人材育成やコンプレックスの解消のために、専門の知識を持ったプロによる「コーチング」を受けるという方法も、それなりに浸透しています。
しかし、その一方でコーチングとは名ばかりで内容は胡散臭い自己啓発セミナーでしかなく、高額セミナーへの契約を迫られたり、「短時間で稼げますよ!」という情報を高額で売りつける(=情報商材)などの、詐欺まがいのビジネスや悪徳商法の温床になっています。(もちろん、短時間で稼げるという情報そのものの根拠が不明瞭、ただの嘘ということもあります。)
とくに、最近は副業を推進する社会全体の動きもあってか、副業に関するコーチングがトレンドになっているように感じます。
もちろん、副業の他にも、
- 仕事・友人・恋人・家族などの各種人間関係の悩み
- コミュニケーションに関するノウハウ
- 精神的な辛さやコンプレックス
- 恋愛指南
- スポーツでの成績向上
- 起業、独立、フリーランス支援
…など、あらゆる人が持つ悩みに注目した「コーチングビジネス」が存在しています。
もちろん、それらが全て胡散臭いものだと断定するわけではありませんが、よくよく調べると、一昔前の自己啓発セミナーやネットビジネスでよく見たやたら縦長い申し込みページ(ランディングページと呼ぶ)で、露骨に不安を煽り契約に進める宣伝文句が散りばめられているものがあり、どうしても胡散臭いと感じずにはいられないものもあります。
今回はそんなコーチングビジネスを見て感じる、詐欺・悪徳商法との相性などについてお話しいたします。
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コーチングビジネスが詐欺・悪徳商法の温床になってしまう要素
人の弱み、悩みに漬け込める
人間が持つ弱みや悩みに焦点を当てるビジネスであるため、コーチングを行う側は顧客の弱みを握って漬け込むことも、その気になればできる立場です。
例えば、人には言いにくい悩みやコンプレックスを、コーチである自分に打ち明けてきたので「悩みの解消に役立ちますよ」と言う態度を取りつつ、更に高額のコーチングを受けるように誘導することも容易です。
…もちろん、そんな露骨な言葉では契約に結びつかないので
- 利用者の声をいくつか用意して、安心感と説得力を持たせる。
- 自分も同じコンプレックスを持っていたと嘘でもいいから口にして共感を誘う。
- 「せっかくコーチングによって、自分を変えようとしているのに、途中であきらめたら変わらないままでそれでいいのですか?」と優しく寄り添うように見せて追い込む。
などの方法でNOと言わせない状況を作り出し、自ら契約を結ばせるように仕向ける方法を取るのが無難でしょう。
また、相談している内容が誰かに打ち明けづらい悩みであるために、騙されたと思ってもそもそも他人に相談しづらいのも厄介です。
例えば、モテないからこそ「恋愛指南を謳う高額なコーチングを受けていました」と他人に堂々と言える人はまずいないでしょう。
もしもそんな事を口にすれば、自分はモテないだけでなく、モテるためによくわからない高額サービスに手を出した間抜けなカモであると暴露しているようなものです。相談すれば恥ずかしく情けない気持ちに襲われるからこそ、コーチングを受けている事をひた隠しにしてしまうのです。(なお、この心理は、性犯罪の被害者が然るべき場所に相談しづらいのと同じです。)
仮に、警察や弁護士に相談するとしても、相談すれば結果として赤の他人に対して自分がどんなコンプレックスを抱えているのかを打ち明けるのと同じです。
知られたくないことをこれ以上誰かに暴露するような真似は避けたいからこそ、コーチングで高額な出費をしていることに疑問や疑念を抱いても、結果として相談できずに泣き寝入りを選びやすいのです。
コーチングは、他人の弱みを強みに変えたり、悩みの解消へと導くという大義名分を掲げられるビジネスであると同時に、弱みや悩みに漬け込んで金と労力を搾り取れてしまう危うさもるビジネスなのです。
誰かに何かを教えなくても「コーチング」と言い張れてしまう
「コーチング」という言葉の意味は、学校の先生のよう知識やノウハウを教えるというよりは、参加者自身が自分が抱いている悩み・問題をコーチに話し、それを聞いてコーチは参加者がヒントや知識が得られるように導くです。
一方的に知識を授ける事(=ティーチング)とは異なり、あくまでも相談者自身が主体的に動くことがコーチングの基本とされています。
ただし、このことは拡大解釈すれば、コーチ側があれこれ参加者に知識を伝授するために、多くの事を勉強したりテキストを作成しなくてもいいという理屈や、「大事なのは参加者の声に耳を傾けること。そして、参加者自信が自分の悩みの解決法を見つけ出すための助言をするだけの作業をすればOK」という理屈を生み出すことにもつながります。
悪く言えば参加者とお茶を飲みながら話を聞くだけ聞いて、それっぽいことを最後の方に少し言っておくだけでも「こういうスタイルがコーチングだから」と言う(屁)理屈が通用する…非常にボロい商売になりかねない危うさがあります。
金銭・労力の初期投資を抑えることができるビジネスでもある
勉強する必要性が少ない事は、言い換えればコーチングをビジネスと行う参入障壁は限りなく低い事と同じです。
副業がてらにひょっこりコーチング業を始める人からしても、詐欺や悪徳商法ありきで手早く稼ぎたい人からしても、参入障壁の低さは魅力的です。
- 借金をしなくても体一つで手軽にできる。
- わざわざ会場を借りなくても、ネットを使ってチャットやビデオライブでコーチングができる。
- 広告代理店を頼らなくとも、ブログやSNS、youtubeなどの各種メディアに自分で投稿して、客を集めることができる。
と言った、手軽さゆえに詐欺や悪徳商法でも入り込みやすいビジネスであると言えます。
資格商法との相性の良さ
コーチングの見込み客は、将来的に自分もコーチングビジネスを行って収入を得ようと考えている人も含めることができます。
そうした、コーチング業を希望する人に対して「○○認定コーチ」という、コーチ業を名乗れるために必要な民間資格を発行して、セット購入を推奨する光景もコーチングビジネスでは見られます。
ただし、ここでいう資格はあくまでも知名度が低くて、その効果は非常に限定的です。普段の仕事ではまず役に立たない資格でしかない。悪く言えば、お金を払えば誰でも簡単に取れてしまう質の低い資格です。
こうした、質の低い資格取得を迫る商売は「資格商法」と呼ばれており、コーチングビジネス同様に胡散臭い商売の温床であり、そして他の胡散臭いビジネスと非常に相性がいいビジネスという特徴があります。
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参加者と直接合わなくともビジネスが成り立つ
コーチングを行う場合は、実際にあって話す必要性ががなく、メール上でやり取りを全てしたり、オンラインチャットやテレビ電話コーチングネットを使い、直接参加者と合わなくとも完結できるビジネスです。
このことは、直接会うことができない後ろめたい事情がある人でも参入できてしまう。金銭トラブルを起こしても、金を持って逃げるのが容易…つまりトンズラしやすいとも言えます。
短時間で高収入を得られる価格設定が容易である
コーチングビジネス自体価格設定はピンキリです。1時間あたり数千円~数万円、十数万ほどとバラバラであり、相場らしい相場はなくぼんやりとしているが実情です。
そのため、強気の高額設定であっても違和感を覚えにくい。また、高額であること自体がコーチングに対する効力の高さ、期待の高さを示す材料にもなる側面もあります。
初期費用を安く抑えられるだけでなく、うまくいけば短時間で高収入を稼げてしまう、非常に利益率のいいビジネスであるがゆえに、目先の金に目がくらんだり、端から短期で稼ぎきることを目的とした人も参入しやすいのがコーチングビジネスなのです。
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余談:コーチングを世に広めたのはカルロス・ゴーンという皮肉
余談になりますが、コーチングという概念、および人材育成の方法を世に広めるに至った背景には、かの有名なカリスマ経営者であるカルロス・ゴーン氏の活躍があります。
カルロス・ゴーンと言えば、日本の大企業である日産自動車をV字復活に導いた実績を持つ、敏腕経営者であると同時に、元日産の会長として有名でしょう。
しかし、2018年11月に有価証券報告書に載せる役員報酬の額を過少申告したことが明るみになり、金融商品取引法違反容疑で逮捕された事は、多くの人が知っていることでしょう。
そんなゴーン氏が、日産を経営を立て直す時に使われたのが「コーチング」と言われています。
ゴーン氏自ら「私は日産のコーチである」と主張し、リーダーシップとコーチングを混ぜたゴーン氏流の人材育成の指南書と呼べる本『カルロス・ゴーン流 リーダーシップ・コーチングのスキル』も2003年に出版されています。
しかし、そのゴーン氏のカリスマ経営っぷりとは裏腹に、現在は容疑者として非難の対象に。また、会社の資金を私的に利用していたという耳を疑うような情報も出ており、経営者としての爪の甘さや金銭管理の杜撰さが問題視されています。
そんな敏腕経営者のゴーン氏の活躍により認知された「コーチング」が、胡散臭いビジネスの商品そのものとなり、良くも悪くも広まっている光景を見ると、世の中上手くできているというか、なんとも皮肉なものを感じます。