旅行のお土産を他人に渡すときに「つまらないものですが…」と言ってから渡す光景は普段の生活でよく見られますね。
もちろん、この場合の「つまらないもの」とは、本当にどうしようもなくつまらなく、もらった人がコメントに困るようなお土産を渡すときに使うのではなく、謙遜の意味を込めて使われる言葉です。
謙遜とは自分からへりくだり、相手を立てることを指しますが、謙遜で使う言葉や行動を見ていくと、予防線を張っているとも見ることができますね。
「つまらないものですが…」ということで、もらった人から見て本当につまらないものだったとしてもあまりがっかりさせなくて済む。
逆に「つまらないものですが…」と言ってたわりには、もらった人から見て十分嬉しいお土産だったら、思わぬサプライズとなり喜んでもらえることでしょう。
予防線を貼っておけば、想像通りの悪い結果になってもひどく落ちこまない、逆に想像以上の良い結果になったら一旦下げていた分、喜びもバブルの株価のように大きくなるのです。
このように、予防線を張る人の心理と関わりがあるのが「セルフハンディキャッピング」と呼ばれる用語です。
今回は、このセルフハンディキャッピングについてお話しいたします。
関連記事
目次
セルフハンディキャッピングとは
セルフハンディキャッピングは自分で自分にハンデを課すことを指すことで精神的なショックを抑えることを指します。
具体的には「予防線を張る」という言葉で説明されるように、何かをやる前に言い訳や謙遜のような言葉を行ったり、自分でハンデを課す行動をしてしまうことを指します。
セルフハンディキャッピングに2種類あり、
- 獲得的セルフハンディキャッピング:自分で自分にハンデを課す。
- 主張的セルフハンディキャッピング:周囲にハンデがあることを主張する。
に分けることができます。
冒頭で、「つまらないものですが…」と謙遜することは、上の分類では主張的セルフハンディキャッピングと見ることができます。
セルフハンディキャッピングの効果
自分でハンデを課すことで、もしも何かをやって失敗してしまったり、残念な結果になってしまっても、「だってハンデがあったんだから仕方ないよね…」と言い訳をすることができるので、ひどく落ち込むのを防ぐという効果があります。
そして、ハンデを課しておいたことで、周囲からも「失敗するのは仕方がなかったないから、そんなに落ち込む必要はないよね」と同情を得やすいというメリットもあります。
また、もしも上手く行った場合は「ハンデがあったけどうまくいったので自分はツイている」と、大きく喜ぶことができるというメリットもあります。
当然、周囲もハンデに関わらず成功したことを受けて「あれだけ状況が悪かったのに、うまくいって凄い」と、何もハンデを課していない時と比べて評価されやすいというメリットがあります。
セルフハンディキャッピングの例
テスト前の言い訳、余計な行動など
セルフハンディキャッピングはテスト前にあれこれ言い訳をいってしまうのがいい例です。
例えばテストの直前に
- 「昨日全然勉強していなかったから、きっと悪い点数になるはず」
- 「風邪のせいであまり勉強できなかったから、いい点数を取れる自信がない」
- 「先生も今回のテストは難しいって言ってたから、今回のテストはダメかもしれない」
と、テストが始まるまでの時間を使って友達同士で言い訳をする光景は学校生活のあるあるですね。これは、(主張的)セルフハンディキャッピングのいい例です。
えてしてハンデがあると言う人は、普段のテストの点数は決して悪いというわけではなく、どちらかといえば中の上のポジションというのもあるあるです。
テストの前に「いい点数を取れる自信が無いから~」と言いまくるわりに点数が良かったので、どこか嫌味っぽく聞こえたり、同情を誘うために言ってるように見えて、気に障った人もも多いかと思います。
テストという本来なら良い点を取ることが求められる場で、あえて悪い点をとってしまう原因を誰かに話すのは、本当に自信が無いからというわけでも無く
- 本当にテストの点数が悪くてもひどく落ち込まないために言う。
- 逆に点数が良かった時は、勉強ができていないのにもかかわらずいい点が取れる自分がアピールできる。
という、どっちに転んでも自分にとって都合のいい解釈ができるので、テスト前にあえてハンデをかけていたのです。
また、言い訳の他にも
- テスト前に部屋の掃除をして勉強時間を無駄にする
- あえて一夜漬けをして、バッドコンディションの状態でテストに挑む
- 真面目に勉強をするのではなく、誰かのノートや過去問だけに頼ってテストを受ける
- こなせそうもない勉強のスケジュールを組立てしまう
などの、テストの点数に悪影響が出る状態で受けることは、(獲得的)セルフハンディキャッピングにあたります。
「初心者ですが…」などの予防線を張る、前置きをする行為
芸術や音楽などの趣味の世界だと
- 初心者ですがこんな作品を作っています
- 即興ですがこんな作品を作りました
- リハビリがてらにこんな作品を作ってみました
と、何かしらのハンデがるという前置きをしたあとに、作品をネットにアップする光景をよく見かけます。
これは、主張的セルフハンディキャッピングであり、「初心者」「即興」「リハビリ」という技術のなさをあらかじめ言っておくことで、自分の作品を見た人から下手という評価が来てもショックを和らげる、逆に上手という評価が来たらより喜べるというメリットがあります。
前置きを入れておけば、本当に下手だとしても「まぁ初心者だから仕方ないか…」と感じるので、否定的なコメントも集まりづらいというメリットもあり、不特定多数の人が作品を閲覧できるネット上では、よく使われるコミュニケーションスキルの一種ともなっています。
ただ、今や趣味の世界ですら、ネットを使えば不特定多数の人から見られ、自分よりも若くて実力のある人と気軽に比べられるようになっている状況です。
趣味の作品が、例えば閲覧数やイイネの数、リツイートなどの拡散された数という数字で容易に比較することができてしまうために、その比較においてメンタルを過度に傷つけないために、なにかと予防線を張ってしまうのは、ある意味仕方のないことなのかもしれません。
セルフハンディキャッピングをする人の心理
プライドを傷付けたくない
セルフハンデキャッピングは言い方は良くないですが、失敗した時にも言い訳を用意しておき、仮に失敗しても自分のプライドをひどく傷つける事を防ぐという効果があります。
またうまくいけば、その分自分の能力の高さをアピールすることができるので、プライドを守りたいという欲求が強い人にはうってつけなのです。
自分を大きく見せたい
自分にハンデを課すことで
- 逆境があってもめげない自分を演出できる
- 不利な状況でも(結果がどうあれ)果敢に頑張る自分を演出できる
という、自分の努力を大きく見せることができます。
ただ不言実行で淡々と頑張るよりも、ちょっと不利な状況で頑張ったほうが周囲の人から応援されるかもしれないという目論見から、あえてハンデを課す人もいます。
また、失敗しても「ハンデがあったのによく頑張った」という敢闘賞をもらった人のように、失敗してもひょっとしたら、頑張った功績が評価されるかもしれない、という思惑からあえてハンデを課す場合もあります。
否定的なコメントを避ける
SNSや掲示板のように、不特定多数の人が閲覧できる環境では、あえてハンデがあることを前もって言っておくことで、否定的なコメントが来ることを回避することができます。
とくに、クリエイティブな趣味の場合、目の肥えている人から批評されるのが怖いから前置きを入れることで否定的なコメントが来るのを避けようとする人もいます。
しかし、本当に否定的なコメントが来るのを回避したいのであればコメントそのものを受付内ないようにすればいいのですが、大抵は誰でもコメントできるようにしたままになっています。
これは、否定的なコメントは嫌だけど、好意的なコメントは欲しいという思いの現れと見ることができます。
前置きをするのは、否定的なコメントだけでなく、自分にとって好意的なコメント…例えば、「全然初心者っぽくないよ」とか「即興だけど凄いクオリティ」という、コメントだけを欲して、承認欲求を満たそうとする行為と見ることもできます。
セルフハンディキャッピングの問題点
こうして見るとセルフハンディキャッピングはいいことばかりのように見えますが、現実はそうとも言えません。
あえて自分にハンデを課したり、ハンデがあることを主張するのは、確かに失敗時には役立ちます。
しかし、セルフハンディキャッピングは基本的に自分の実力を自分で制限したり、効率を下げる方向に働くことがあります。
例えば勉強の場合、ちゃんとテストの点数を上げるためには、自分にハンデをかけたり言い訳をすることよりも、しっかり勉強をする方が効率的です。
偏差値を上げるための勉強そのものにハンデをかけているようでは、効率は上がらずテストの点数の伸びが鈍化するどころか、停滞or悪化を招いてしまうこともあります。
そして、厄介なことにもしも停滞or悪化しても「ハンデをかけていたから仕方ない」と理屈をつけて納得してしまい、しっかり反省ができずまた同じようにハンデをかけて失敗する…という悪循環を招いてしまいます。
セルフハンディキャッピングを防ぐためには
セルフハンディキャッピングが癖になるのは、しっかりと頑張った結果がダメだった時に大きなショックを受けるぐらいなら、いっそのことあえて失敗してしまうように自分で自分にハンデを課して、ちゃんと努力することから逃げているとも見ることができます。
セルフハンディキャッピングのせいで努力から逃げてしまったり、逃げ道を作るのを防ぐためには、そういった逃げの行動が起きないために適切な目標を立てて実行していくことが大事です。
目標のラインは高すぎず、低すぎず、ちょっと頑張れば届くラインに設定して、しっかりこなしていくことで着実に確固たる自信と経験を積むことができれば、セルフハンディキャッピングに陥らないためには大事です。