インポスター現象(あるいはインポスター症候群)とは、他人から褒められたり評価されることがあっても、その言葉を信じることができなくなる。
むしろ、自分は他人を欺いて不当に評価を得ている、詐欺師(imposter)のような存在である、と感じる現象を表した心理学用語です。
インポスター現象は生活のあらゆる場面で見られる…つまり、恋愛関係においても、見られます。
今回は、そんなインポスター現象と恋愛との関係について、お話いたします。
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目次
自分の魅力を不当に評価されていると感じて他人と距離を置いてしまう
- 自分の顔や見た目、運動神経などの身体的、外見的魅力
- 性格や優しさなどの心的、内面的魅力
- 経済力、肩書き、学歴などの社会的魅力
など、各特徴・要素を見ていくことは、恋愛関係においてはまず外せないものでしょう。
自分にとって魅力的な特徴や要素を持っている人に恋心を抱くと同時に、その魅力を褒めたり、認めることによって、意中の人と打ち解け、恋愛関係に発展or深めていくのは、恋愛関係の基本でしょう。
しかし、インポスター現象に悩まされている人の場合、自分が持つ魅力を肯定的に評価する人が目の前に現れたとしても、その評価を素直に受け取ることが難しい。
むしろ、自分に好意を寄せて来る人に対して、どこか申し訳のなさを感じてしまい、相手を拒むような言動を見せてしまうことがあります。
また、仮に高評価を受け止めることに成功したとしても、その評価を「自分が運良く手にしたものにすぎない」とか「相手がたまたま高く評価しているだけだ」と考えてしまう。
自分自身に誇るべき魅力があることを素直に認めようとせず、運や相手の過大評価など自分以外の存在が高い評価を生む原因であると考えてしまう。
そのため、他人から高い評価を受けている割には、どこか卑屈で自信のなさが目立ってしまう。周囲の人が出した自分への評価と、自分自身で付けた自分への評価に大きなギャップがあるのが特徴的です。
自分が努力して身につけた魅力を、自分の努力の賜物と考えられない
インポスター現象は、恋愛市場に置いて価値が高い人…つまり、イケメンや美人、高収入、高学歴、社会的ステータスを手にしている…など、明確に人より秀でている要素を持つ人に見られるものだと考えられています。
もちろん、こうしたステータスは先天的に身についている物もあれば、勉強やスポーツで自分を磨いたり、真面目に働いて経験を積んだ結果として身につけた後天的なものもあります。
先天的にしろ、後天的にしろ、自分の魅力であるからこそ、他人から評価を受けたらそれを素直に受け入れて、堂々と胸を張ればいいのですが、インポスター現象に悩まされている人はそれができない。
ダイエットや筋トレをして魅力的な体になるように頑張ったとか、必死に勉強していい学歴or仕事を手にしたなど、自分の努力の賜物であり堂々と誇っても問題ないものに向けられた評価の声すらも「相手は自分の魅力を過大評価しているように見える」と相手の見る目を疑ってしまったり、「相手の目を欺いて不当にいい人だと思わせているような気がしてならない」と罪悪感を覚えてしまいます。
自分の努力の賜物を堂々と誇れないので、周囲の人が羨むような魅力なり社会的な成功を手にしていても、当の本人はどこか遠慮気味というか、あまり心を開くような素振りを見せないのが特徴的です。
「謙虚」「謙遜」の文化とインポスター現象
インポスター現象に悩む人が見せる遠慮気味な態度は、日本ではいわゆる「遠慮」や「謙遜」であると見られて、より高い評価を招いてしまうことがあります。
インポスター現象の事を知らない人からすれば、人が羨むような魅力を持っているのにもかかわらず、それを鼻にかけて威張ったり、自慢げに語ることすらしない。
それどころ、褒め言葉に対して、「いえいえ、そんな褒められるほどの人ではありませんよ」実に謙虚で慎ましい態度を取るので「人としての格が違う」とか「立派な人だ」と更に高い評価を受けてしまいます。(その姿はまさに「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉そのものでしょう)
しかし、インポスター現象に悩む人からすれば、謙遜と受け取られた言葉は、自分は本当に褒められるほどの立派な人間ではないと考えており、相手が不当に評価しているように感じられたからこそ出てきた言葉であり、謙遜の意味合いは含まれていない率直な意見と考えられます。
…もちろん、そのことは相手には伝わらず、むしろより高い評価の言葉を招く事態になってしまって、ますます「自分は他人を騙して高い評価を手にしている」という気持ちが強くなることで悩んでしまいます。
自ら恋愛市場における価値を下げる行動に出ることも
インポスター現象に悩む人は、周囲との評価のギャップを解消したり、「欺いている」という罪悪感から逃れるために、あえて自分の価値を落とす行動に出てしまうことがあります。
恋愛関係で言えば、
- あえて異性から嫌われるような行動を取る。
- 恋愛対象に見られないように地味で目立たないように努める。
- 学歴や職歴などの社会的な価値をあえて手放す。
- 逆に過剰なまでに自分磨きに打ち込み、周囲と壁を作る。(=恋愛には興味がないことを間接的に示していると言ってもいい)
など、恋愛市場価値を下げる行動に出てしまいます。
周囲から見れば、これらの行動は理解に苦しむものが多く、恋愛はおろか友達としてお近づきになりたいとは思えない行動と感じるのも不思議ではありません。
しかし、周囲の人が自分を恋愛対象とみなさなくなることこそ、インポスター現象に悩む人が求めていることであることを踏まえれば、これらの突飛な行動に込められた意図がすんなりと理解できるでしょう。
男女差とインポスター現象
インポスター現象は、男性よりも女性に多いとされる説もありますが、現時点では男女差に関する決定的なデータは上がっていません。
なお、女性に多いと考えられている説の根拠は、社会において活躍している女性の数が少ない。つまり、正当な評価を素直に受け入れて社会で堂々と活躍するポジションを入手できるチャンスが目の前にあっても、「他人を騙して高い評価を得ている」という後ろめたさから、そのチャンスを手放してしまっているというものです。
しかし、別の研究ではインポスター傾向に男女差は全く見られないという結果もあり、男女差とインポスター現象については、具体的な結論はまだ出ていないのが実情です。
なお、このようにアバウトな結果になる理由として考えられるのが、インポスター現象そのものが、人生のある特定の時期においてのみ見られるものであり、年齢や状況とともにインポスター傾向そのものが変わってしまう性質を持っていることです。
ジョージア州立大学名誉教授のクランスによれば、インポスター傾向が最初に見られるのは高校生活の終盤、あるいは大学入学or就職後すぐに多いものだと主張。
進学や就職で新しい環境に飛び込むために、自分の長所を知る必要性が出てきた場面において、本当に自分の長所が誇りに思ってもいいものか、わからなくなってしまう。その結果、「他人を騙して評価を手にしている」という考えが生じているのだとされています。
この考えはアメリカでの調査によるものですが、日本でも同様だと言えるでしょう。
高校から大学生の時期と言えば、進学or就活のために自分の長所を調べたり、将来を見据えて自分が得意としていること、人よりも秀でていることが何であるかについて真剣に向き合う時期でもあります。
また、ちょうどその時期は、誰かを真剣に好きになったり、逆に誰かに真剣に好かれたりすることも、人生において初めて経験する時期でもあります。
初めて他人から率直な好意を受けたとしても、その好意に対するうまい返答や対応が出来るだけの十分な経験や知識もない。
そのために、好意を素直に受け取れないだけでなく「他人を欺いている気がする」という考えが生じてしまうのだと考えられます。
参考書籍