話し合いミーティングで議論が白熱するあまりに、なんだか穏やかじゃない方向に話が進んでしまったという経験はございませんでしょうか。
話し合いで意見が極端なものになってしまう現象は、心理学では「集団極化」と呼ばれています。
話い合いをする目的は、誰か一人の意見で勝手に決めつけることのリスクを避け、なるべく極端に走らずならず、リスクが少ないものにするために行われるのが一般的です。
しかし、実際は人間は話し合うことで意見が極端な方に傾いてしまう性質があることが心理学の実験でもわかっています。
また、意見が極端になると言っても、「リスクをとるべき、どんどん行動すべきだ!」と積極的な意見に偏ることだけでなく、「リスクをゼロにすべき、もっと慎重になるべきだ!」という消極的な意見にも偏ることがあります。
いわゆる、革新派と保守派のように、話し合いはどちらか両極端な意見に偏りやすいという性質があるのです。
今回は、集団極化に関してお話いたします。
話し合いで意見が極端になってしまう原因・背景
話し合いの過熱が意見を極端にしてしまう
話しあうときに、つい負けたり論破されるのを恐れて強く言ってしまったり、勢いに任せて感情的に話してしまうことがあります。
また、人によっては話し合いに勝ち負けを求める人もおり、勝利を得るためにとにかく多くはなしあう、なるべく長い時間話したがる、大きな声や威圧的な態度で話した結果、だんだん話題が極端に陥ることがあります。
話し合いは多数派の意見の引っ張られる傾向がある
例えば仕事で新規事業を始めようとする場合、一人で新規事業のアイデアを出すことよりも、何人かで話し合ったほうが様々なアイデアが出やすく、よりよい結果が導け出せそうになります。
しかし、集団で話しあう場合、一人で考えるのとは違って多数派と少数派が生まれ、そして多数は多数派であるために、多数派に取って都合のよいアイデアがたくさん出やすいという特徴があります。
多数派がたくさんの意見を出せば出すほど、少数派の人のアイデアの少なさが目立ち、多数派の意見が正しく見えてしまう、多数派についた方がメリットがあると感じて、少数派の人は多数派に移ってしまうと考えられています。
また、「多数派にいれば安全」「多数派の方が正解に違いない」という考えに陥りやすいことも、意見が極端になる一因と考えられています。
多数派の影響力が強いほど意見は極端になる
多数派・少数派に別れて話し合いをする場合、少数派派は大抵の場合苦戦を強いられます。
一方多数派は、多数というだけでこちらの方が話し合いでは優勢であるという安心感が得られるので、話し合いでも少数派を圧倒しやすくなります。
しかし、多数派と少数派に別れても、極端な意見に傾くかどうかは多数派の影響力(立場、主張の内容、どれだけ占めているか…など)に左右されます。
多数派が話し合いの場で少数派と比較して立場がはるかに上である、強い主張を持っている場合派、より極端な意見に傾く傾向があります。…(1)
一方で、多数派が少数派と比べて少し優勢な程度であれば意見は少し極端になるだけに留まります。…(2)
偏り具合を0~100の間で点数化すると、完全な中立が50点、両極端を0点、100点とした場合(1)の場合は10点or90点、(2)の場合は40点or60点という具合です。
もちろん極端にならなかったから大丈夫というわけではなく、大抵の場合、話し合った意見はある程度中立な意見から偏る傾向があるということを覚えておきましょう。
極端になる意見は2パターン
革新的になる「リスキーシフト」
会社の会議などで
- 「リスクを取って事業を展開すべきだ!」
- 「もっと事業を拡大すべきだ」
- 「見積もりを下げてもっと仕事を集めるべきだ!」
と、リスクを取る論調に傾く事をリスキーシフトと呼びます。
リスキーシフトは、話し合いがより危険でリスクの高い方向に傾ることを指します。
リスキーシフトによる話し合いはリスクを取ることばかりで盛り上がる一方で、責任の所在が不明確である、危険なことを危険だと認識できず議論が突き進んでしまうという特徴があります。
リスクを取るというのは必ずしもメリットばかりではなく、自分たちに経済的な損失であったり、怪我などの危険が出ることもありますが、リスキーシフトの状態になると、目の前のリスクの多さよりも、その先のリターンにばかり注目してしまう傾向があります。
また、話し合った結果、意見が攻撃的になることもあり、部外者に対して排他的な態度をしたり、集団がカルト化してしまうこともあります。
保守的になる「コーシャスシフト」
- 「もっと堅実な事業をするべきだ」
- 「この新規事業は前例がないから控えるべきだ」
- 「何かに挑戦するよりもまずは現状維持を優先」
と、リスク回避に意見が傾く事をコーシャスシフトと呼びます。
コーシャスシフトは一見すると堅実で真面目なように見えますが、リスク回避のために何もしないことを選びがち、現状維持ばかりで新しいことができなくなるという特徴があります。
安全性の高い方向に意見が偏ることで、話し合いをしても無難なところでまとまってしまう、多数派が現状維持を望んでいるために、斬新な意見が生まれない、人間関係が硬直してしまうなど原因になります。
リスク回避ばかりに目が言ってしまうと、責任が取れなくなる、リーダーシップのない人間だと思われてしまう原因になります。
失敗を過度に恐れていたり、とにかく安定が一番と考えている人ほど、コーシャスシフトに流されやすくなります。
無論、いつでもリスクを積極的に取るべきだというわけではありませんが、リスクを取って失敗ことを恐れるあまり、進学や就職がどれも無難で当たり障りがなく自分を磨けなく一因となってしまいます。
リスキーシフトと比較するとコーシャスシフトは賢明だと思われることもありますが、保守的な考えに凝り固まることにも欠点があることを覚えておきましょう。
SNSの炎上も集団極化が原因
同じ意見を持った人同士で集まり、お互いに言いたいことを気軽にいいやすいSNSは、意見が過激になりやすく集団極化が顕著になる環境と見ることができます。
意見が合わない人は友達を解除する、ブロックやミュートで関わりを遮断することが容易にできてしまい、気が付けば似た意見をもつだけでなく、より過激で極端な意見を持つ人同士があつまりやすく、そして炎上を引き起こす原因となります。
SNSで炎上すると、炎上した人に対して攻撃的な言葉を書き込んだり、嫌がらせをする人が次から次へ、とめどなく出てきます。
これは、炎上をやめるように書き込んだり、炎上の様子を見ていた人達よりも、炎上をより悪化させる人の方が多数派であるために、少数派の人が炎上に加担しても大丈夫だと考えがシフトするためにヒートアップしてしまうのです。
炎上は現実世界の話し合いと違って書き込みという形で記録が残り、後から炎上騒ぎを知った人でも容易に炎上の経緯が確認できてしまうため、後から知った人も炎上に参加しやすいのです。
炎上の規模が大きければ大きいほど情報はストックされ、多数派になびく人が時間差で増えてしまい、炎上はより過激なものへと悪化してしまうです。
同様の現象は、他にもスマホゲームの運営に対するコメントの移り変わりを見ていても見られます。
例えば、サービス開始時は比較的運営に対して穏やかな意見が多数派を占めていたために、全体的には穏やかな意見に傾いていました。
しかし、次第に運営に対する不満やストレスが溜まり、徐々に否定的な意見が湧き出て多数派になってしまうと、一転して意見は攻撃的なものばかりに染まってしまうという具合です。
ちなみに炎上の場合、炎上をやめるような書き込みをすると「火消し」「お前はバイトか」「信者」と、炎上を更に盛り上げてしまう原因になったり、自分まで炎上に巻き込まれて個人情報を暴かれ拡散されてしまうリスクがあります。
大抵の人の場合、そんなリスクをとってまで擁護する書き込みはしないものです。擁護するリスクとそれによるリターンを天秤にかければ、擁護せず関わらないようにするものです。
また、炎上をさせたい人は、炎上をさせるために場合によっては複数のアカウントを使って書き込むこともあります。
そのトリックを知らずに炎上の様子を見た人は、あたかも「多くの人が炎上に加担している」と感じてしまうことも少なくありません。
実際は少数の人が炎上を騒ぎを繰り広げているのにもかかわらず、多くの人がネットで特定の人物や団体を叩いているように見えてしまう構図がSNSでは生まれやすいのです。
(SNSとの上手な付き合い方に関する記事も書いていますので、ご興味のある方はこちらからご覧下さい。)