会社で人間関係を構築していく、学校のクラスに上手く溶け込むためには、自分の意見や要求ばかりを主張するのではなく、場の雰囲気に合わせて行動をコントロールしていく必要があります。いわゆる周囲とある程度同調することが重要なスキルとなってきます。
人間関係でトラブルを起こさないためには、自分の意見が少数派だった場合は多数派の意見に合わす、場の雰囲気に従って行動をする場面も必要になることがあります。
人との関わりの中で生活してく上でいつも自分のわがままが通る事はありえないので、時には自分の意見を抑えて集団に合わせるスキルは、世渡りに欠かせないスキルと言えるでしょう。
ちなみに、日常生活の中で意識的に多数派・少数派という難しい言葉はあまり使われず、どちらかといえば「みんなが」「友達が」「同僚が」というような言葉が、代わりに使われる場面の方が身近ですね。
学校でも、みんなが「みんなが進学しているからあなたも進学すべきだ」とか「みんなが就職しているからあなたも就職すべきだ」というような、「みんな」という言葉のプレッシャーに負けて、自分の行動を変えてしまった経験をした人は少なくありません。
今回はこの「みんながやってるから…」という場面で耳にする事が多い同調圧力(どうちょうあつりょく)について説明していきましょう。
同調圧力とは
同調圧力という言葉を辞書で引いてみると、以下のような意味になります。
地域共同体や職場などある特定のピアグループ(英: Peer group )において意思決定を行う際に、少数意見を有する者に対して暗黙のうちに多数意見に合わせることを強制することを指す。
これだけだとあまりピンとこない方もいますが、分かりやすく言うと自分が所属しているクラスやチーム、会社といったなどの大きな組織の意見と自分の意見が異なっている時に、自分の意見を抑えて集団の意見に合わせる事をいいます。
いわゆる、「わがままを言うのではなく空気を読んで行動しなさい!」「みんな我慢してやっているんだから、抜けがけしないであなたも一緒にやりなさい!」と感じる、無言の圧力のことです。
部活動なら連帯責任でペナルティをくらうのが嫌なのに、「自分一人だけ連帯責任から逃げて楽をさせるのはチーム全体が認めない」と感じて、本当は逃げたいのに連帯責任に巻き込まれるのも責任をとらされるのも、同調圧力の一種といえます。
同調圧力には、実際に声に出して「空気を読みなさい!」と言われてと圧力をかける形もあれば、なんとなく雰囲気で空気を読んで行動するべきだと無言で圧力をかける形もあります。
連帯責任と同じく、周囲の意見や空気によって自分の行動を抑え続けることは精神的な苦痛を生む事が多く、一般的に同調圧力という言葉はネガティブなイメージで使われる事が多い言葉です。
しかし、状況に応じて空気を読んで行動することにより仲間はずれになるのを防ぐ、自分の評価を下げたりやリストラになるのを防ぐという正の側面もあります。
同調圧力のメリット
多数派に所属することの安心感を得られる
同調圧力に従って集団の意見にあわせて行動することで、少数派にいるときよりも安心感を感じることができます。
少数派の時と比べて味方の人数が多いので、「よかった、自分の考え方は間違っていなかったんだ」という安心感や肯定感を得ることができます。
多数派に所属していることから、周囲から攻撃の対象となるのを防ぐ、少数派にいるときに感じる孤独感や寂しさを感じずに済む事もあります。これは、自分のメンタルが傷つくの回避する自己防衛行動の一種ともいえます。
またSNSのフォロワーやLINEグループのように、所属している集団の人数が今何人なのかがはっきりわかるツールの場合、数字が多ければ多いほど安心感も感じやすくなります。
協調性がある、チームワークを大切にできると思われる。
学校や会社の一員として円滑な社会生活していく上では、孤高の一匹狼を気取って周囲と協力しない、というわけにはいきません。
自分の心情やポリシーに反する相手や、「なんとなくあの人嫌だなぁ…苦手なタイプだなぁ…」と感じる人とも、時には協力して一緒に作業をこなしていく事が必要になります。
同調圧力を感じて時に空気を読んで協力して目標を達成していくスキルは、一般的にチームワークがある、社会性がある、コミュニケーション能力があるという言葉で言い表されており、豊かな人生を歩むための生き方の一つです。
同調圧力に屈っせず自分のプライドや信念をガンガン貫く生き方にかっこよさを感じる人もいます。
しかし、同様に周囲の空気や人間関係の機微を察して、一歩引いて裏方に周り集団全体の目標達成へのサポートをする生き方もまた、かっこよさを感じる生き方です。
同調圧力のデメリット
集団の空気を乱すような言動がとれなくなる
集団の空気に合わて行動するので、空気を乱すような発言や行動をすれば批判やいじめの標的になったり、裏切り者のレッテルを貼られて集団から追い出されてしまう事があります。
例えば、クラスのみんながペーパーテストで進学するのに自分だけスポーツで進学しようとしているけど、そのことを言うと友達や先輩、教師や親、から「スポーツ進学はやめておきなさい」と言われるのを恐れて、やっぱり普通に受験するというケースです。
自分としては、スポーツの実力がそこそこあって将来はプロの世界で活躍したいと思っているけど、自分の周囲にスポーツ進学をしている人がいない。
普通に受験している人が多くそれが当たり前と感じている人が多いと、自分の意見が否定されるのではないかと感じて自分の本当の気持ちを言えないまま、内に秘めてしまうことになります。
少数派の意見を押さえ込んでしまう
同調圧力には、多数派が少数派の声を尊重せず押さえ込んでしまう場面も多くあります。
少数派にも少数派なりの考えや理屈があるのですが、それを少数派だからといって切り捨ててしまっては、前向きな議論やイノベーションはうまれません。
多数派は数が多いということを武器に、少数派を追い込んで断れない状況を生むことも簡単に作れてしまいます。いわゆる「数の暴力」のことですね。
いじめの場合もいじめる側が多数派、いじめられる側が少数派になることが大半で、これにより数の暴力で多数派は少数派をいじめに逆らえない状況に追い込んでいじめているという見方ができます。
実際に「1対10」の勝負よりも「1対100」の勝負の方が、少数派の勝率は下がってしまいます。
数で相手を圧倒するというのは交渉や取引でもよく使われる手法であり、多数派の意見というのは少数派の意見を圧倒しやすいと言えるのです。
同調圧力のストレスから自分を守る考え方
多数派の意見がいつも正しいとは限らない
「やっぱり低学歴よりも高学歴の方が安心できる」「中小企業よりも大企業の方が安心できる」というような日本人の多くが持っている考え方や意見は、常に正しいとは限りません。
学歴が低くてもスポーツや芸能の分野で社会に貢献している人もいれば、中小企業であってもある分野で世界のトップシェアを占めている、福利厚生がしっかりしていて時代に合わせた柔軟な経営をしている中小企業もあります。
また、同じような考え方を持った人同士が集まることで、一時的に興奮状態になったり、感情的・衝動的な行動を取ってしまう事があります。
これは群集心理と呼ばれる状態で判断力が低下しているのでパニック状態になったり、間違った行動をとって他人を傷つけてしまう事にもつながります。
意見は時間により変化する
自分が所属している集団の意見が、このさきずっと同じまま続いていくというのは現実的に見て考えられにくい状態です。
集団のメンバーの構成員に変化がなくとも、メンバーの中でさらに派閥ができて力関係に変化が出たり、リーダー的存在が新しい価値観を身に付ける事で、今までの空気がガラッと変わってしまう事があります。
とくに安定や安心感を求める人にとっては、「できればいまの雰囲気ずっとが崩れないままであってほしい」と強く願うものですが、雰囲気を作っているのが生身の人間である以上、ずっと固定されてほしいという願いは叶いません。
例えば、地元愛が強い人なら「地元がずっとのこのままの雰囲気であってほしい」と感じるのはごく自然な感情ですが、その願いだけでは時代や人の流れについていけず過疎化で雰囲気が変わってしまうを防ぐ事はできません。
人間が生物として生きている以上、考え方はずっと固定されるものではなく、年齢を重ねたりや環境の変化によって変わっていくものであるということを覚えておく。
そして、もしも変わってしまった時は今度は自分から雰囲気をよくするために何か出来ることはないか、工夫できることはないかについて調べてみるのもストレスを抱え込まずにすむ考え方の一つです。
同調圧力の感じ方には個人差があること知る
例えばお酒の席。本当は飲みたくないのに、みんなが飲め飲め!と迫ってくるのに強いストレスを感じる人もいれば、そこまでストレスを感じない人もいます。どちらも同じ状況なのに、同調圧力の感じ方は人によって異なるのが自然です。
このように同調圧力の感じ方には個人差があり、同調圧力に敏感な人は何かとストレスをためて精神的に疲れてしまう事が多くあります。
自分が同調圧力に対して敏感なのに、無理に我慢して体調を崩してしまっては元も子もありません。
同調圧力を感じやすい人は、疲れすぎないように同調圧力を感じる場面を避けるようにしたり、何事も我慢しようとして潰れないように自分の体調を気遣うようにしていくのが効果的です。
もちろん、強いストレスを感じるから自分はダメなんだと落ち込む必要はありませんし、ストレスを感じやすいのがダメと断定するわけではありません。
一般的にストレス耐性がある方が勉強や仕事で高評価を得やすい現代では、同調圧力を感じにくい人に憧れを抱いたり、そういう人になりたいと切望する人も少なくありません。
しかし、自分が繊細なのに無理に同調圧力を感じる場面に足を運んでいる、SNSに入り浸っている場合は、疲れないためにも適宜休憩をとったり、時間を制限するようにして、自分のキャパシティを超えないように調整していくようにするのが好ましいといえます。
同調圧力を感じやすいということを頑なに認めないままでは辛くなる一方なので、「やっぱり自分は繊細なんだ」と受け入れ肯定した上で、「だったらどうすれば、少しでも楽に生きていけるか」に目線を変えて行くようにしましょう。