部活動をしていると、いつも怒られてばかりいる部員を見かける、あるいは自分が怒られてばかりの張本人になっていることが、ひょっとしたらあるかと思います。
怒っている指導者は、何かしらの意図や目的から怒っているのだとは思いますが、その意図がうまく伝わっていなかったり、ただ怒りっぱなしで反省点や改善点まで指導できていないことで、結果としてなにも学ぶことがなかった…という場面がよくあるものです。
どうしても怒るというと
- 怒鳴る
- 感情を荒げる
といった「キレる」とさほど変わりないものになり、反省や改善を促す「叱る」とは程遠くなります。
今回は、そんな叱る…ではなく、あまり建設的ではない怒り方をしているコーチ・監督を反面教師とできるよう、怒り方のパターンについてお話いたします。
部活であるよくあるダメな怒り方の例
否定だけして具体的なアドバイスがない怒り方
指導する際に、「あれはダメ」「こんなプレーでは負ける」などの否定的な指摘はするものの、具体的にどこをどう改善していけばいいプレーになるのか、勝てるプレーができるようになるのか…というまで踏み込めていない怒り方です。
指導されている側からすれば、自分のプレーで何がダメなのかは自覚できるものの、ではどうしたらそのダメな所を改善できるのかがわからないままオロオロしてしまい、その様子をみて更に怒れてしまうことで、部活そのものが嫌になる原因になります。
例えば、陸上競技の場合「そんなフォームで走っていたらダメだ」と指摘はするものの、
- ではどんなフォームで走ればいいのか
- 身につけるべきフォームは何を参考にすればいいのか
- 今のフォームは何に、どんなことに影響があるから改善しなければいけないのか(例:疲れやすいフォームだから改善すべき、怪我をしやすいフォームだから改善すべき等)
などの、より具体的に突っ込んだアドバイスをして、成長へと繋げる指導にしていくことが理想です。
なお、指導者側が「自分の弱点や改善点を自主的に本で調べるなり、先輩や指導者で自分に聞いてくるなりする向上心のある部員になってほしい」という方針で指導のために、あえてあれはダメ、これはダメという否定的な指摘を繰り返していることも考えられます。
しかし、なんでも否定する指導をしていると普段怒ってばかりの指導をしているために「何をしても怒る」というイメージついてしまい、相談しようにもしづらくなってしまうリスクもあります。
いざ相談しようとしても
- 「そんな些細なことで相談しにきたのか」と嫌味を言われるかもしれない…
- 「相談するだけで指導に文句をつけにきたのか」などと言われるかもしれない…
というネガティブなイメージがつきまとうために、相談したくてもできず、ダメなところが改善されないまま放置される原因になります。
「やる気がないなら帰れ」などのダブルバインドな怒り方
部活動でよくある
- 「やる気がないなら帰れ」
- 「怒らないから正直に言いなさい」
- 「どうして怒られているのかわかるか?」(=なぞなぞ形式の怒り方)
など、どう答えても怒るというオチになる怒り方は、心理学ではダブルバインド(二重拘束)と呼ばれています。
「やる気がないなら帰れ」という言葉には
- やる気があることを示した場合「いいからさっさと帰れ」と言う。
- やる気がないから帰ろうとした場合「お前はそれぐらいで帰るのか!」と怒る。
という、やる気の有無に関わらず、一方的に相手の行動をコントロールしようとしたり、相手に対して優位であるというマウントを取って支配することができます。
しかし、そんな帰ったらいいのか、帰らない方がいいのかという謎や矛盾を抱えた言葉で指導をしてしまうと、今まで築き上げてきた信頼関係を失う原因になったり「このコーチ(監督)は矛盾が多く、行き当たりばったりな指導をしている」と感じて、部員からの失望を招きます。
とくに、ダブルバインドでの怒り方は、立場が上の人が下の人に対して行われれる怒り方であり、立場が下の人は矛盾を感じても指摘しづらい。
仮に指摘しようものなら、指摘したことそのものを怒られてしまうので、その場にいる人が黙ってしまい練習時間だけが無駄に過ぎてしまう(もちろんそれも怒りの材料になる)ことになり、後味の悪さばかりが残ってしまいま。
話を最後まで聞かず持論を展開する怒り方
これは、部員が指導者に対して説明や質問をしている時に、その話を最後まで聞かず「いや、それは違う」「お前はなんで怒られているのかわかってない」とマウントをとる怒り方です。
一見すると、怒られている側の話を(一応でも)聞いているので尊重しているように思えますが、結局は話の内容は聞かずにコーチ自身の思い込みや決めつけを強制的に押し付けるために怒っているのと変わりはありません。
また、せっかく勇気を振り絞って説明をしているのに、それが途中で遮られてお説教されると、「結局何を話しても指導者は自分の話を聞いてくれない」「話を聞く素振りだけで、意見は尊重されない」と感じて、次第に話をすることすらしづらくなるなります。
ミスをしても怒るとき、怒らない時の2種類ある怒り方
ミスをして怒る時もあれば、怒らずに放置されるときの2種類あり、なんで怒られるのか…という怒る根拠が定まっていないことで混乱してしまいます。
とくに「飴と鞭」の指導を心がけているものの、何をすれば褒めるのかor怒るのかを具体的に決めていないので、気まぐれで怒っている、その日の気分で怒っていると感じるものです。
また、個人に対して怒るだけでなくチーム全体で見ても、ある人に対してミスをよく注意する一方で、他の人に対しては同じようなミスをしても軽く怒るだけという不公平が生じるので、「このコーチ(監督)はえこ贔屓をする」人だと見られることもあります。
もちろん、全ての部員を対等に扱うことは現実的には難しいとは思いますが、あからさまに怒ってばかりの人、逆にミスをしても全然怒らない人が同じ部にいるとチームの雰囲気が悪化する原因になります。
反骨心やハングリー精神を引き出すために怒る
汗と涙と根性丸出しのスポ根漫画のように
- 「怒られてばかりで悔しくないのか」
- 「怒られてばかりでカッコ悪いと思わないのか」
のように、怒ることで反骨精神やハングリー精神を刺激して、やる気を出させるためにあえて強く怒ることもあります。
いわゆる一昔前のスパルタ教育、暴力的な指導が当たり前の頃なら部活に限らず学校や家庭でもよくあった教育方法です。
しかし、最近は体罰、パワハラ、モラハラなどの概念が浸透したことや、少子化も相まってこの指導方法では脱落してチームの存続が危うくなるリスクもあるので、あまり見られなくなっています。
また、何度も怒り続けることは決して効果的とは言えず「学習性無力感」を招き、どうせ頑張っても無駄だということを学習してしまい、かえってやる気を失うことにもつながります。
部活動と言っても、皆が皆全国出場や自己ベスト更新などの高い目標を持って参加しているわけではないので、高い目標を目指していない部員に対して、頭ごなしに怒ることはミスマッチです。
ミスが多い部員をスケープゴートにして怒る
これは、部内である一人にターゲットを絞って他の部員の気を引き締める意味で公開で説教をするような怒り方です。
スケープゴートとは生贄、身代わりという意味の言葉です。誰か一人を公開説教で怒ることで「同じようなミスをしたら、今度はお前がこうやって怒られるんだ」というメッセージを伝えることができます。
もちろん、スケープゴートになった部員は他の部員の視線(場合によっては部外の人もいる中で)怒られることで強いストレスを受けることは避けられません。
また、その様子を見ている部員も気は引き締まりこそしますが、一方で「失敗したら今度は自分が吊るし上げられる」と感じて、失敗しないような消極的なプレーに徹したり、チャレンジ精神が失われてしまうリスクもあります。
自分の指導は完璧であるという思い込みで怒る
コーチ・監督という立場上、部内においてはなかなか意見できる人が少なく、部員に対してはビシビシ指摘する一方で自分達は指摘されることが少なくなるものです。
そのため、自分の指導方法を客観的に見ることができなくなり、自分の指導法は絶対、完璧であると思い込みが強化されてしまうことがあります。
この完璧であるという思い込みから、自分の指導に対して文句をいう部員だけでなく質問を疑問を持つ部員ですら、完璧な指導法を揺るがす存在だと感じて厳しく怒鳴りつけてしまうことがあります。
また、完璧だと考えているが故に部員に対して聞く耳を持とうとせず「俺のやる通りに練習すればいい」と押し付けや強制の色が強い指導へと繋がることもあります。
ちなみに、立場が人をどう変えるかについてはスタンフォード監獄実験を参考にするとよいでしょう。
怒りではなく叱って諭せる指導者を見抜こう
体育会系部活動や全国レベルを目指している意識の高い人ばかりが集まる部活動だと、叱って諭したり反省を促すような指導ではなく、怒ることで恐怖やプレッシャーを与えた指導法が行う人が依然として多く、実際に大会などで成果を上げているのも実情です。
上で述べたような、反省や改善につながらないその場だけで感情を爆発させるような怒り方などをしている人ではなく、しっかり反省すべき点を洗い出してちゃんと諭せるような指導者を見抜く目を養っておくことが大事だと思います。
感情を爆発させて怒りっぱなしにするのはとても気楽であり、下手をすれば自分の思い通りに人の支配する快感に溺れて、怒ることが癖になったりモラルハラスメントの加害者になってしまう人もいるものです。
感情の爆発に走らず、冷静に反省すべき点を一緒に探すことができる、部員の目線に立って解決すべき課題・問題を見つけることは非常にめんどくさいのであまりやりたがらない人が多いと感じますが、一方でこのめんどくさい作業ができるようになれば部活に限らず、勉強や仕事の場面でも重宝されるのではないかと思います。
参考書籍
選手に寄り添うコーチング―いまどきの選手をその気にさせる42の実践レッスン