大学のサークルの飲み会や、仕事や飲み会に関しては
- 飲み会は親睦を深める効果があるから積極的にやるべき
- 飲み会はただ苦痛で親睦が深まらないから積極的にやるべきではない。
という対立する議論はよくあり、テレビやネット、SNS上でも、どちらの意見に共感できるか…という内容でアンケートが行われることがあります。
心理学においては「飲み会は親睦を深める」という意見も「飲み会は親睦を深めない」という意見もどちらも説明できるだけの理論があり、どっちか一方のみ正解というわけではありません。
(このブログのように)ネット上だと、どちらかと言えば飲み会に関して否定的な意見が目立ちますが、飲み会も適度に使えば相手と親睦を深めることができるようになります。
今回は、飲み会に関する心理学の知識・雑学についてお話いたしします。
飲み会とランチョンテクニック
飲み会のような食事の場面に関する心理学用語として「ランチョンテクニック」と呼ばれるものがあります。提唱したのはアメリカの心理学者ゴリー・ラズランです。
ランチョンテクニックとは、会食をしながら取引先などの仕事相手と話し合いや商談をすることを指す言葉で、至ってシンプルで普段から何気なくしている人も多いであろう行動です。
人間は食事をする事により、幸福感を感じさせる神経伝達物質のセロトニンが分泌され、相手に対して親しみを感じたり、和やかな雰囲気で商談に打ち込むことができるようになります。
誰かと一緒にご飯を食べながら話し合ったほうがより親しみやすさを抱いたり、ただお喋りするよりも、お菓子や飲み物を口に運びながら話したほうが、和やかな気持ちになれるのはランチョンテクニックによるものだと考えることができます。
なお、英語で「ランチョン(Luncheon)」は、「ランチ(lunch)」同様に昼食という意味がありますが、ランチよりもやや形式ばった昼食、政治家同士の会食やフォーマルな場面での昼食というニュアンスを持っています。
ランチョンテクニックを元に考えれば、飲み会の場合でも、当然ながら食事をするのではセロトニンは分泌されるので、幸福感を感じたことで「親睦を深められる」という意見が正しいと考えることができます。
しかし、「ランチョン」とあるように大抵の飲み会は昼ではなく夜に、そしてお酒も入ることから、ランチョンテクニックよる幸福感がお酒による失態で打ち消されてしまうこともあり、万能とは言えません。
飲み会とパブロフの犬
先ほど触れた心理学者のゴリー・ラズランは、心理学で条件反射を証明した「パブロフの犬」の実験に影響を受けてランチョンテクニックを提唱しました。
パブロフの犬の実験の内容は
1. イヌにメトロノームを聞かせる。
2. イヌにえさを与える。イヌはえさを食べながらつばを出す。
3. これを繰り返す。(上記の二つのプロセスを条件付けという)
4. すると、イヌはメトロノームの音を聞いただけで、唾液を出すようになる。
(wikipedia 「条件反射」より)
というもの。
実験では「メトロノーム(音)を聞く」と「つばを出す」という全く無関係の現象が結びつく現象を明らかになり、主に人間以外の動物にみられる現象を証明しました。
ゴリー・ラズランは、このパブロフの犬の実験を知って「人間でも同様のことが起きるにはずだ」と考えてランチョンテクニックを提唱したという背景があります。
パブロフの犬の実験をもとに考えると、「食事によるセロトニン分泌で感じた幸福感」と「誰かと一緒にいることや相手の話」とを結びつけ、誰かと一緒にいるだけで幸せを感じるようになれば、それで親睦が深まったと言うのも説明できます。
実際に食事をすることは多くの人にとっては楽しみであり、ただ食欲を満たすだけでななく、親しい人と一緒に過ごせる場面です。
仕事に限らず、友達づきあいや恋愛などで食事や飲み会に誘うのは、ただ空腹を満たしてセロトニンを感じるだけでなく、お互いに親睦を深めるコミュニケーションの側面も持っているので、上手に活用している人は少なくありません。
飲み会と親近効果
ランチョンテクニックのように確かに飲み会は親睦を深めることには役立ちますが、その効果は万能ではありません。
とくに、「お酒(アルコール)が入る」事から、素面では言えないぶっちゃけトークや本音を言い出しやすくなるため、繊細な人からすれば酔いが回った人の相手をするのは非常に面倒だと思います。
飲み会は最初のうちは楽しいものですが、次第に酔っ払ったことで、ハメを外したり、セクハラをしたり、素面では言えないぶっちゃけトークをして嫌な空気のまま解散したことが原因で「飲み会=嫌、めんどくさい、疲れる」とネガティブな印象を抱いている人も多いと思います。
この現象に関しては、心理学で言う「親近効果」である程度説明することができます。
親近効果とは、第一印象ではなくある程度時間が経ってからの相手の行動や、会議の締めの言葉や商談の別れ際と言った物事の終わりの場面の相手の行動のせいで、その人の印象が強く決定づけられてしまうことを指します。
親近効果に基づけば、最初のうちは比較的和やかな飲み会だったのに、
- 酔って悪ノリ・悪ふざけをする面倒な空気になった。
- 吐いて周囲の人に迷惑をかけてしまった。
- 酔っ払った人の開放をして、ヘトヘトな記憶だけが残った。
など、飲み会の終盤や飲み会後の損な役回りを受けた記憶ばかりが強く印象に残ってしまい、世話をした相手や飲み会そのものに対して否定的な印象を持つようになってしまう、と考えることができます。
飲み会と自己開示
心理学では自分に関する情報、それもプライベートな情報を誰かに伝えることを「自己開示」と呼びます。
いわゆる「自分の心を開く」という意味でも使われる言葉で、自己開示をする事は相手と親睦を深めたい時や、自分のことを相手に知ってもらいたい時に有効に働きます。
一般的に自己開示は、開示する本人が周囲から強制されてするものではなく、自発的にすることが望ましいとされています。
自己開示する内容によっては、いきなり親しくもない人に対して過去の重い話をさせてしまい収集がつかなくなったり、無理やり恥ずかしい昔の話を強制されたことでショックを感じてしまう人もいるので、自己開示は無闇に迫るものではありません。
飲み会の場合、「酔っ払うことで第一印象では隠していた一面が出る=親睦が深まった」と考えている人もおり、とにかく酔わせて本音を吐き出さようとすることも少なくありません。
これは、普段なら言いにくい話をお酒の力を借りて、強引に相手に対して自己開示をするように迫っているのだと見ることもできます。
人は言いにくいプライベートな話しや秘密にしておきたい昔話などを打ち明けられると、「自分は信用されているんだ」「そんな話をしてくれるまで打ち解けられたんだ」と感じますが、無意識のうちに相手に自己開示するように迫っているのであれば、それは正しい自己開示とは呼べません。
お酒の場に限らず「親睦を深める」という名目で、相手に自己開示を迫り余計な負担をかけていないかチェックすることが大事です。
なお、お酒を使ってプライベートを聞こうとするのはアルハラ(アルコールハラスメント)に当たりますが、単純に相手のプライベートを詮索しようとしたり、プライベートを知って干渉しようとすることはパワハラ・モラハラに当たります。
暴力や暴言などのようにわかりやすい嫌がらせと比べると、プライベートに踏み込むのはどうしても目立ちにくく、知らないうちに自分がパワハラ・モラハラの加害者になっていることもあるので、気をつけた方がいいでしょう。
飲み会で親睦を深めるために気をつけること
本当に親睦を深めたいと思うのなら
- お酒を飲まない昼食に食事会と称して話し合う
- おやつ休憩にお茶とお菓子で軽くリフレッシュする目的で話し合う
といったお酒が絡まない会食の方が、よりトラブルなく親睦を深めることができると言えます。
しかし、それらの方法が実際に仕事の場面出来るか…と言えば、現実的には厳しいのが実情です。
ですので、どうしても飲み会で親睦を深めようとする場合は
- 適度に楽しめる雰囲気を作るように心がける。
- 逆に楽しめない雰囲気や悪ノリ、悪ふざけ、誰かが過度な我慢を強いられる状況になるようであれば辞める。
- お酒を飲ませて本音を言わせるようなことはしない。
などの、飲み会とは言っても適度な距離感を保てるような会にすることが大事だと思います。
「親睦を深める=距離を縮める」とは限らない
「親睦を深める」と聞くとどうしてもお互いの距離感を近づけることばかりに注目されがりですが、相手と親しくなりすぎればその分見たくないものを見たり、自分の見せたくないものまで見せつけてしまって辛くなったりすることもあり、一概に「距離を縮める=善」というわけではありません。
仲良くなりたいという相手ほど、無闇に距離を詰めようとしすぎず適度な距離感を持った方がお互いに良好な関係でいられることもあるのです。
絆や親睦を深めることと、適度な距離感を保つことは一見すると対立する考えに見えますが、近づきすぎて誰かが負担を感じたり、お互いに嫌な思いをしないために近づきすぎず、離れすぎずといった適度な距離感を保つことは、回り回って良好な関係を築くためには大事なことだと思います。
また、パーソナルスペースという言葉にもあるように、人間は自分の縄張り意識のようなものを持っており、誰かが近づいてきて自分のパーソナルエリア内に入ってくると、警戒心や緊張感を抱くものです。
適度に距離感を取ると、どこか冷淡で付き合いの悪い人だと感じることもあろうかと思いますが、近づかれたくない距離感に気づいてそれに応じて距離感を取って振舞うこともまた、仕事においては大切なことだと感じます。