SNSでは、どれだけフォロワーが多いのかによって、その人の人気や能力、カリスマ性やブランド力の有無を簡単に把握することができます。
そしてたくさんフォロワーがついていればいるほど、
- その人はきっとすごい人に違いない
- 社会から認められている立場の人に違いない
- たくさんのフォロワー…つまりファン、支援者がいるはずだ
と、「権威」を感じるようになります。(権威という言葉が堅苦しければ、ブランド、説得力と言い換えてもいいでしょう。)
そして、権威を感じるアカウントの投稿に関しては、どうしても簡単に信じ込んでしまいやすく、気が付けばそのアカウントに投稿された意見や主張を自分もコピーしたり、その権威にあやかろうと近づこうとすることがあります。
こうした権威にひれ伏し従ってしまう事を、社会心理学では権利主義的パーソナリティと呼びます。
SNSはリアルの人間関係とは違い、学校や会社のようなヒエラルキーのある人間関係の色が出にくい場所ではありますが、利用していくうちにSNSで繋がった人同士の意見や立場などの些細な違いに対して権威を見出すことがあります。
その結果、SNS上で声の大きな人の意見に従ったり、投稿内容をよく吟味せずに同意や拡散をしてしまうこと等で炎上商法などのトラブルに巻き込まれる、あるいは自分が炎上の片棒を担いでしまうこともあります。
今回は、権威主義的パーソナリティとSNSの人間関係について、お話いたします。
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権威主義的パーソナリティとは
権威主義的パーソナリティとは、ドイツの社会心理学者フロムが提唱した概念のことです。
フロムはドイツで1930年頃に広まったファシズム(結束主義)の分析により、権威主義的パーソナリティを主張しました。
権威主義的パーソナリティの特徴には
- 権威がある存在に対する服従し無批判に受け入れる。
- 権威に囚われることにより、偏見や差別的な考えをしてしまう。
- 両極端な意見や考え方をしてしまう。(参考:二極思考、集団極化)
- 集団に対する帰属意識が強まるが、集団外に対しては排他的な態度を取る。(参考:同調圧力)
- 多数派には従い、少数派には攻撃的な態度を取る。
- (社会的な)権力や経済力を権威の拠り所をする。
- 人間不信、理想に対して冷淡な態度を取る。
などの特徴があります。
当然ですが、権威主義的パーソナリティという言葉ができた時代にはSNSのようなインターネットを使ったサービスは登場していません。
しかし、権威主義的パーソナリティの特徴をよく見ていくと、SNS上で見かける、ぼんやりとした上下関係やつながりの中での発言権の有無、影響力のある人と仲良くしようとする人が出てくるその背景について知ることができます。
SNSではもちろん、リアルの人間関係のようなめんどくさいしがらみがない人間関係を自由に作ることができます。
しかし、その自由で対等な人間関係がいつしか権威主義の色を帯びてきて、立場の差が出来たり、言いたいことが言えなくなってしまったり「フォロワーが多い人の意見は正しい」という考えを持つ人が出てきたりするのは、権威主義的パーソナリティを持つ人が出てくるようになったと考えることもできます。
SNSで権威となるものの例
フォロワー・友達の数
SNSの基本とも言えるフォロワー・友達の数は、多ければ多いほどその人は
- ファン、支援者、支持者が多い人。
- 普段から役に立つ投稿をしている人。
- 何か特別な技術や能力、魅力を持っている人。
- 他の有名人と並ぶ実力や立場のある人
だと思われやすく、とくに権威と結びつく要素の一つと言えます。
また、SNSの中でもtwitterは、フォローする側もされる側も匿名での活動も可能で、また定期的にハッシュタグで友達(フォロワー)を増やす投稿が拡散されることもあり、気軽にフォロワーを増やし、自分の権威を強めると使い方もできてしまいます。
肩書き・経歴
多くのSNSには、自分の簡単なプロフィールや肩書き、出身地、学歴、経歴などを書くスペースがあります。
もちろん、プロフィールの公開を控えて利用することもできますが、より多くのフォロワーを獲得したり、共通点のある友達を作るためには、積極的に自分のプロフィールを充実させることが重要です。
他の有名人・芸能人とのつながり
SNSはただ自分のフォロワー(友達)の数が多いこと以外にも、有名な人や実力のある人と繋がっていることが権威を帯びることがあります。
SNSは自分と繋がっている人が、自分以外にどんな人や団体と繋がりがあるかが可視化されるために、「あの人はテレビに出た有名人、芸能人、スポーツ選手と繋がっている」「企業の公式アカウントからフォローされている」という情報を簡単に手に入れることができます。
また、実際にSNSを利用しているときに…
- (SNS上のあるコミュニティ内で有名な)○○さんにフォローされた!
- あの有名な経営者、フリーランスの人からフォロー返しされた!
という内容の投稿をして、ウキウキと喜んでいる人を見かけたことはないでしょうか。
これは、ただフォロワーが増えることよりも、より自分の所属するコミュニティ内で影響力や発言力などの権力、権威を持つ人からフォローされた方が、それだけ自分も認められるようになった、すなわち権威を持つ人との人脈ができたことへの喜びだと考えることもできます。
…もちろん、ただ憧れている人からフォローをもらったという純粋な喜びだと考えることもできますが、憧れている人というのは何かしらの権力や権威を持つものであり、つい憧れる人の言葉を無批判に受け入れたり、同一視してしまうことがあるものです。
SNSにおける権威主義的パーソナリティの問題
SNS上の有名人の主張をよく考えもせず迎合してしまう
SNS上は誰でも自分の意見を主張することができます。
しかし、その意見を見るときに意見単体として見るのではなく、その人のフォロワーの数、拡散された数、肩書き、経歴、有名人との繋がりなどの権威のあるものと結びつけて「この意見は正しい」と感じてしまうことが、問題点と言えます。
- フォロワーが多ければ説得力があると感じる
- 肩書きがある人の意見の方が正しいと感じる
- 有名人とつながりのある人の投稿の方が正しいと感じる
という考えに陥れば、ただSNS上で影響力のある人の意見に迎合し、本当にその意見は正しいものなのか、その意見に従ったり賛同することが本当にいいものなのか、という思考の柔軟性が失われてしまいます。
また、もしも迎合する意見がデマや虚偽を含むものであったときに、その意見に迎合して拡散に協力してしまえば、炎上の被害に巻き込まれることもないとは言い切れません。
他にも、似非科学やスピリチュアルなどの根拠・検証に乏しい医療情報を無批判に受け入れてしまえば、自分や自分の家族、友達が健康被害を受ける可能性もないとは言い切れません。
SNS上では経歴を盛れるため、簡単に権威を身に付けられる
まず大前提として、SNSでは免許証や履歴所の提出などを求められることはまずないので、自分の出身校や職歴を簡単に偽装することができます。
ネット上で見かける自称社長、自称経営者、自称カウンセラー、自称プロ○○…など、自称すれば誰でも嘘の経歴を名乗ることができます。(もちろん下手な嘘ならバレるリスクもありますが…)
なお、流石に自称だと露骨なので何かしらの資格を取得した上で名乗る方法もあります。
しかし、ここで登場する資格がそもそも本当に認められているかどうか疑わしいものであったり、お金を出せば簡単に取得できる資格(=資格商法)であれば、その権威は非常に疑わしいものになります。
また、フォロワーや友達の数も購入することが可能ですし、自分で複数のアカウントを取得して自作自演でフォロワーを増やし、あたかも自分は有名人であるという演出も可能です。(もちろん、この行為は多くのSNSでは規約違反)
こうして出来上がった偽物の経歴を使えば、仮に自分の経歴が今ひとつパッとしないものであっても、簡単に権威を身に付けることができてしまうのが、リアルの人間関係ではまず見られないSNS上の人間関係の特徴と言えます。
信者ビジネスや悪徳商法の温床になる
こうして身につけた偽の権威は、その権威を盲信する人を相手にした信者ビジネスや悪徳商法に利用されます。
- 株や仮想通貨などの金融商品
- (資格商法含む)資格に関する商品
- 自己啓発セミナー、マルチ商法
- スピリチュアル関連
- キラキラ起業ビジネス
などの人間関係を現金化する側面を持つビジネスは、SNSで権威を付け、その権威を盲信する人を相手にして、グレーな商品やサービスを売りつけます。
権威主義はその権威に従う人を利用したビジネスとの結びつき強く、やたらと自分の買った商品・サービスを褒め称える一方で、購入しなかった人に対する差別や見下しの意見を主張することが多く、普通にファンを集めて行うビジネスには見られない異質さや排他的な行動がよく見られます。
フォロワーが少ない人に対する排他的な態度を生む
SNSではフォロワーの数が多ければ多いほど、なんとなく権威を感じてしまうことから、フォロワーが多い人の意見を無批判に受け入れることがあります。
しかし、フォロワーが少ない人の意見はたとえ正論や示唆に富む意見であっても「フォロワーが少ないから説得力が無い」と感じて、切り捨ててしまうことがあります。
上でも触れたようにSNSではフォロワーは購入できますが、購入したフォロワーは普段から機械的なつぶやきをしたり、全くつぶやきが無くあくまでも購入用としてしか利用されていない無機質なアカウントが大半です。
その結果、フォロワーが多い割にはコメントや拡散される事が少なく、権威をつけようと見せかけていることがなんとなくわかってしまうものです。
そんな見せかけの権威を盲信し「フォロワー数が多い事が正義、少なければ悪」という考えでSNSを利用すれば、炎上を招いたりフォロワー購入していることがバレて今までの築き上げてきた信用を失うことにつながります。
SNS上での有名人に気に入られるために馴れ合い媚び売りをする
権威主義は自分よりも権威のある人…SNSなら自分よりも人気がある人やフォロワーの多い人に対する迎合を招きます。
SNS上での有名人にお近づきになるために媚を売ったり、馴れ合いに付き合うなどして、自分に付き合うだけのメリットがあることを示そうとします。
また、こうした馴れ合いはリアルの人間関係なら全く無関係の人からとやかく言われることはないので比較的楽にできますが、SNSだと不特定多数の人から近づこうとしている様子が丸見えになります。
見え見えの媚売りで近づく態度を見て幻滅した人がフォローを外したり、露骨に近寄っていく様子に嫌悪感を覚えて友達関係を解消されるのも致し方のないことだ思います。
なお、余談になりますが「権威主義(あるいは権威主義的パーソナリティ)」という言葉そのものは、高等学校の現代社会、倫理にも登場している言葉です。