人間関係を築くことや社会に出る事に抵抗があり、他人と関わる場面を避けたがる傾向がある回避性パーソナリティ障害の人(以下、回避性の人と呼ぶ)が、何故このような行動を取ってしまうのか…。
その原因として考えられるのは、
- 遺伝によるもの
- 家庭環境・親の教育
- 人間関係における傷つき経験、(軽度も含む)トラウマとなった経験
- 社会や経済の変化、文化的要因(=社会的要因)
など、あらゆる原因が複雑に絡み合って、回避傾向を強めていくとされています。今回は、そんな回避性パーソナリティ障害の原因と背景について、お話しいたします。
回避性パーソナリティ障害の原因として考えられるもの
遺伝要因
生まれつき他人と関わることに強い抵抗を感じる気質である。親の代から他人と関わることに苦手意識を感じやすい遺伝的傾向を子も受け継いだことによって、回避性の強い人になってしまうこともあるとされています。
遺伝要因を詳しく見ていくと、不安のコントロールに関与する神経伝達物質のセロトニンを受け取る機能(セロトニントランスポーター)の弱さを受け継いでいる。
そのため、不安を感じる場面になると過度に不安を感じてしまうことから、他人と関わる事を避けてしまうのだとされています。
なお、セロトニントランスポーターの働きの弱さは、回避性パーソナリティ障害のみならず、うつ病や不安障害に悩まされている人でも見られます。
しかし、回避性パーソナリティ障害は、遺伝的要因が絡む割合は全体の3割程度とされており、残りは家庭環境や人間関係での傷つき、社会的要因など、遺伝以外の要素が関与しているとされています。
家庭環境・親の教育
幼少期の家庭環境や親の教育もまた、回避傾向に強く影響していると考えられています。
暴力や暴言、ネグレクトなど、対人関係に置いて不安を感じるような子育て…つまり、虐待を受けてきたことは、回避傾向の強化に多大な影響を及ぼすとされています。
また、
- 虐待までとはいかなくとも、勉強や日常生活にて厳しさを前面に出した締め付けの強い子育てを受けてきた事。
- 何かあればすぐにダメだしされて叱られた経験を何度も繰り返されてきた。
というように、親との関係に愛情や安心感を感じにくく、支配的な環境で育ってきたことも、回避傾向を強める原因とされています。
しかし、厳しさとは対照的である過保護な子育てや、親からの強い期待を受けてきた場合においても、回避の傾向を強めてしまい、他人や社会と関わることに消極的になるケースが見られます。
その理由として考えられるのは…
- 親が子供のやることなすことに口出しするのが当たり前の環境で育ち、自分の意思を持つ事がなかった。そのため、親元を離れると消極的な姿勢が目立つようになる。
- 「過保護であった=自分は親の保護を受けないといけないほどに頼りない、能力が低い人間である」という極端に低い自己評価を持ってしまい、他人と関わる事に臆病になってしまった。
- 教育熱心な親の気の強さに圧倒されていた経験が長く、自分の主張を表明することがなかった。また、そんな環境で育ったため「他人はどうせ自分の主張を聞き入れてくれない」と言う知見を身につけてしまい、他人と関わることに後ろ向きになった。(=学習性無力感)
などが挙げられます。
関連記事
傷つき経験・人間関係のトラウマ
回避傾向を強めるのは、他人から拒絶された経験や裏切られた経験で傷ついてしまった事…つまり
- 学校で友達や先輩・後輩からいじめられた。
- 先生から拒絶された、否定的な対応を受けた。
- 親から身体的・精神的な虐待を受けた。
- 養育放棄、教育放棄など、自分がぞんざいに扱われる経験を受けた。
- 好きな人から振られた。失恋した。
- ネット上でいじめられた、炎上を起こした。
などの、人間関係で起きた自分を否定される経験が、回避傾向を強めると考えられています。
なお、上で触れた辛い経験には、どれも「恥ずかしさ」と感じる要素があることは、容易に想像出来るでしょう。
恥ずかしさを感じる経験を重ねたことにより、「他人と関われば高確率で恥の感情に苦しめられる」という、経験に基づく知見を得てしまう。
恥ずかしさに苦しみ不快な思いをすることを避ける意味でも、あえて他人と関わる場面を回避する行動は、言い換えれば傷つく不安から自分を守っている防衛的な反応だとも考えられます。
ただし、過剰に恥ずかしがる裏では、「自分は他人から見て恥ずかしいと思われても仕方がないような人間である」という自己評価の低さが伺えます。
また、自分で自分を低く評価しているからこそ、他人の一挙手一投足に自分を低く評価している要素を見つけてしまい、人間関係への煩わしさが増しているのだとも考えられます。(例:他人が笑っている光景を見て「自分の短所が笑われているのでは?」「自分の欠点が他人から見抜かれているのでは?」と疑心暗鬼になる等。)
社会的要因
回避性パーソナリティ障害は、家族や会社といった人の集まりの中で生きる事よりも、個人が個人として生きる事が重視される社会や風潮に順応した。
たとえば…
- 家族の形が、拡大家族(サザエさん的な家族像)から核家族(クレヨンしんちゃん的な家族像)になり、様々な大人と関わることが減り、自分とは生まれも育ちも価値観も違う他人との関わり方を身に付ける術を獲得するのが難しくなってきた事。
- 経済的な停滞により、多くの人と関わり金銭を消費する生き方よりも、価値観のあう極小数の人とだけ効率的に関わる生き方が重視されるようになってきたこと。(友達の数よりも質を重視することが、いい例として挙げられる)
- 個人主義の浸透。つまり、家族・会社・学校・国家などの組織に縛られる生き方を否定し、個人が個人の幸福や充実を追求することが是とされる価値観が浸透したこと。
- 加えて個人主義が是とされると、他人は皆自分の生き方に口を出す厄介な存在であると見てしまいやすい。この煩わしさが、回避傾向を強め、自己愛(ナルシシズム)を強めているとも考えられる。
- インターネットの発展、およびスマホ、SNSの普及。他人と直接顔を合わせなくてもよく、絵文字やスタンプなどで簡単に他人と関わることが当たり前になると、人と直接顔を合わせたり、自分で言葉を紡ぎ出すことにめんどくささを感じてしまい、社会で生きていくことに煩わしさを感じてしまう。
など、私たちが生きている社会や文化、コミュニケーションの様式の変化が、他人や社会への煩わしさを招き、回避傾向を持つ人の増加を後押しした…という考え方もできます。
回避性パーソナリティ障害の原因は一つだけとは限らない
冒頭でも触れたように、回避傾向を強めてしまう原因は、一つだけにあるとは限らず、あらゆる原因が複雑に絡んだ結果として生じているものであるとされてます。
また、遺伝的要因以外にも多数の原因が考えられるということは、幼い頃は社交的で他人と関わることに物怖じするタイプではなかったものの、年齢を重ねるにつれて他人に煩わしさを感じてしまい、回避傾向を強めてしまうケースもある。
その逆に、幼い頃は引っ込み思案だったが、大人になるにつれて回避傾向を克服し、社会で生きていけるようになるケースもあります。
自分や自分と関わっている誰かが、妙に他人や社会と交わろうとせず回避する傾向が見られる場合は、なるべく多面的に原因や背景を探っていくことが重要です。
また、場合によっては、臨床心理士や公認心理士の資格を持つ心理カウンセラーや心療内科など、専門知識を持つ人に対して、回避傾向の強さを相談してみるのも方法の一つです。
参考書籍