してくれたり、自分を心配してくれることで承認欲求が満たされる。(=いわゆる「かまってちゃん」の代表例)
など、自分の健康を代償にすることで、あらゆるメリットを得ようとすることが疾病利得です。
疾病利得の概念を参考にして、働きすぎてしまうことを見ていくと…
- 体調を壊す寸前まで働きすぎることで、周囲からの心配の声や「頑張っているね」という肯定的な反応を得られる。
- 結果を出せるようにオーバーワークをすることで、残業代、職場内における発言権や影響力、上司からの高評価を得られる。
など、あらゆるメリットを享受できる可能性が高まります。(もちろんデメリットの部分は無視できないが…)
傍から見れば、自分の健康を損ねるだけで、合理性に欠いている行動のように思えてしまいますが、相応のメリットを得られる見込みがあるからこそ、粉骨砕身の精神で働きすぎてしまうのです。
もう働かなくてもいい理由を作るために、あえて働きすぎる
無理をしてまで働きすぎてしまう人は、今のように働きすぎてしまう状況に内心嫌気が指している。
しかし、自分から「もう働くのをやめます!」と堂々と主張する度胸や勇気を持っていないし、周囲の動揺を誘って嫌な意味で注目を浴びる事は、なるべく避けたい気持ちがある。
そんなとき、自分が持つ「もう働きたくない」という主張を別の形で主張しようとする…つまり、あえて健康を損ねるまで働きすぎるという行動に出てしまうのです。
こうすれば周囲の人から「仕事を辞めざるを得ない状況をおびき寄せるために、あえてオーバーワークをしている」という、自身の周りくどい思惑を見透かされることに、過度な心配をする必要性は薄れる。
傍目には、多少無理はしているけど仕事に熱心な人だと見られるので、まさか自分が破滅願望に近いようなものを持っているとは疑われにくい。
もし仮に、破滅願望を持っていることを見透かされたとしても、そのことをストレートに口にする人が出てくることは想像しにくいのも好都合です。
熱心に頑張っている人に対して「本当は仕事をやめたいから、働きすぎているんでしょ?」と実に野暮でひねくれた質問をしようものなら、働きすぎている人の面子を潰すことになる…という認識を逆手に取った上で、あえて働きすぎるという行動に出ていると言えます。
なお、こうした破滅するような手段を選んでしまう人は、自分の意見を主張することや、他人と交渉事をするのが苦手な人に見られる傾向があります。
自分への過小評価からくる破滅願望
働きすぎてしまう人には、自分に対する自己評価が極端に低い。
しかし、周囲から自分に向けられる評価は、割りと妥当なものであったり、むしろ高評価を受けている…という、自分と他者からの評価に大きなギャップがある場面にて、その差を埋めるために働きすぎてしまうことがあります。
ギャップの埋め方は
- 周囲が下す評価に、自分自身を合わせようとする埋め方。つまり、周囲の人が下している妥当~高い評価に近づけようとするまでに、過剰なまでの努力をしている。
ただし、過度に自分を評価しているからこそ、周囲が下す評価に追いつくのには途方もない労力を要するように感じる。加えて、多大な時間かかることが予想できるからこそ、焦りも大きく、つい無理をしてまで頑張りすぎてしまう。 - 自分自身の過小な評価に、周囲の人が下す評価を合わせようとする埋め方。つまり、周囲の人が「あの人はすごくないよね…」と自分を過小評価するように仕向ける。
そのためには、自分への評価が低くなるような行動を取る必要性がある。とは言え、ストレートに周囲に迷惑をかけるのは良くないので、その代わりに、体を壊すまで働きすぎるという、短期的には周囲に協力的な態度を見せつつも、長期的には周囲に迷惑をかけるという行動に出る。
の二種類があります。もちろん、破滅願望に近いのは後者の方です。
働きすぎることとインポスター現象
表面的には努力家で真面目な性格の持ち主と思われるが、当の本人は自分に対する評価が妙に低い。
そんな人が、仕事において他者から高い評価を受けてしまうと、まるで他人を騙して不当に評価を得ているような違和感を覚えてしまうことがあります。
このように、褒められた時に「人を騙している」という罪悪感を抱くことを、心理学ではインポスター現象と呼びます。(英語のインポスター[Impostor]は「詐欺師」の意味)
インポスター現象に悩む人は、周囲が自分を低く評価するように、上で触れたようにあえて働きすぎてしまう行動に出てしまうとされています。
また、働きすぎることを詳しく見ていくと、
- 今まで学んだところを勉強しなおす。
- 普段やっているプレゼンテーションを何度も繰り返す。
- 細かい仕事、集中力を要する仕事を行う。
- なにかに取りつかれたように、強迫的に働く。
といった、仕事における成功の確率を上げるような努力を不必要なほどに行う傾向があります。
もちろん、この努力により仕事において成功を収めることもあります。しかし、一方で手にした成功は、自分が行った超人的な努力のおかげであると考えてしまい、自分の能力の高さにあるとは考えられず、自己評価は低いままになってしまう。
また、超人的な努力が次回もできるという確証は薄く、いつかは本当の自分…つまり、過小評価しているダメダメな自分が、周囲の人にバレてしまうかもしれない不安が強まってしまい、しんどさを感じてしまいます。
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