自己啓発本が好きな人は頭が悪くなるという不都合な事実

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意識高い系をはじめとして、経営者やスポーツ選手などの各分野の有名人の言葉に強く感化されたり、最新のビジネス動向をSNSで追うなど、自己啓発に熱中している人を見ていると、お世辞にも「この人は頭が良いとか、賢いようには思えない…」という具合の感想を抱き、残念な気持ちになった経験は、筆者個人としては少なくありません。

自己啓発書や自己啓発系のウェブサイト、SNSにて、意識や自尊心ばかりが高まるような言葉に影響されて、自意識と自尊心を肥大化させて、より勘違いを深めてしまっているのではないか、と感じてしまうことが、自己啓発好きな人に残念感を抱く原因になっているのではないかと推測しています。

この感覚に対するヒントになりそうなのが、1999年にバージニア・コモンウェルス大学で行われた自意識や自尊心を煽る言葉を浴び続けると人間はどうなるのか…という実験です。

今回は、この実験をもとに自己啓発が好きな人がなぜ頭が悪くなるのかについて、お話いたします。

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自己啓発的な自尊心を煽る言葉は成績悪化を招く

1999年にバージニア・コモンウェルス大学のフォーサイスとカーは、同大学内にて心理学の講座を受講していた落第ギリギリor落第点の成績が良くない学生を2グループに分け、

  1. 一方には自尊心を煽る内容のメールを毎週送る
  2. もう一方には学業成績に対する自己責任感を植え付ける内容のメールを毎週送る

という、内容の実験を実施。

自尊心を煽っても成績は逆効果に

「自尊心を煽る」内容の例文は以下のとおり

これまでの研究から、学生はテストの解答用紙が返されたとき、自信をなくす傾向があることがわかっています。

彼らは「もうやっていけない」「自分は役立たずだ」「大学の他の人たちのようにうまくやれない」などの言葉を口にします。

(中略)

実際にある研究者は、いい成績を取ろうとしているとき「どんなことを考えていたか」を学生に記録してもらいました。

成績が上がった学生は次のようなことを考えていました。

「私は自分を誇りに思うことができる」
「僕にはやれる」
「僕はこの学校のほとんどの人より優れている」
「私は自分に満足している」

(中略)

結論:堂々と振る舞い自尊心を高く保つこと

自尊心を煽ることを目的としているため、内容はどれも漠然としており、どうとでも解釈できてしまう。

肝心の学業成績をどう上げるかについての具体的な指示がまるでなく、精神論や根性論の類と言われてもおかしくないメールと表現するのが妥当でしょう。

多少乱暴かもしれませんが、自己啓発書にある一文を切り取って貼り付けたっといっても、納得してしまうぐらいに内容が無い文章であると言っても過言ではありません。

もう一方の、「学業成績に対する自己責任感を植え付ける」内容の例文は以下のとおり

これまでの研究から、学生はテストの解答用紙が返されたとき、自信をなくす傾向があることがわかっています。

彼らは「問題が難しすぎた」「教授が説明してくれなかった」「問題が細かすぎた」などの言葉を口にします。

しかし、他の研究ではそういう結果になったのは自分の責任であると考えられる学生は良い成績を取れるだけでなく、自分の成績を左右するのは自分自身ということも理解できるようになることが示されています。

実際にある研究者は、いい成績を取ろうとしているとき「どんなことを考えていたかを」学生に記録してもらいました。

成績が上がった学生は次のようなことを考えていました。

「もっと勉強する必要がある」
「一生懸命やればこの資料は覚えられる」
「このクラスで自分に何が起きても、それをコントロールできる」
「僕にはこれをやり抜く力がある」

(中略)

結論:自分の成績は自分でコントロールすること

自尊心を煽る内容のメールとは異なり、成績が悪いのは自己責任であるという身も蓋もない事実を突きつけてくる、実に情け容赦ない辛辣な内容のメールです。

しかし、一方では自己責任であるからこそ、もっと勉強したり資料を読み解く力を手に入れられれば、その努力が成績に反映される…という道筋を示しており、ただ自尊心を煽るメールと比較すれば、具体的な内容があるのは明白です。

この実験の結果、

  1. 自尊心を煽ったグループ:グループの平均評価は50%(点)
  2. 自己責任を説いたグループ:グループの平均評価は62%(点)

という結果に。

落第点が59%(点)以下であることを踏まえれば、自尊心群は平均して落第点以下という散々な結果。一方で自己責任群は、平均して落第をギリギリ回避できたという結果になりました。

自己啓発書は自尊心を煽る本と考えれば、頭が悪くなるのも無理は無い

一般的に自己啓発本といえば、やる気やモチベーションを上げて仕事や学業(人によってはスポーツ、芸術の分野も含む)においていい結果を残せるようになりたいとか、あるいは内気で優柔不断な自分を変えたいというニーズを持つ人が読むものでしょう。

とくに、将来に対する不安を抱えやすい若者世代であったり、意識高い系と称される意識と自尊心がやたら高い人達が愛読しているものとして、今日も今日とて書店に平積みで陳列されているものです。

そんな自己啓発書に書かれている内容はというと、(誤解を恐れずに言えば)その多くが、上で触れた自尊心を煽る内容のメールとして出てきたものと同じと言ってもいいでしょう。つまり内容が薄い、あるいは無い。

自己啓発本によって自尊心を煽られた人は、自尊心は高くなったかもしれないが、仕事や学業の成績には反映されない。それどころか、むしろ悪化してしまうという身も蓋もない状況になっているのではないかということが、上の実験の結果をもとにして考えられます

自尊心・意識の高さと頭の良さは比例しない

なんの偏見もなく純粋に考えれば、自尊心や意識が高い人は、なんとなく成績もよく仕事もできそう…というイメージを持つのは自然な事でしょう。

持ち前の自尊心や意識の高さ故に、勉学にも仕事も真面目に励みいい結果を出す。そして、その結果こそが、更なる自尊心や意識の向上を誘い、自分自身に磨きがかかる…という具合のイメージは、想像しやすく、また腑に落ちやすいものでしょう。

反対に、自尊心や意識が低い人は、なんとなく成績もよく仕事も今ひとつでうだつが上がらない…というイメージを持つこともまた自然な事でしょう。

持ち前の自尊心や意識の低さ故に、勉学にも仕事も中途半端で結果も振るわない。そして、いま一つな結果のせいで、自尊心も意識の低いままの横ばい。いつまでたっても自分が磨かれない…という具合のイメージは、想像しやすく、これもまた腑に落ちやすいものでしょう。

しかし、上の自尊心を煽った実験の結果が散々なものであった結果や意識高い系という言葉が、「残念な人」というイメージを持ち、皮肉や揶揄のニュアンスで使われるようになって久しい昨今の状況も踏まえると、自尊心や意識の高さと、仕事・学業の成績の高さが比例しないことは、意識して考えれば別に何らおかしくない事だと言えるでしょう。

(もちろん、自尊心や意識の高さのおかげで仕事・学業の成績が向上する例が完全に無いというものではないが…)

自尊心が高い人は幸福感だけは高い傾向に

自尊心の向上は成績向上には逆効果ですが、決して上げてもいいことが一つも無いというわけではありません。

ある統計では、自尊心の高さと生活の満足度はお互いに関係があるとされている。つまり、自尊心が高いほど幸福感は増すとされています。

しかし、この満足感も「自己満足」や「現状に満足」と解釈すれば、何故自尊心が高いのに、成績が上がらない状態になるのかを、別の視点で理解できるようになります。

いまの自分に満足しているからこそ、学業に励むことも、仕事で良い成績を上げるために励むこともしない。むしろ、今以上に励む行動を取れば、自分で自分の満足感を否定することになり、葛藤を味わう羽目になる。

この葛藤に苦しまないためにも、自分を真に磨くための厳しい努力もせず、社会と折り合うための努力もせず、結果として自己啓発は好きだけど頭が悪いという、印象と中身がまるで違う人が出てきてしまうのではないかと感じます。

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参考書籍

https://mental-kyoka.com/wp-content/uploads/2019/05/hitonohukou-kyoukan.jpg

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