物音や匂い、食感といった五感で感じる刺激から、その場の雰囲気などの人間関係の微妙な変化に非常に敏感であるという気質を持った人のことを「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」と言います。
HSPの人は敏感すぎるがゆえに、生きづらさを感じたり会社や学校の人間関係にうまく溶け込むことができず苦しむことが少なくありません。
うまく人間関係に馴染んだとしても、敏感さゆえに人より傷つきやすくうつ病などのメンタルの病気になってしまったり、ストレスから体調を崩してしまうという事もあります。
また、「自分は繊細すぎる性格で苦労している」「音や匂い敏感すぎてストレスが溜まりやすい」などはあくまでも主観的なものであり、周囲からその辛さをわかってもらえない、共感を得られないこともHSPの人がよく持つ悩みの一つです。
今回はそんな敏感で繊細な気質を持つHSPの人の特徴についてお話いたします。
HSPとは
HSPとは刺激に過剰に反応してしまうという気質を持った人の事をさす言葉で、1996年にエレイン・N・アーロン博士が考案しました。
HSPは「Highly Sensitive Person」の略で、直訳すると「とても敏感な人」「非常にセンシティブな人」という意味になります。
日本ではHSPのことについて書かれたアーロン博士の著書「ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。 」でHSPという言葉や刺激に敏感な人がいるという事が知った人は多くいます。
一般的に恥ずかしがりや、内向的な人、引っ込み思案、コミュ障などと言われている性格の裏には、外界からの刺激に敏感であったり、雰囲気や他人の感情・気分に振り回されやすいHSPの気質が影響しているという考えは大きなインパクトを与えました。
HSPの人は自身が持つ刺激に対する敏感さゆえに、人間関係でつまづき生きづらさを感じたり、過度なストレスを感じて精神的に疲れてしまったり、抑うつ状態になるなどの様々な悩みを抱えがちです。
しかし、HSPという言葉自体はまだ一般的に広く知られておらず、周囲からの理解や共感が得にくい、ちょっと変わった人だと思われることがさらに生きづらさを増すことにつながっています。
HSPに見られる特徴
音・匂い・雰囲気などの刺激に敏感。
HSPの人は、
- 聴覚:騒音、人の話し声、物音など
- 嗅覚:香水、部屋の匂い、服の匂いなど
- 視覚:光や明るさ、目に入ってきた光景や景色など
- 触覚:人に触るor触られる、寒さ、暑さ、服の感覚など
- 味覚:甘い、辛い、しょっぱい、すっぱいなど
といった五感が普通の人よりも敏感です。味にうるさかったり、大きな音が苦手であったりすることがあります。
また、敏感なものは五感に限らず
- その場の雰囲気や空気
- 直感や勘
- 他人に対する深い共感
などの、あらゆるものに対して敏感であり、中にはオカルト、霊感、占いなどのスピリチュアル趣味に才能を発揮する人もいます。
しかし、これらの敏感さを他人に理解してもらおうとしても、「神経質」「気にしすぎ」と言われることが多く、なかなかHSPの悩みや苦しみが周囲からわかりにくいので悩みを相談しても軽く受け流されてしまうことが少なくありません。
他人との心理的な境界線が薄く影響を受けやすい
HSPの人は自分と他人との心理的な境界線が薄く、相手の気持ちに大きく左右されたり、また相手の気持ちに強く依存してしまうことがあります。
例えば、自分に関係ない誰かが怒られている場面を見ると、それに強く影響されてしまい「私が何か怒らせるようなことをしちゃったのかな…」「なんかこっちまで怒られている気分になってしまった」と、自分が怒られているわけではないのに、罪悪感や申し訳なさを感じることがあります。
当然、自分にとって全く関係ない他人が怒られているのであればそこまで気を病んだりビクビクする必要はないのですが、自分は自分、他人は他人という識別が苦手で精神的に疲れてしまいます。
もちろん、怒られる場面ではなく、恥ずかしい場面を見る、笑いものにされる場面を見る、いじめや嫌がらせをされている場面でも、上の状態になって疲れてしまうことがあります。
「自分は自分、他人は他人」と言うのは、どこか薄情な人と思われがちですが、他人の感情や雰囲気に翻弄されて自分も感情が左右されてしまい疲れ果ててしまうのを避けるためには身に付けておいて損はないスキルなのです。
共感力が強すぎて気遣いしすぎてしまう
他人との境界線が薄いということは、それだけ相手に対して深く寄り添い、強く共感することができる人といえます。
人と仲良くなる上で共感することは大事なことですが、HSPの人は共感力が強すぎるゆえに、あれもこれもと気遣いしすぎてしまう傾向があります。
気遣いされるのは最初のうちはありがたいですが、そのうち鬱陶しがられたり「何か裏があるのでは?」と疑われることもあります。
いわゆる恋愛や人間関係で「尽くす」タイプの人は共感力の高さが尽くすという行動に表れていますが、その尽くしている事に甘んじてお金や関係を要求されることもあるので注意しなければいけません。
たくさんの人が集まる場所が苦手
学校の教室や満員電車などのたくさんの人が一つの場所に集まる場面には、たくさんの人の会話や大声といった刺激が多いために、これに過剰に反応してしまいます。
会話の話題が自分に関するものでなくても、音や雰囲気、会話のトーンに敏感に反応してしまうので疲れてしまいます。
また、一般的には楽しいはずの飲み会や宴会、同窓会などの席でもHSPの人にとっては刺激が多く安心できない場所のように感じていることもあります。
宴会の場で多くの人から見られていると感じて、うまく話題をフラれても過度に緊張して言葉が出てこない、挙動不審になってしまう事も多く、そのことで自分にはコミュニケーション能力がないと自分を責めてしまうこともあります。
忘年会や新年会などのどうしても参加しなければいけない飲み会に参加してなんとか乗り切ったとしても、家に返って落ち着いた途端に緊張の糸がプツリと切れ、今まで溜めていた疲れがどっと出てしまうということもあります。
自分が苦しくなってまでも他人に貢献してしまう
他人との境界線が低いことから、困っている人を見るとなんでもかんでも「自分が助けて上げなければ!」と感情移入してしまうことが多くあります。
良心的で優しく相手を助けようと思う一方で、困っている相手の暗い生い立ちやひどい生育環境などにも強く影響されて、自分のことではないのに非常に気分が沈んでしまうことがあります。
また、困っている人を助けられない、勇気づけられない時には「自分はなんて非力な人間なんだ」と自己否定や自責感情に悩まされ、自分で自分を肯定することが困難になってしまいます。
他人に強く共感して優しく接する良心を持っているがゆえに、その良心の呵責や自分のいたらなさ、情けなさにも人一倍敏感であるといえます。
もちろん、困っている相手にもそれ相応の原因があるのだから自分が気に病む必要は無いと言う意見はごもっともですが、HSPの人は困っている人が発する雰囲気や態度を敏感に感じ取りそれを無視することが困難なのです。
心が繊細で傷つきやすく自己肯定感が低い
繊細であるがゆえにちょっとしたことで心が傷つきやすく、そして傷ついた心が癒えるのに時間がかかってしまうことがあります。
HSPの人は自分の身に起きた怖い出来事や強い怒り、悲しみを覚えた出来事が記憶に残りやすく、そのことが原因でネガティブな気持ちが残りやすく、気持ちの切り替えがうまくできないことで苦しんでしまいます。
また、厳しい家庭で育ち両親から「小さいことでクヨクヨするな!」「それぐらいのことでビクビクするな!」と言われ続けてたことで、自己肯定感が低く自分はダメな人間なんだとネガティブな考えに縛られている人もいます。
他の子はなんとも思わないようなことにいちいち反応したり、気分が動揺してしまうことから「自分は他のことは違う変な子なんだ」と自信を失い、そのまま大人になったり、周囲とは異なる自分にコンプレックスを抱いていることもあります。
HSPは敏感すぎる事を他人から理解されにくいという悩みも
暑がりや寒がり、辛党や甘党、鼻が利く、猫舌という言葉のように、人間の感じる感覚には個人差があり、ある人にとってはその刺激がきつすぎて困るという経験は誰でもしたことがあると思います。
しかし、HSPの人は上にあげたわかりやすい感覚だけでなく、人間関係の雰囲気や感情といった曖昧で鈍感な人には気づきにくいものに対しても過敏であることが多く、なかなか辛さが理解されないということが少なくありません。
家族や友達などが鈍感な人ばかりしかいないと、自分の持つ過敏さをいくら説明しても理解されにくく、「考えすぎだ」「思い込みじゃないの?」と言われて、「自分は普通ではない、おかしいんだ」と自分を責めてしまうこともあります。
また、自分が何に対して過敏なのか、どんな風に感じるのかという事を言葉で説明できない人もいるため、周囲に説明して理解を得る段階まで進んでいないということも起きてしまいます。
HSPは悪いことばかりではない
HSPで生きづらさを感じる一方で、HSPの持つ繊細さや敏感さ活用して、絵を描くことや楽器を演奏するなどの芸術活動に熱中し、素晴らしい作品を作っている人もいます。
一般の人が感じ取れないメッセージや感覚は、芸術活動のような独自のセンスやクリエイティブさを求められる環境では一種の才能であり、仕事や趣味に役立つこともあります。
また、独自の世界観を抱くことにも得意ということが多く、自分の感覚を通した感じた事を作品に吹き込み、独自の世界観を持った個性的な作品で人々を魅了するとも言われています。
繊細さが活かせるのは芸術だけではなく、ファッションやデザインなどのセンスが活かせる仕事や繊細さを活かしたものづくりの分野の仕事で自分の特徴を生かすことができます。
また、最近では在宅ワークのように、職場に行って直接コミュニケーションをせずとも働けることが広まっており、満員電車やオフィス内での人間関係などのHSPの人が苦手な場面を避けて、なるべく安心できる状態で仕事をするという選択肢を取る人も出るようになっています。
HSPのことがわかるおすすめの本