学習性無力感とは、長期間にわたるストレスのかかる環境にいると、そのストレスから逃れるための努力を行わなくなる現象を指します。
わかりやすく言うと「どんな努力をしても無駄である」と言うことを学習し、無気力になっている状態といえます。
主に子供の教育の分野でよく使われる言葉ですが、職場においても学習性無力感は無縁ではありません。
例えば、ブラック企業に勤めているのに、「どうせ他の職場に転職しても、同じような職場環境だから状況は好転しない」と感じて、今の職場に居続けている人です。
もちろん、転職を勧められるほど深刻な状況ではなくても、
- 新しい仕事やキャリアを積むことに対して積極的になれない。
- 「なんでも否定されるからこそ自分から動かないほうがマシ」だと感じて、指示待ちに徹してしまう。
などの、仕事でよくある行動も学習性無力感が関わっていると考えられます。
仕事で学習性無力感が起きる原因・背景
どうして「(仕事において)どんなに努力しても無駄である」と学習してしまうのか…その原因や背景について解説します。
何をやっても否定される職場の文化がある
何か新しい企画や事業を提案しても「前例がない」などの理由でとにかく否定される文化がある職場では、「新しいことを提案しても全部無駄になる」と学習してしまい、仕事に対して無力感を感じることがあります。
否定をする理由が、実際に前例がないからと言う言葉通りの理由の場合もあれば、後述するようなパワハラ・モラハラで部下を精神的に支配する目的として、とにかく頭ごなしに否定しているケースも考えられます。
褒められる場面が少なく、仕事に充実感を味わいにくい
褒められる場面が全くないため、仕事に対する充実感を味わいにくいために「努力しても自分のことを評価してもらえないから努力は無駄である」と学習してしまうことがあります。
特に、減点方式で仕事の成果を評価する仕組みがある職場の場合は、褒められることよりも否定されて減点をくらう場面の方が多い。加えて新しい何かに挑戦することすら減点の対象になることもあってか「リスク回避のためにも何もしないほうがマシ」と学習して、仕事に対して消極的になることが考えられます。
パワハラ・モラハラを振るう上司の存在
パワハラやモラハラにより、徹底的に部下を否定して自主性を奪う。そして、上司である自分の言うことを部下に徹底的に守るように言い聞かせる。
このような、ハラスメントにより部下をコントロールする過程で学習性無力感を招くケースがあります。
もちろん、パワハラ・モラハラを振るう相手に対して訴えを起こしたり、距離を置くことは言うまでもありません。
しかし、被害者となっている部下が「他の部署に配属されてもどうせ自分は仕事ができないから状況が好転しない」と学習したことで、加害者である上司の元から離れようとしない状況を招き、事態が改善されないこともあります。
そのほかにも、何をしても否定されることを学習しているからこそ「余計な事はせずただ上司の言う通りに従えさえすれば、否定されて傷つくことはない」と学習したため、言われたことができるものの、それ以外の仕事に対しては消極的な状態という指示待ち人間になってしまうこともあります。
正当な評価がされない経験が続き「自分の努力は何をしても無駄だ」と考えてしまう
積極的に仕事に取り組んで成果を上げているものの、その成果を評価する仕組みや場面がないため「どんな仕事をしても自分の成果は評価されない」と学習したことで、仕事に対するモチベーションが下がる事があります。
成果を上げているのにもかかわらず、それに対して正当な評価が得られない、あるいは無視とも取れる状況が続くと、次第に無気力になってしまうのです。
学習性無力感の問題点
仕事の質の低下
仕事に対して無力感を抱いているため、集中力が低下によりミスを誘発し、仕事の質の低下を招きます。
また個人の仕事の質の低下だけにとどまらず、他の人の手を煩わせてしまうことで職場全体における仕事の質の低下を招くリスクもあります。
新しいことに挑戦しないので技術・経験が身につかない
仕事において「どうせ何をやっても無駄」という考えは、新しい技術や経験を身につけることすら無駄であると感じてしまい、成長の阻害を招きます。
加えて、できることしかしないために、職場においてもその人を雇っておくだけの価値を見出せなくなり、職場内での孤立や居場所を失う恐れがあります。
また、新しいことを嫌がる人が上司となり、部下を頭ごなしに否定する。結果として、上司も部下もどちらも学習性無力感になり、組織全体の仕事の質の低下を招く事も考えられます。
ブラックな労働環境でもやめる気力が出なくなる
冒頭でも触れましたが、頭ごなしに否定されるブラックな職場労働環境であっても、「他の職場に移っても、どうせ今のようなブラックな職場に違いない」と学習したために、今のブラックな職場にい続けて、体調不良を起こすリスクがあります。
ブラックな職場だがよくも悪くも順応してしまっている、と言ってもいいでしょう。
最終的に職場を止めざるを得ないときには、すでにうつ病や不眠症で長期の療養が必要な状態になっている。
また、療養の期間が長引き社会復帰までに多くの時間を要する事態を招く、あるいは社会復帰そのものが難しくなり、貧困や社会からの孤立に苦しむ状況に追い込まれることも考えられます
関連記事
無力感が職場内に広がることも
これは誰かが頭ごなしに否定されている状況を周囲の人が見ることで、周囲の人が「自分が同じような仕事をしても失敗するに違いない」と学習してしまった。その結果、集団全体に「何をやっても無駄だから何もしないほうが得である」と無力感が蔓延する状態です。
スポーツに例えれば、野球で自チームがピンチのときに味方のバッターが三振になり続けると「どうせこの試合は勝てそうにないな…」と無力感がチーム全体に蔓延した結果、ボロ負けしてしまうの状況と言ってもいいでしょう。
一人が無力感に苦しんでいると、その無力感を周囲が観察して学習してしまい、結果として集団全体が無力感にかかって仕事の質やモラルの低下、ケアレスミスや離職者の増加などを招く原因となります。
仕事における学習性無力感を防ぐには
職場で学習性無力感の人を出さないのはもちろんのこと、学習性無力感が集団全体に蔓延しないためにも、しっかり対処法を立てておくことが肝心です。
些細なことでもいいから褒めて認めること怠らない
「がんばっても無駄」ということを学習させないためにも、些細な事でもいいので褒めて認めることを継続するのが重要です。
褒める内容は仕事の成果に関わることばかりでなく、例えば
- 「挨拶をしっかりしている」
- 「しっかり時間に遅れず行動できている」
- 「気配りが上手で良い職場の雰囲気作りに貢献している」
などの、社会人ならできて当然と思われるようなことでも、適宜褒めて自己肯定感や満足感を抱かせるようにしましょう。
また、人は生まれ持った才能や個性よりも、努力や過程を褒められた方が、仕事に対する自信やモチベーションにつながりやすくなります。
褒める時も、成果を見て褒めるのではなく、その成果を出すに至ったプロセスにも注目して、しっかり褒めるように心がけましょう。
無力感を感じている人が活躍できる役目や場所を与える
もしも、仕事に対してモチベーションが低下し始めている、何をやっても無駄だと感じて投げやりな態度になっている人が出てきた場合は、その人が活躍できそうな役目や場所を与えることも方法のひとつです。
「自分の努力が周囲から承認されて、役に立っている」と言う実感を抱かせるように働きかけてみましょう。
もちろん、これも直接仕事に関わる事の他にも、飲み会の幹事のように、仕事の雰囲気作りや親睦に関わる事柄でもいいので、無力感を感じ始めている人が充実感や満足感が得られるような場を与えてみるようにしましょう。
できないことばかりに注目せず、できていることに注目して評価をする
減点方式で評価する仕組みがある職場だと、どうしてもできなかったことばかりに注目して指摘してばかりになりがちです。
いつもダメ出しを食っているばかりでは、単純に無力感を招くだけでなく、自分の仕事に対する強みや得意分野の自覚を促しにくくなるリスクも考えられます。
ですので、どんな些細な事でもいいので仕事の成果や、仕事に関わる行動について共感するようにして評価するようにして、仕事に対する熱意代を削がないように心がけましょう。
また、本人は自覚していないけれども、周囲の人はその人が自覚していない良さや魅力についてしっかり把握しているという状況もあるものです。
できていることを「できているよ」と評価することは、本人が自覚していない自分の良さに気づき、仕事の質の向上へとつなげる側面もあるので、積極的に行うようにしましょう。
無力感が強い場合は、仕事のレベルを下げて自信をつけるように働きかける
どうしても「自分はどうせ何をやってもダメだ」と、強い無力感を感じている人に対しては、新しい環境に置いたり、褒める方法のほかにも、あえて仕事のレベルを下げて、確実に達成可能な目標を設定することも方法の1つです。
無力感が強いために、普通の社員に課せられる目標では「自分にはレベルが高すぎてこなせる自信がない…」と感じてしまい、簡単に諦めてしまうことが少なくありません。
途中で挫折してより無力感を強めるのを防ぐためにも、適度にレベルを下げた目標設定しましょう。
関連記事