仕事でミスをしたり、部活で怒られるようなことをした時に、サザエさんの波平のように「バッカモーン!」と怒鳴られることはあるかともいます。
誰かを怒る時に「怒鳴る」という方法で怒っている人はよく見かけますが、その怒鳴り声が苦手だったり大きなストレスになっている人は少なくありません。
大きな声そのものが爆発音のように心理的に強い刺激になるので、聞くだけで心臓がバクバクしたり、冷や汗や緊張などのストレス反応を体に引き起こす原因になることはあまり知られていません。
たしかに何か悪いことをしたときは淡々と怒りを表現するのではなく、力を込めて大声で怒鳴ることで、相手に反省を促す、悪いことをしたと自覚させる効果はありますが、一方でこの「怒鳴り声」が逆効果になり、しっかり反省を促せない、反省してないから同じミスを繰り返してしまう、という残念な結果に繋がることもあります。
また、怒鳴り声のような大きな音に耐性が無い人は、大声で叱られることによって精神的にパニック状態になり、PTSD(トラウマ)を抱えてしまう原因にもなってしまいます。
今回は、良かれと思って怒鳴ったことが、かえって逆効果になってしまう事について詳しくお話いたします。
怒鳴り声に効果があると思われる背景
大きな声で迫力を付けることで事の重大性を強調できる
ショッピングモールなど供にいうことを聞かせるために、大声で怒鳴る親御さんを見かけた経験は誰にでもあることだと思います。
大人ほど語彙力もなく快・不快に基づく感情的な行動を取ってしまいがちな子供に向かって、静かに冷静に叱りつけるのは即効性がなく、また叱られている子供自身も親が怒らせているということに気付きにくいものです。
そういうときに手っ取り早く怒りを伝えるのが怒鳴り声によって迫力をつけることです。
静かな声よりも迫力のある大きな声で叱ることは、「お母さんorお父さんは怒っている!」と分からせることができて、やんちゃをいたずらをストップさせる効果があります。
分別のつかない子供相手に怒鳴るという叱り方は有効な手段の一つですが、当然ながら大人同士の関係だと相手を子供扱いしている、怒鳴らなければいけないほど幼稚な人だと思われてしまうこともあります。
「しつけ=ただ大声で怒鳴る」と考えられている
怒鳴ることそのものが、しつけ、指導の一部であると考えている人は多くいます。とくに、年配の方や昭和生まれの方のように、年を取ったひとほどこの傾向が強く出ます。
最近ではあまり聞くことはなくなりましたが、一昔前は「カミナリ親父」という言葉のように、カミナリを落とすように怒鳴る親父(お父さん)が、当たり前のようにいました。
最近では、大声を出してどなる人も見ても「情緒不安定な人」「なんだか近づきたくない人」「プライドが高そうでめんどくさい人」という見る人も増えて、パワハラという言葉が一般的になり、怒鳴る人そのものは少なくなっています。
しかし、幼い頃から怒鳴り声と共に育ってきた人にとっては、「しつけ、指導=怒鳴る」と考えている人は少なくありません。
急に大声を出せば相手を威圧できると考えらているから。
大声を出して怒鳴るというのは、犬などの動物が吠えて相手を威嚇するのと同様に、相手を威圧して恐怖感を与えて行動をコントロールする側面があります。
犬の場合は、威嚇をすることで
- 相手に恐怖感を与える。
- 自分のほうが強いことをアピールする。
- 自分に攻撃をするのなら、やり返すことをアピールする。
などの効果があります。
人間の怒鳴り声も同様に。
- 相手に恐怖感を与える。(そして黙らるなどで後の行動をコントロールする)
- 自分は怒鳴れるほど立場が上だとアピールする。
などの効果が怒鳴ることで発揮されます。
しかし、怒鳴ること自体が少なくなった現代では、所かまわず怒鳴るのは自分の評価を下げたり、パワハラの原因となるのでおすすめできる方法ではありません。
怒鳴る以外での怒り方、反省の仕方を身に付けることで、トラブルの少ない人間関係を作ることができます。
怒鳴り声で叱りつけても効果が薄くなる理由
立場を利用して怒鳴るのは、怒られる側には過剰なストレスになる
怒鳴る場面というのは、主に…
上司→部下、先輩→後輩、親→子供、先生→生徒
というような上下関係がはっきりしているときです。
この立場を利用して怒鳴りつける行為は、怒鳴られる側に過剰なストレスを与えるだけでなく、恐怖感を抱かせたり怒鳴られたことそのものがトラウマになってしまうことがあります。
怒鳴られる側にしたら自分よりも権力や実力があり立場が上で、心身共に追い詰めらている状態なので、冷静でいられないのも無理はありません。
また、上下関係で上の人が下の人に対して怒鳴るのは簡単ですが、逆に下の人が上の人に対して怒鳴るというのはやりにくく、仮に怒鳴るにしても勇気がいるものです。
立場上怒鳴れる身分ではないのに怒鳴ることで、周囲から浮いてしまうことを恐れたり、「上の人に逆らった」と罪人のように扱われてしまうことを考えれば、立場に逆らった行動はしにくいものなのです。
怒鳴り声でパニック状態になり、冷静に話が聞けなくなる
怒鳴り声のように大きな音や声が苦手な人にとっては、怒鳴り声を聞くだけで精神的にパニックになり、冷静に怒られている言葉を聞くことができなくなります。
パニック状態なので、なんで自分が怒られているのか、次に怒られないためにはどうすべきかという建設的な考えをする余裕はなく「はやくお説教が済んで欲しい」という感情で頭の中がいっぱいになります。
また、人によってはパニックのあまり涙を流したり、ひと目も憚らず泣き出すこともあり、怒っている側も混乱させてしまったり、「泣けば済むと思っているのか!」と怒りをヒートアップさせてしまうことにもなります。
叱る方も興奮して、伝えたいことが伝わりにくくなる。
怒鳴り声を出すときはどうしても興奮してしまうため、このお説教を通して何に気づいて欲しかったのか、反省点や改善点は何だったのかを冷静に伝えにくくなります。
また、つい感情的になってしまい、普段なら言えないような個人の人格を否定する言葉(バカやアホ、ブスなど)を言ってしまう原因にもなってしまいます。
怒鳴ることによって、今まで我慢していた感情が一気に吹き出す、いわゆるキレてしまう傾向がある人は、怒鳴ること以外で相手に反省を促せるようにしていくことが重要になります。
怒鳴り声がトラウマになり、怒られる場面を避けるために消極的になる
怒鳴られたという経験が、ただ自分の生命を脅かす恐ろしい出来事(=トラウマ)として残り、自分が怒鳴られたり誰かが怒鳴られたりするのを見ると、当時の記憶が蘇ってしまうことがあります。
トラウマには、当時の記憶が無意識のうちに蘇って発作や発汗、パニック症状に苦しむ「再体験」。トラウマの原因となった出来事からなるべく避けるように行動する「回避」。気持ちが落ち着かず、常にイライラしている、興奮して眠れなくなるなどの状態になる「過覚醒」といった症状があります。
怒鳴られたことがトラウマになると、自分や誰かが怒鳴られたときにパニックになったり、怒鳴られる場面そのもの避けるために挑戦しなくなったり、怒鳴られたあとに仕事が雑になる、パフォーマンスが低下する、過度な疲労に襲われてしまうことがあります。
怒鳴られた経験がトラウマとなってしまうと、その苦しみが時間差で何度でも繰り返してしまうので、トラウマにならないような刺激が少なく、且つ前向きな反省ができるような叱り方を身につけていくことが大切です。
アメリカでは怒鳴る教育法は「不適切な養育」に
アメリカでは1980年頃から「子供を大声で叱責する」ことは「不適切な養育(マルトリートメント)」と表現されています。
子供の養育の分野において、「大声で怒鳴る」という行為は子供に恐怖感を与えることが主な目的になってしまい、どうすればミスを防げるか、道を誤らないように正しく導けるかという目的がすっぽり抜けてしまっています。
また、大声で怒鳴ることはネグレクトや暴言を吐くなどの心理的・精神的虐待の一種と考える見方もあり、大声で怒鳴るのが子育てや教育で珍しくない日本は、知らず知らずのうちに不適切な接し方をしてしまっているということになります。
なお、日本でおこなわれた研究によればマルトリートメントを受けた人は、そうでない人と比較して人の話を聞いたり、会話をすることに過度な負担を感じる傾向があり、人とうまくコミュニケーションができなくなることがわかっています。
また、マルトリートメントを受けた人は、過度の不安感や学習意欲の低下、うつ病などを引き起こしてメンタルを病んでしまう可能性もあります。
怒鳴り声に頼らない方法でしっかり反省を促せるように
大きな声を出して叱る、というのは叱る側にとっても「ちゃんと叱ったからもう大丈夫だろう」「これだけ怒鳴ったのだから、しっかり反省するだろう」という満足感、達成感を抱かせてしまうものです。
しかし、叱られた側は内心冷静でいられなくなったり、手汗や脂汗がダラダラ吹き出して反省どころではなく、傍から見ていると「本当に今のお説教に効果があったのだろうか?」と疑問に思う人も少なくありません。
体育会系にいたり、大声を出すのが当たり前の環境で育ってきた人ほど、仕事や学校、家庭でも「声を出す」という事に効果があるという考えが根強く残っていますが、当然ながら逆効果になる人もいるということを覚えておきましょう。
そして叱る側も叱られる側も、ちゃんと正しく導けるような反省の仕方を身につけるようにしましょう。
怒鳴り声に任せるのではなく、例えば文章や図で説明する、宿題のように何度か分けて繰り返し行うなどの対策を立てて、失敗を失敗のまま終わらせず、ちゃんと失敗から学習して自分の知識や技術に還元できるようなコミュニケーションの方法を身に付けるようにしましょう。