恋愛に関する心理学に詳しい人なら「吊り橋効果」という単語を耳にした人は多いかもしれません。
足場が不安定な吊り橋の上に立つように、恐怖で緊張で心拍数が上がってドキドキする場面になると、人はそのドキドキを相手への恋愛感情だと思い込んでしまう心の働きが、吊り橋効果の正体です。
遊園地デートでお化け屋敷に入ったり、ジェットコースターに乗るのは、現実世界でもフィクションの世界でも定番ですが、どちらもドキドキすることを楽しむアトラクションで、且つ恋愛感情が芽生えやすいシチュエーションです。
しかし、吊り橋効果は誤解も多く、ただドキドキするシチュエーションさえ用意すれば、必ず恋愛関係が生まれる、と解釈されていることもあります。
また、吊り橋効果を知ってわざと相手を脅かすような意地悪やいじりをして、その様子を弄んで楽しむ質の悪い人もおり、仮に恋愛に興味がない人であっても知っておくと損はない知識だと思います。
今回は、そんな吊り橋効果についてお話いたします。
吊り橋効果とは
冒頭でも書きましたが、吊り橋効果はドキドキする場面を恋愛感情だと勘違いする心理です。
心理学者のダットンとアロンが行った吊り橋を使った実験が語源となっています。
ダットンとアロンの実験
吊り橋効果のもとになった実験は
- 男性の被験者に「高さ3mの固定橋」と「高さ70mの吊り橋」を渡ってもらう。
- 男性の被験者は橋の上にいる女性からアンケートを受けてもらう。
- アンケートの時に男性は女性から連絡先の情報を受け取る。
- 後日、渡された連絡先に連絡する男性が出てくるのを待つ。
という流れで行われました。
実験の結果、女性に連絡をしてきたのは吊り橋を渡った男性の方が数が多く、吊り橋のように不安定な状況でドキドキした経験を、恋愛感情だと勘違いしたのだと推論しました。
なお、ここで押さえておきたいのはあくまでも恋愛感情は勘違いという点。
不安定な吊り橋の上に立つと緊張から心拍数が上昇しますが、この時に脳から快楽物質であるドーパミンが分泌され、恐怖や緊張を楽しさや恋愛といったポジティブな捉え方をしてしまうことが、勘違いを生み出す原因と考られています。
あくまでも勘違いなので、冷静に考えれば本当に好きな相手ではないのに流れで付き合ってしまったり、一方的に告白するもののあっけなく振られてしまう可能性は否定できません。
吊り橋効果が発生しやすい場面
吊り橋効果は実際に吊り橋の上に立たなくとも、日常生活でドキドキする場面や、緊張や不安でを感じる場面で発生しやすくなります。
新生活が始まる時期
進学、就職等で新しい人に出会う時期は新しい恋が芽生える時期…と雑誌やメディアではよく言われますが、これも吊り橋効果で考えるとあながち間違っていません。
新生活は新しい環境への期待も大きい分、「新しい環境でうまくやっていけるか心配…」という不安やストレスも大きくなります。
この不安な時期に出会った異性の人に対して、新生活不安から感じる緊張を恋愛からくる緊張だと勘違いして捉えてしまい、恋心を抱いてしまうのです。
お酒が入った時
お酒に含まれるアルコールには、血流を改善し心拍数を上昇させる効果があります。
お酒を飲み過ぎてドキドキしている場面で出会った相手に対して恋心を抱くのは、アルコールによって引き起こされた心拍数の上昇を、魅力的な相手に出会ったことで心拍数が上がったのだと勘違いしていると考えることができます。
また、酔っていることを理由にして大胆な行動をとりやすい。酔いが醒めても「あれはお酒のせいで大胆になっていただけ」と説明できるので、衝動的な恋愛をしやすくなるのです。
お笑い番組を見て笑っている時
お笑いを見て笑うと場面は、不安や緊張とはかけ離れたシチュエーションに思えますが、人間は笑うことでも脳からドーパミンが分泌され心拍数が上昇するので、吊り橋効果が発生しやすくなります。
また、お笑いを見て楽しくなっている雰囲気を「相手といるから楽しいんだ」と感じてしまうこともあり、余計に恋愛感情を抱きやすいのです。
なお、実際に一緒に笑い会えるような相手がいる場面だと、お互いに打ち解けやすく距離も縮めやすいという点でも、勘違いに終わらず本物の恋に発展しやすいと見ることもできます。
スポーツの場面
運動をすれば血液循環を促進して筋肉に十分な酸素やエネルギーを供給するために心拍数は上昇します。
この時に異性の相手が近くにいると、自分が運動をして心拍数が上がっているのか、それとも異性の相手を見て心拍数が上がっているのかの区別がつきにくくなることで、吊り橋効果が発生します。
男女混合で楽しむスポーツやアウトドア趣味で恋が芽生えるのも、吊り橋効果によるものだと考えることができます。
吊り橋効果に関するよくある誤解
吊り橋効果はあくまでも、「ひょっとして自分はあの人の事をすきなのでは?」と勘違いをするだけであり、吊り橋効果を使えば必ず恋愛がうまく行く、成功する、恋は長続きするというわけではありません。
吊り橋効果は誰かを好きになるきっかけにすぎませんし、また緊張したからと言って誰に対しても恋心を抱くわけではないことは今まで生きてきた経験で理解している人が大半だと思います。
実際に恋を実らせたり、長続きさせるためには努力が重要なのは言うまでもありません。吊り橋効果のようなシチュエーション作れば、必ず恋が発展すると思い込んでいて、途中で失敗するのも無理はないと言えます。
また、もしも自分が緊張や不安のせいで、守備範囲外の相手に恋を抱いてしまったのなら、一度落ち着いて冷静になるまで待つことも大事です。
冷静になれた後に、
- やっぱりあの時の自分はどうかしていた
- 衝動的に告白しなくてよかった
と自覚できたのなら、それは吊り橋効果により、緊張を恋愛感情だと錯覚していたのだと自分を納得させることができます。
衝動的な恋愛で自分も相手も傷つかないためには、クールダウンする時間を持つことも大事です。
ちなみにですが、人間は不安や孤独を感じると、とりあえず誰かそばにいて欲しい、一緒にいることで安心したいという「親和欲求」が強くなります。
吊り橋効果と類似点が多く、不安や緊張から人恋しさを求めるという、不快感を避けるために働く心理の一つです。
吊り橋効果とフィクションの世界
吊り橋効果は漫画やアニメ、ドラマなどのフィクションの世界でも、場面展開や話の起伏をつけたり、盛り上げるシーンとして使い勝手がいいのでよく使われることがあります。
遅刻して学校に向かっている最中に誰かとぶつかる
「遅刻しちゃう~!」とパンを口にくわえて走るという、アニメやマンガでおそらく一度は見ているであろう展開も、吊り橋効果が働いていると考えられます。
- 遅刻して走っていることで心拍数が増えドキドキする。
- 誰かとぶつかったことで頭が混乱状態になる。
と、生理的にドキドキするシチュエーションがしっかり揃っており、恋愛対象となるキャラとぶつけて恋に発展させるという導入がスムーズにできる展開です。
壁ドン
壁ドンとは
男性が女性を壁際(または窓際、柱など)に追い詰めて、手を壁にドンと突き迫る行為。 (ウィキペディアより)
で、少女漫画だけでなく少年漫画やギャグ漫画、そしてドラマでも見られる表現方法の一つです。男性から女性に迫られるのが一般的ですが、性別が逆になったり、同性同士で壁ドンをする作品もあります。
壁ドンには
- 「ドン」と、大きな音を立てて壁に追いやることで相手に不安や緊張感を抱かせる。
- 相手に対して物理的な距離感を近づけて迫ることで、ドキドキさせ恋愛感情と錯覚させやすい。
という特徴があり、吊り橋効果が反映されているシチュエーションの一つと考えることができます
また、実際に距離が近くなったり、近づくことでボディタッチも増え、吊り橋効果の他にも画になりやすく読者や視聴者の印象に残りやすいシーンになるという特徴もあります。
主人公やヒロインがピンチのシーン
魔法や剣を使うファンタジーの世界や、SF、歴史もの、人間以外の生き物が主人公の作品においては、主人公やヒロインがピンチになるシーンも吊り橋効果が見られるシチュエーションと言えます。
- 主人公(ヒロイン)が敵に囚われてしまう
- 主人公たちが敵に追い詰められてしまう。
- ライバルとの命をかけた一騎打ちの勝負に挑む。
- 仲間の仇を取るために主人公が勝負を挑む。
など、ピンチをどうやって乗り越えクライマックスに導くかは、フィクションの世界では欠かせない王道のストーリ展開です。
もちろん、ただピンチを乗り越えるだけでは短調なので、ピンチを乗り越える最中に共闘して話の起伏を入れることもよくあります。
また、ピンチのシーンは、裏切り・別れ・協力・仲間を庇う、などの人間関係の変化や気持ちの揺れ動きを挟みやすいシーンでもあり、ただなんとなく恋愛感情が芽生えるのと比較すると、恋愛感情に説得力がつけやすいシーンでもあります。
なお、ピンチの場面が戦争の現場といった非日常的な場面の場合「戦場で恋人の話をするとそのキャラクターは後で死ぬ」というベタな伏線を用いることで、非日常的なピンチのシーンの中に日常的な恋にまつわる話題を絡め、恋愛感情の説得力や、話のテンポ・メリハリをつけやすいのも特徴と言えます。