あらゆる刺激に敏感な気質である「HSP(ハイリーセンシティブパーソン)」の人が取る言動の中には、他人への関心が希薄で社会との接点を持つことに対して興味が乏しい。また、感情表現も乏しく、孤独な生活を求めたがるという特徴を持つスキゾイドパーソナリティ障害と共通している点が見られます。
今回は、そんなHSPとスキゾイドとの関連性についてお話しいたします。
目次
スキゾイドパーソナリティ障害の診断基準から見る「HSP」
米国精神医学会(DSM)が定めた、スキゾイド(あるいはシゾイド)パーソナリティ障害の診断基準の中に書かれている
・ほとんどいつも孤立した行動を選択する
・第一度親族以外には、親しい友人または信頼できる友人がいない
という記述は、HSPの人にも見られる特徴と言えます。
HSPの場合、人間関係から受ける刺激…たとえば、他人の声や仕草、喜怒哀楽などの感情やその場の雰囲気などの刺激に対して過剰に反応してしまい、強いストレスを感じてしまう。
そのため、人間関係のストレスから自分を守るために、あえて人と関わる場面を避け、落ち着いた時間や空間を求める傾向があります。
また、一人で落ち着いた時間や空間を求める一方で、それらに他人が干渉してくることを苦手とする。
富や名誉、人脈、評価のような俗物的社会的・物質的な豊かさよりも、精神的な豊かさ、自分の内面世界を重視する傾向は、HSPおよびスキゾイドにも見られる特徴です。
ただし、他人や社会との関わりが希薄なことは、精神的な安らぎと引き換えに、
- 学校や会社のような集団生活に馴染めなくなる。
- 自分にあった働き方が非常に絞られてしまう。
- 周囲からの無関心や無理解に苦しみ、いじめやハラスメントの被害者になる。
などの、生きづらさを招いてしまう点は無視できません。
また、スキゾイドパーソナリティの人の場合、あまりにも社会との接点が無いために、なかば隠遁生活をするかのように引きこもり状態に陥いる例もあります。
HSPの人が刺激の少ない生活を求め続けた果てには、スキゾイドの人同様に社会から隔絶された隠遁者のような生活が待ち受けていても、なんらおかしくないでしょう。
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HSPとスキゾイドで明確に違う部分
なお、スキゾイドパーソナリティ障害の診断基準の中には
・情緒的な冷たさ、よそよそしさ、または平坦な感情。
・喜びを感じられるような活動があったとしても、少ししかない。
・他人の賞賛や批判に対して無関心に見える。
といった記載があります。これは、繊細であるために感情的に揺さぶられやすい傾向がある、HSPの人には見られない特徴と言えるでしょう。
HSPの人の場合、他人から否定される、他人の怒りの感情に自分が飲み込まれた影響により、容易に感情を表出してしまうので、スキゾイドが持つ「平坦な感情」という特徴とは明確に異なります。
HSPの「繊細であるがゆえに激しく同様してしまうこと」と、スキゾイドの「情緒的な冷たさ、よそよそしさ」の両者の関係性が「≠」になることは、容易に理解できることでしょう
また、他人から否定されることに強い不安を覚えるものの、他人から賞賛されたり、承認されたりすることについては、HSPの人は好意的な反応や感情を見せることがあり、スキゾイドが持つ「賞賛や批判に対して無関心に見える」という特徴と明確に異なります。
なお、HSPの人の場合、情熱的な恋に落ちる傾向があるとされていますが、これもまた平坦な感情や他人への希薄さを特徴とするスキゾイドの特徴とは明確に異なります。
HSPは他人に対する興味や関心があるからこそ、他人の存在が起因する、あらゆる「刺激に敏感に反応してしまう。一方でスキゾイドは他人に関する興味や関心そのものが薄く、他人からくる刺激にさほど影響を受けない、鈍感で飄々としている部分があるのだと考えられます。
遺伝的・生物学的要因で見るスキゾイドとHSP
スキゾイドパーソナリティ障害が起きる原因として、遺伝的・生物学的な立場として考えられているのが、ドーパミン系の受容体の増加、あるいドーパミン系が活発であることです。
ドーパミン系は脳の神経経路の一種で、記憶、学習、創造性、意欲、そして快感などの刺激に関与しているとされています。
そして、ドーパミン系が活発であることは、言い換えれば些細な刺激でも大きな刺激であるように捉えてしまい苦痛を感じる。
その苦痛から逃れるべく、あえて他人や社会との関わりを避けていると考えれば、スキゾイドは鈍感で外界に無頓着な人ではなく、むしろ外界の刺激に敏感で過剰に反応してしまう人であると考えられます。(なお、ドーパミン系の創造性が強いということは、精神的な豊かさや、自分の内面世界を重視する要因であるとも考えられる。創造性が高いために、思想や芸術の分野にて頭角を現すこともあるとされている。)
このように敏感だからこそ刺激を避けるという点は、まさにHSP気質そのものを端的に言い表していると言えるでしょう。
もちろん、この点だけを見て「根底ではスキゾイドとHSPは完全に一致している」と結論づけるものではありません。
共通している点もあれば、そうでない点もある…と解釈するのが賢明だと感じます。
割合から見るスキゾイドとHSP
スキゾイドパーソナリティ障害は、アメリカのデータによれば疾病率は4.9%と推定されています。別のデータでは3.1%という結果も出ています。
一方でHSPの割合は約20%とされており、割合だけで見ればHSPの方が高いという結果になってます。
ただし、スキゾイドパーソナリティ障害は医学によって診断基準が明確。一方HSPは、あくまでも心理学における性格や気質の一種でしかなく、明確な診断基準や診断方法が現時点では整っているわけではない点については留意しておくべきでしょう。
余談 スキゾイドとHSS
HSPとは真逆に刺激やスリルを追い求める「HSS(High Sensation Seeking(ハイ センセーション シーキング)」は、スキゾイドの特徴とはかけ離れています。
HSSは人や社会と関わることには積極的で、賑やかな生活を求めるという点では、スキゾイドおよびHSPとは特徴が真逆です。
しかし、HSSの中にはHSPとHSSの両方合わせ持つ複合型の人(HSP/HSS)もいます。HSP/HSSの場合は、HSP同様に刺激に対して敏感な特徴を持っており、遺伝的・生物学的視点から見るスキゾイドと共通している点があると考えられます。
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