回避性パーソナリティ障害(あるいは回避性人格障害)とは、精神的に傷つく事を過度に恐れたり、人間関係を築くことそのものに煩わしさを強く感じてしまう。そして、あらゆる出来事や責任から避けてしまうという特徴を持ったパーソナリティ障害の一種です。
その性質上、働くとなれば自分が任せられた仕事をやり遂げることを放棄したり、職場の人と関わることに消極的になってしまう。そのために、仕事を続けることに人一倍辛さを覚えてしまうことがあります。
また、仕事をそつなくこなせる能力があったとしても、職場内外の人とのコミュニケーションに苦手意識を感じてしまう。一人で黙々と行える仕事なら問題はないが、他人と協力して行う場面が出てくる仕事になると、強いストレスを感じてしまうこともあります。
今回は、回避性パーソナリティ障害と仕事が続かないことの関連性について、お話しいたします。
回避性パーソナリティ障害の人が仕事で抱える悩み
回避性パーソナリティ障害は、文字通り人間関係や社会とのつながりを回避するという特徴を持っています。
そのため、仕事という他者との関わりや社会的責任を背負うことから逃れられない場面においては、不適応を起こしがちです。
では、回避性パーソナリティ障害の人は職場でどのような場面や状況を苦手としているのか。そして、その時にどのような心理になっているのか…について、以下で触れていきます。
職場の人に対して心を開けない、親密な関係を築くことが苦手
回避性パーソナリティ障害の人は、人間関係を構築することを苦手としています。簡単に言えば、引っ込み思案、人見知り、コミュ障など性格・気質・傾向の強さが目立ちます。
これは、普段から自分の能力や評価を低く見積もり過ぎている。そして、低く見積もり過ぎているからこそ、他人にそのことを指摘されるかもしれない不安(=予期不安)を強く感じたり、能力の低さのせいで相手を失望させてしまう事への恐怖を感じてしまう。
職場の人間関係のように、ある一定の成果を出すことが求められると同時に、自分に対して評価がくだされるような状況では、上で触れた不安は強くなり、回避性パーソナリティ障害の人にとっては、職場は非常に重く苦しい空間のように感じてしまいます。
また、普段から自己評価が低いために、そんなダメな自分を職場の人に見せようものなら指摘やツッコミが入る恐れがある。かと言って、ハッタリで自分をよく見せるとしても、そのハッタリがバレた時に非難されて傷つく恐怖もある。
そのため、職場の人に対しては積極的に自分の内面を見せることは無くなり、希薄な人間関係を築いてしまいます。
この光景を、回避性パーソナリティ障害の人を取り巻く人の視点に立って見れば「あの人は職場に馴染めず、心を開こうともしない変わった人」とか「職場内の人と距離を置いてて、なんとなく嫌な人だ」という否定的な印象を持つのも無理はありません。
そして、その印象のせいで当人はますます職場にいづらさや疎外感を覚えるようになってしまい、仕事を続けることに強いストレスを感じてしまうのです。
否定的な思い込みの強さゆえに、仕事に消極的な姿勢で取り組んでしまう
回避性パーソナリティ障害は、消極的な行動を取りたがる傾向のために、たとえば新しい仕事を覚えることが必要な場面や初対面の人と会って話をする場面などにおいて、不適応を起こします。
新しい事をして失敗したり、恥ずかしい思いをしたり、相手に迷惑をかけてしまう事に対して強い忌避感を覚えてしまうために、仕事における新たな経験やキャリアを積む事そのものを拒んでしまいがちです。
また、新社会人のように、経験が浅いからこそ貪欲に学んだり、とにかく経験を重ねて体で覚えていくことが求められる場合だと、回避性パーソナリティ障害の傾向を持つ人は、とにかく消極的になり自分から動こうとしない。いわゆる「指示待ち人間」と化してしまいます。
「下手に動いてミスをするぐらいなら、自ら動かず誰かの指示通りに動いた方が、ミスの確率は下がるし、自分一人だけの責任ではなくなる」という合理的な思考の結果、指示待ち状態で待機していると考えられます。しかしながら、この考えに共感や理解を示してくれる人が必ずいるとは限らないものでしょう。
むしろ、「生意気な新人」とみなされて、上司の逆鱗に触れてしまい、職場にいづらさを覚えてしまうこともあります。(なお、そもそも新社会人になることすら叶わず、就職活動や受験の段階で挫折してしまう場合もある。)
自らキャリアアップのチャンスを手放してしまう
新しい事への挑戦と言っても、より多くの金銭的・社会的報酬が手に入る可能性がある、好ましい挑戦においても、同様に消極的な姿勢を見せてしまうことがあります
たとえ好ましい挑戦であっても、回避性パーソナリティ障害の人から見れば、どのみち今の慣れた環境を離れて、新しい環境や人間関係に自分を適応させていかなければならない苦悩があり、強いストレスを感じてしまう。
また、好ましい環境に入ったといはいえ、より一層自分に求められる仕事の水準が高くなった結果、期待に添えず相手を失望させてしまう不安の方に注目してしまい、自分に舞い込んできた好機を自ら手放してしまう傾向があります。
なお、確実に失敗しないであろうことが想像できる場合においては、キャリアアップの道を選ぶこともあります。
しかし、これも言い換えれば、自分の実力相応の好機を避け、実力以下の損な好機のみを選んでしまう、損な働き方をしているとも言えます。
また、自分の実力をあえてセーブするという、ユニークな働き方に対して周囲が「サボっている」「手を抜く癖がある」と見るようになれば、生きづらさや働きづらさにもつながります
リーダーシップを求められる立場になると、不適応を起こしてしまう
回避性パーソナリティ障害の人でも、他人と関わる事が少ない仕事であればそこまで問題を抱えない。むしろ、人間関係の煩わしさから開放されたことが功を奏して、仕事でおおきな成果を上げた結果、昇進することがあります。
しかし、昇進後に多くの部下を従え、積極的にリーダーシップをとることが求められるようになると、人間関係の煩わしさに振り回されてしまう。
加えて、人間関係の調整に時間と体力を消費してしまったことが、自身の仕事の質にも反映されて指摘を受けるようになったことで、不適応を起こしてしまうことがあります。
技術職で成果を上げて管理職になった途端、微妙な結果を残してしまう。選手としては優秀だたが監督・指導者としては今ひとつである…という状況と同じことを引き起こしていると言えます。
仕事の悩みを誰かに相談することも回避してしまうのが問題
回避性パーソナリティ障害の持つ「他人との交流を避けようとする」特徴は、仕事で悩みを抱えた時に誰かに相談することそのものを避けてしまう…という、非常に厄介な行動をとってしまう原因にもなります。
相談した結果、具体的な解決策や対処法を見つけるにいたらなかったとしても、自分の悩みを受け入れてくれる人がいるという安心感を得られる。
それにより、仕事に対する向き合い方や心持ちが良い方向に変わっていき、結果として仕事を辞めずに済むこともあるでしょう。
しかし、回避性パーソナリティ障害の人は、そもそも相談することすら煩わしさを覚えてしまうので、上にあげた方法で退職を回避することは期待できない。
加えて、自信のなさが影響し、自分の中で将来に対する悲観的な考え方を強めてしまい、自分で自分を精神的に追い込んでしまう。その結果、仕事を続けることに自信をなくしてしまうのです。
他人に内面を打ち明けられないので、他人と深く関わることで得られる安心感が得られない。
そして、自信のなさを他人と関わって得られる安心感で補うことすらもできないのが、仕事に限らず、勉強、友達関係、恋人関係、親子関係など、日常生活のあらゆる場面で抱えてしまう問題なのです。
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