筆者が大学生で就活を意識しだした頃はちょうど東日本大震災後が起きた頃で、日本全体が先行きの見えない不安に覆われており、それゆえに不安を煽ってつかの間の安心感を得ようとさせるビジネスが問題になりました。
とくに就活生を狙った就活セミナー・己啓発セミナー、今の職場や自分のキャリアに疑問がある若い社会人を狙って、言葉巧みに勧誘してくるセミナー講師やコンサルタント(自称)に、諭吉を何人か差し出してしまったことがあります。
今にして思えば、そのお金はこの記事を書くための勉強料だったのかもしれません。
今回は、当時経験した怪しい自己啓発セミナーや客を信者にして稼いだ講師達のことについてお話いたします。
怪しい自己啓発セミナーの手口
努力家で真面目、だけど現状に不満がある人こそハマる
なんとなく胡散臭い自己啓発セミナーの人たちが狙っているのは、意外にも努力家で真面目な人という特徴があります。
しかし、真面目だけど人生うまくいっていない、真面目に頑張っているのになんか自分の人生に不満を感じている。真面目過ぎるがゆえに「本当に自分の人生はこのままでいいのだろうか?」と考え煮詰まっている人に優しく勇気づけるように営業をしてきます。
学生時代に不良にならず、ちゃんと宿題や課題こなしてコツコツ頑張るのは素晴らしいことですが、なかにはコミュニケーションがあまり得意でない、人間関係の機微や情に疎、すなわち不器用な真面目人間、努力家な人こそ、セミナーでもコツコツ努力するので夢中になってしまいがちなのです。
ただし、ここで真面目という正確について補足しておきたいのは「ちゃんと宿題や課題をこなす」ことから、自分の意思ではなく他人からの指示に動くことは得意な一方で、就活のように自分ひとりで進路や人生を決めるということは苦手であり、できれば避けたいと考えていることが多くあります。
自己啓発セミナーにのめり込んでしまうのも、「このセミナーで言われた事をやれば自分の人生が大きく変わる」という受身の姿勢が、幼い頃から染み付いているのが影響しています。
「死」や命の危機、感動話で感情を揺さぶろうとする
実際に私が参加した人生について考えるセミナーでは、太平洋戦争を描いた映画「永遠の0 」をセミナー内で流しました。
永遠のゼロでとくに講師が気に入って流していたのが、主人公のおじいさん(当時26歳)が特攻隊のパイロットとして敵の航空母艦に突撃、当然機体は炎上し殉職するシーンです。
この衝撃的なシーンを見せたあとに、
「会場にいる人の同じ年齢、あるいはそれよりも若い人の生き様に比べたら、貴方たちの人生はなんて恵まれているんだ」
「戦時中でいつ死んでもおかしくない状況と比べたら、今の状況は実に生ぬるいのに、なんで命をかけて働こうとしないのか」
と仰られていたのを覚えています。
昔と比べたら今は楽、恵まれている、と宣うセミナー講師の目からは、なにかしら狂気のようなものすら感じまじた。
たとえ永遠のゼロがフィクションであるとはいえ、命を軽々しく扱う事や、作中で起きたドラマティックな人の死を利用して人の精神を揺さぶろうとするのは、驚異や脅し、不安で人をコントロールする、そういう洗脳に通ずるテクニックを感じて、このセミナーを見限る決定打になりました。
…なお、当時は艦これというかつて太平洋戦争時に活躍した日本の軍艦を擬人化していたゲームを嗜んでいたこともあり、特攻兵器は少ない戦果しか挙げられていない事実や、神風特攻隊対策の対空機銃の進歩について知識もありましたので、「これだけ戦力差があれば勝てへんよなぁ…」と戦術の大切さを感じながら視聴していたのを思いだします。
信者ビジネス化する
信者をビジネスという言葉をご存知でしょうか。
新宿ビジネスとは、自己啓発セミナーなどのファンや講師との関係が密な商売で見られるビジネス形態の一種で、セミナー講師が絶対神のように振る舞い、ファンは信者となってセミナー講師のいうことを熱心に聞くに止まらず、布教活動もとい自分たちのセミナーの営業活動や、お布施という名の高額セミナーへの入金をするというビジネスです。
信者ビジネス化するセミナーの特徴は
- 過激な発言を繰り返してセミナーに属する人に共通する敵を作る。…(例) フリーランスのセミナーなら会社員を敵視、意識高い系の学生の場合なら、意識の低い自堕落な学生を蔑視する…など。
- セミナー内の人間関係でヒエラルキーを作り、個人の活動具合によってボーナスや役職などを与える。…(例) 毎回セミナーに来てくれている人には、今度は特別に講師と講師の師匠と一緒に交流会を開く…など。
- 意味が曖昧なポエムを繰り返して復唱させ、考えるよりも感じるような教え方をとる。
- セミナー以外でも休日やネット上で頻繁に交流して、漠然とした熱い議論を繰り広げる。
- 普段抑えていた感情を爆発させるまで自己開示させることを良しとして、普段抑えていた感情を爆発させるまで追いこみ声を荒らげたところで熱い抱擁や握手をする。
というようなものがあります。
とくに、ポエムを使ったセミナーは厄介で、ポエムのように数字やデータ検証といった具体的な内容による言葉でなかう、状況や言葉を受け取る人によって意味が変わってしまいます。
そのくせ、ポエムを聞いたり口にすることで、なんとなく自分は頑張っている、前にすす進んでいるという妙な充実感を得られてしまうのが最も厄介です。
セミナーに来るということは何かしら不安や不満を抱えているのでしょうから、その不安や不満を解決するのは、不安の元を徹底的に調べていく事がまず第一です。
仕事なら仕事のどの部分に不安を抱いているのか…給料なのか、人間関係なのか、将来性のことなのか、仕事の作業量のことなのか、自分のキャリアや強みがなく仕事でお荷物になっているのか…など、セミナーに行くよりも仕事場で考えていくほうが、効率的に解決できてしまうこともあります。
セミナーをとうして何かを変えたいのであれば、主観的でポエムに頼らず、ミスが起きた原因を分析して、ミスを繰り返さないための対策を立てて実行する、というような地道な手順を踏むことが王道であり近道です。
体育会系のノリや絆を利用する
胡散臭い自己啓発セミナーでは、グループワークを作りそのグループでとにかく熱い、うるさい、行動的になるような体育会系のようなノリで作業に挑ませることがあります。
また、グループワークに当然ついてくるのが「連帯責任」
グループのうち誰かが足を引張たりミスをしてしまったら、他のメンバーも一緒にペナルティをうけるという体育会系の部活動ならよく見かける手法を用いています。
また、体育会系特有の距離感を縮めていく人間関係、仲間意識を強くするためのレクリエーションを繰り返して行うことで、仲間同士の距離感を近づけていくことができます。
しかし、このことは一方で「もしもセミナーを辞めたとしたら仲良くなった○○はどう思うだろうか」という気持ちを抱かせてしまい、セミナーの雰囲気が合わなくなってきた、途中で高額化してお財布的に厳しくなっても、なかなか辞めることができない原因の一つになります。
人には言えない秘密や過去を発表させる
グループワークもビジネスライクのような冷たいノリではなく、とにかく熱いノリ。声が小さいのはダメだとか、自分の秘密や恥ずかしい過去をグループのメンバーに教えないのはダメというルールを課して、人には言えない秘密や過去を無理に開示させようとするのも特徴です。
適度に嘘や人には言えない秘密・過去を持ち続けることは、自分のアイデンティティや自尊心を守り、精神的な逃げ場所を作る上では欠かせないものです。
もしも、自分の恥ずかしい過去や秘密が、今目の前にいる人に全て知られてしまったら、その時から自分は相手に対して逆らえなくなる、精神的に支配されてしまう準備が整ってしまったと言えます。
子育てや学校で真面目に生きてきたひとほど「秘密をするのはよくない」を守る一方で、自分が秘密を持ってそれを誰にも言わないと安心できる、という葛藤に苦しみます。
その葛藤に漬け込んで、セミナーではあえて自分の秘密や過去をセミナーに参加している人たちの前で赤裸々に話させ、セミナーの空気に支配させようとするのです。
怪しい自己啓発セミナーからの反省点
かつていくつかの自己啓発や転職・就職に関する胡散臭いセミナーに参加してきた経験がある筆者としては、自己啓発セミナーも一種のビジネスであり、お金を定期的に落とすような人がいる限りセミナー家業は続けられていきます。
また、セミナーで多額の損失を出した、時間を無駄に過ごした、教わった先生や講師の顔や言葉が忘れられなくて苦しい、しんどいと悩んでいる方は、なるべくセミナーやその関係者から距離をとって、精神的に落ち着くまで待つようにしましょう。
そして、費やしてしまったお金や時間はどうあがいても帰ってこないことを認め、無理に取り返そうとか、損した分頑張ろうと意気込むのはなく、損をしたお金や時間のことは一旦切り離して、今自分がやるべき仕事や業務、勉強などに集中できるようにしましょう。
失ってしまい取り返すことができないお金や時間、いわゆる「サンクコスト(埋没費用)」のせいで、変えることができた未来の自分の人生まで縛られてしまう、なんてことが起きないようにしましょう。