「自分は勉強ができない」「どうせ自分は豆腐メンタルだから」と自分に対して否定的な思い込をしていると、自然とその通りになってしまうという事があります。(なんとなくオカルトじみてますけどね…)
このことは心理学では「自己成就予言」と呼ばれており、人は無意識のうちに自分の思い込みや固定観念に縛られ、その考えに沿った行動をしてしまう事があるのです。
もちろん、現実になる思い込みは否定的なことだけでなく、肯定的な思い込みをすることでその思い込みが現実になることもあります。
とくに、肯定的な思い込みをさせることは学校や教育の場において「ピグマリオン効果」という名前で知られており、学力向上や落ちこぼれている生徒を復活させるために、積極的に褒めて自己肯定感を付けさせるように指導している教師もおられます。
今回は、「自己成就予言」について、お話いたします。
自己成就予言とは
自己成就予言とは自分の中の思い込みやイメージに従って行動していると、思い込みの通りになってしまうことを指す心理学用語です。「予言の自己成就」と呼ばれることもあります。
砕けて言うと「ひょっとしたらこうなるのではないか?」という直感や予感が、いい意味でも悪い意味でも的中してしまうということとも言えます。
その通りになってしまうこと…つまり成就することは、「自分は勉強ができない」「自分は豆腐メンタル」のような自分自身に関することもあれば、「ひょっとして○○さんに嫌われるのでは?」のような自分に関係する他人のこともあります。
「ひょっとして○○さんに嫌われるのでは?」という、あくまでも自分の中の思い込みに過ぎないのに、実際に嫌われてしまうことになる理由は
- 思い込みのせいで無意識のうちに○○さんと距離をとってしまう。
- ○○さんの気に障るようなことや、嫌がることをしてしまう。
などが原因として考えられます。
直接言葉にしたりあからさまな態度で示さなくとも、なんとなく○○さんから嫌われても仕方がないような関係になるように、無意識のうちに自ら働きかけていた事が考えられます。
とくに恋愛関係で「この人とうまくやっていける自信が持てない」と思い始めると、以前と比べて連絡、会う回数、口数が減ったり、よそよそしくなってしまったことから、相手も不安を感じて関係が途切れてしまう事があるものです。
しかし、冒頭で触れているように成就することはネガティブなことばかりではなく、ポジティブなことでも起きます。
自己成就予言の種類
ピグマリオン効果
ピグマリオン効果とは、自己成就予言により良い結果に結びつくことを指す言葉です。教育心理学でもよく登場します。
ピグマリオン効果は、実際に「あなたは勉強ができる人だ」「あなたは成績優秀で努力家な人だ」というポジティブな意見や期待をかければ、その意見をかけられた本人の意欲や向上心がアップして、実際に期待していた通りの人になるのがいい例です。
とくに、ピグマリオン効果は学校でも勉強に対するモチベーションが上がらない子や落ちこぼれて自信をなくしてしまう子供に対するサポート方法として有名であり、いわゆる「褒めて伸ばす」教育法と関連があると言えます。
ゴーレム効果
ピグマリオン効果とは逆に、自己成就予言により悪い結果に結びつくことを指すことはゴーレム効果と呼びます。
例えば、先生が子供に対して「君は勉強ができない落ちこぼれだ」「あなたの成績が悪くこのままでは進級すら怪しい」とキツく言い続けることで、実際に子供がその言葉の通りの落ちこぼれたり、落第してしまうのがいい例です。
また、実際に何か声を期待をかけるだけでなく、何も期待をかけずに無視を続けることでも、悪い結果を招いてしまう事があります。
実際に学校や会社で相手にとって言いづらいことがあると、お互いの関係をギクシャクさせないためにも本当に言うべき大事なことを言わずに話題を逸らし続けたり、あえてビジネスライクにして相手に余計な期待をかけず冷たく接したことで、結果としてギクシャクした関係になりトラブルが起きてしまった…という経験をした人もきっと多いはず。
ダメ出しをちゃんと出せる人間関係と違って、ダメだしすら出ない人間関係だと、どうしてもお互いの関係が希薄になりがちで、モチベーションが下がったり集団からの離脱、脱落する人が出てきてしまうのも、ゴーレム効果によるものと考える事ができます。
虐待がただ暴力や暴言だけでなく、ネグレクト(無視、育児放棄)も含んでいることから見ても、全く期待をかけない環境というのは、いいメンタルを育む環境としてふさわしくないということが、きっとわかると思います。
自己成就予言を使ったコミュニケーションの注意点
ピグマリオン効果のように、相手を褒めたり励ましたりしてなんとかその気にさせるコミュニケーションが必要になる場面は普段の暮らしの中でも多いと思います。
- 部活動で燃え尽き症候群が疑われる部員に対してハッパをかける。
- メンタルが弱い新社会人になんとか仕事ができるように教育する。
- 自分の子供に対して、もっと自信や行動力が身につくために期待をかける。
など、勉強、スポーツ、仕事の場面で相手に期待をかけてやる気を引き出せるスキルはよく求められるものです。
しかし、ピグマリオン効果はただ闇雲にかけ期待を続ければ、必ずいい結果に結びつくというほど単純ではありません。
人によっては過度な期待をプレッシャーやストレスだと感じて思うような力を発揮できなくなったり、逆に露骨な期待の言葉を不信に感じて逆にモチベーションを削いでしまうことも考えられます。
期待をかけられるのは嬉しい半面、
- 「その期待に応えられなかったら相手を裏切ってしまうことになる」と考えてしまう。
- 「自分には到底応えられそうにない期待でも、無理に応えなければいけない」と自分を追い詰めてしまう。
- 「どうしても無理な期待に応えるために、ズルやルール違反をしてでも成し遂げようと」とあらぬ考えをしてしまう。
というリスクもあり、相手の実力や状況に応じた適切な範囲での期待をかけていくことが必要となります。
また、期待をかけてくる人が、先生、上司、親などの立場が上の人の場合は、期待をかけられる生徒、部下、子供からすればせっかくかけられた期待を、立場上断りにくくなることも考えられます。
また、期待をかける方も、自分勝手な期待を押し続けても、やはり相手の事情を無視した自分勝手な期待であり、その通りにならなずにがっかりする…つまり、勝手に期待して勝手に失望する事態に陥る事もあります。
お互いに期待の掛け合いでしんどい思いをしないためには、ベタベタとした距離感ではなく適度な距離感を保ちお互いの意見を尊重しあったり、期待をかける前にお互いに信頼関係を築けるように接していく事のがいいでしょう。
自己成就予言とセルフハンディキャッピング
自己成就予言と関連している心理学用語でセルフハンディキャッピングというものがあります。
セルフハンディキャッピングとは、自分自身に何らかのハンデをかけて
- その後の物事が失敗すればハンデのせいだと言い訳をして失敗のショックを軽減する。
- その後の物事が成功すればハンデがあるのにもかかわらず成功したと言い張り自分を大きくアピールできる。
という、主にメンタル面での損失を抑え利益を大きくするための行う行動です。
具体的には、テスト前に「自分は全然勉強していない」と言ってテストに臨むという、学生あるあるネタがセルフハンディキャッピングの例です
セルフハンディキャッピングが持つ、あえて自分にハンデをかける言動をして自分のイメージをコントロールするという点では、悪い意味での自己成就予言(ゴーレム効果)と共通する点があると言えます。
「自分は全然勉強していない」とただ表面的に言うだけに収まらず、その言葉の通り勉強ができなくなり、テストで悪い点数を取ってしまえば、まさに悪い意味で自分の思い描いていた将来像が達成されてしまったとも言えます。
その他にも、コミュ障を自称する人のように、自分に何かしらのレッテルを貼ることでギャップのある自分を演じたり、レッテルがあるけど頑張っている自分を演出しようとする人もいい例です。
自らコミュ障であると自称し続けた結果、「コミュ障なのにコミュニケーション能力が高い」というギャップ効果なんて出ず、気が付けば自称から真性のコミュ障になってしまうことも、悪い意味での自己成就予言と言えるでしょう。