シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』のように、障害を乗り越えて惹かれあうカップルを見ると心を動かされ「自分もあんなドラマティックな恋愛をしてみたいなぁ…」と思う人は少なくないでしょう。
また、人形浄瑠璃の『曽根崎心中』や落語の『品川心中』などの日本の伝統芸能において、いわゆる「心中物」と呼ばれる作品のジャンルが確立されて今でも語り継がれています。
こうして見ると、障害の多い恋愛に対して心を打たれる人は、国内外問わず共通のことのように感じます。
ロミジュリや心中物の作品に共通しているのは、どれも周囲からの反対や社会的な立場の違いといった、恋愛を妨げる障害が登場し、その障害を時に乗り越え、時にひれ伏しながらも、お互いが絆を深めて行く様こそ作品の魅力とも言えます。
そんな、障害の多い恋愛にのめり込むのは、何もフィクションの世界では限らず現実の世界でも同じということが、「ロミオとジュリエット効果」という心理学の言葉で説明することができます。
今回はロミオとジュリエット効果、そして障害が多い恋愛が抱える問題点についてお話いたします。
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目次
ロミオとジュリエット効果とは
心理学では、ロミオとジュリエットのように、周囲からの反対や社会からの偏見が強い恋愛、つまり障害の多い恋愛ほど燃え上がりやすいという現象を「ロミオとジュリエット効果」と呼びます。
心理学者のドリスコールは以下の実験を行い、ロミオとジュリエット効果を提唱しました。
- 140組のカップルを対象に一定期間調査を開始。
- カップルの熱愛度と障害度を数値化し、相関関係を調査。
- その結果、障害度が高いカップルほど、熱愛度が高くなる傾向が判明した。
なお、ここでいう障害とは、両親や親戚、友人、知人からの反対や社会的立場による制約、などの二人の関係を脅かす存在のことを指します。
恋愛は本来自由で立場や年齢、国境などを超えて行われるものですが、実際にその恋愛が当事者以外から必ず受け入れられる、というわけではありません。
浮気や略奪愛など誰かを不幸にしてまで自分たちの恋愛を優先するような、障害の多い恋愛ほど、熱中してのめり込んでしまうことがロミオとジュリエット効果は説明しているのです。
なお、周囲から恋愛が反対されたときに、逆に意固地になってその恋愛にしがみついてしまう心理は、心理的リアクタンスでも説明することができます。
ロミオとジュリエット効果が起きやすい状況・シチュエーション
ロミジュリはあくまでもフィクションの世界ですが、リアルの世界でこの効果が出やすい状況は以下のものが挙げられます。
恋愛が禁止されている状況・職業での恋愛
アイドルや芸能人など、恋愛騒動がスキャンダルとして報道されたり、純情なキャラクターとして売っている仕事の場合「恋愛が禁止されている」という状況が、より恋愛感情を強めてしまうことがあります。
また、教師と生徒、医者と患者のように、公私混同をした恋愛をすることで職務に影響が出るリスクがある職業も同様です。
社内恋愛・部内恋愛
教師や医者といった厳格な仕事でなくとも、普通の会社員同士で行う恋愛(社内恋愛)も、ロミオとジュリエット効果が働きやすい状況と言えます。
社内恋愛は
- 仕事中にうつつを抜かしたり、サボってしまい業務に支障をきたす。
- 上司と部下の関係で恋愛をすることで、仕事に私情を挟むのが癖になってしまう。
- 恋愛と仕事を混同することで、他の社員や上司から問題視される。
- 仲がいい様子を見て刺激を受けた他の社員がセクハラを働いてしまうおそれがある。
- 破局したたときに、どちらかが会社を辞めてしまう。
などの、仕事を円滑に進める上での妨げとなることがあります。
また、同様のことは学校の部活動でも同じで、恋愛に熱を上げることで練習が疎かになったり、そのことで他の部員から顰蹙を買って人間関係をゴタゴタにする原因となります。
そのような障害があるだけに、社内恋愛・部内恋愛はのめり込みやすい恋愛と言えるのです。
年齢差が大きすぎるカップル
年齢差が大きすぎるカップルも障害の多い恋愛です。
年の差が大きいと将来設計が難しくなりますし、「遺産目当て」「玉の輿(or逆玉)」「甘えたがりなやつ」という批判的な声も上がりやすくなります。
素直に受け入れてもらえることが少ないために、逆に意地になってのめり込んでしまう恋愛と言えます。
浮気・不倫
浮気や不倫は、自分と相手の家族関係及び仕事関係などの幅広い人間関係に悪影響を与えかねない大変危険な恋愛です。
しかし、危険であり自分も相手も失うものが多いとわかっているからこそ、障害度は高まり、より熱中してしまう恋愛とも言えます。
しかし、熱中しすぎたあまりに、関係者に迷惑をかけたり、損害賠償を請求されたり、自分や相手の生活を破滅させてしまうことがあるので、安易に進められる恋愛とは到底言えません。
同性愛者など偏見が多い人との恋愛
以前と比べて、LGBTなどの性的マイノリティの人の認知度は上がってはきているものの、偏見や差別は以前として強く、性的マイノリティの人との恋愛は反対されやすいのが実情です。
二次元の相手に対する恋愛
恋愛の形は様々ありますが、私達が生きている三次元の世界に限らず、アニメや漫画などの二次元の世界の相手に対する恋愛も、周囲からの目や物理的な(画面など)障害が多いためにのめり込みやすい恋愛と言えます。
ロミオとジュリエット効果が抱える問題点
障害の多い恋愛は、情熱的でドラマティックな恋になる一方で、情熱的な恋を推し進めるために大きな決断を下したり、周囲の忠告を聞かなかった結果、トラブルを引き起こすことがあります。
社会的な信用を失う恐れがある
浮気や不倫をすることで、自分の仕事や立場、家族や友人などを失ってしまうリスクがあります。
いくら障害の多い恋愛だからといっても、その恋愛のせいで他の人に迷惑や損害を与えてしまえば、自分の社会的な信用を失い、更に偏見や差別に苦しんだ生活を送らなければいけないリスクもあります。
また、場合によっては裁判沙汰になり慰謝料や養育費を支払い続け、社会的な制裁だけでなく経済的な制裁を受けることもあります。
DV・モラハラに巻き込まれるリスクがある
障害の多い相手との恋愛が、必ずしも優しくて常識・良識のある相手との恋愛だとは限りません。
DVやモラハラのように身体的な暴力や暴言、乱暴な態度をする相手に恋をしてしまった場合は、相手の言動を自分が乗り越えるべき障害だと感じて、自分を傷つけるような相手と恋愛関係を持ってしまうことがあります。
また、DVやモラハラに手を染めるような相手との恋愛は、大抵は周囲の人から「すぐに別れろ」「そんな相手のところにいたら危険だ」と言われて忠告の意味で反対されることが多いものです。
しかし、その声すら自分が乗り越えるべき障害だと感じてのめり込んでしまうこともあります。
周囲から孤立して共依存に陥る
周囲の反対の声から逃れ、半ば駆け落ち同然のような恋愛をしてしまうと、人間関係を切り捨てたことで孤立してしまい、共依存関係に陥ることがあります。
障害を乗り越え自分のことを誰も知らない環境で過ごす生活は理想のように思えますが、一方で困ったときに相談できる人がおらず、その寂しさや不安からお互いがお互いに精神的に依存してしまい、抜け出せなくなるのです。
また、共依存とはいかなくとも、どちらか一方のみが依存する関係になる場合もありますが、その場合も、依存する方は「相手がいないと不安になる」という生きづらさに苦しみ、依存される方も「相手にいつも寄りかかられて疲れる」といった生きづらを感じてしまいます。
衝動的な恋が落ち着いた時に相手の本性が見ることも
ロミオとジュリエット効果が働くような恋愛関係は、お互いがお互いに「自分たちは周囲から認められない恋をしている」という後ろめたさを抱えているものです。
しかし、その後ろめたさは恋愛をより熱中させるための刺激となるので、より感情的に半ば自分を見失うような衝動的な恋愛に走ってしまうのです。
衝動的な恋愛の最中は、お互いにこの恋愛を成就させるという目的のために、一種の共犯関係のような一体感が生まれて、より絆を深めやすくなります。
しかし、衝動的な恋愛が一段落したあとは、お互いに目標を見失ってしまい愛情が冷めてしまったり、冷静になれたことで今まで隠していたクズな一面などの本性が垣間見えることもあります。
また、冷静になれたことで、今までの衝動的な恋愛をしてきた自分に対して罪悪感を抱いたり、その罪悪感を利用されてパートナーの言いなりになり、DVやモラハラを受けてしまうことも少なくなりません。
なお、加害者となるパートナー自信も自分の罪悪感を払拭するための行動として、相手への暴力や暴言を利用していることもあり、安泰して長続きするためには、後に述べるように周囲から承認されるような恋愛をすることが望ましいと言えます。
長く関係を続けるためには、周囲から承認されるような恋愛がよい
先ほど述べたドリスコールの研究には続きがあり、ロミオとジュリエット効果によって高まった熱愛度は、あくまでも一時的なものにすぎなかった、という結果も出ています。
将来付き合っている相手と結婚すること、家庭を持つことまで考えている場合は、障害を乗り越えるようなドラマティックな恋愛ではなく、周囲の人から承認を得やすい関係を築くことが大事というわけです。
また、ロミオとジュリエットや曽根崎心中、品川心中などの作品に共通しているのは、これらの作品の結末は自ら死を選ぶという「悲劇」を描いているという点です。
フィクションの世界だからこそ悲劇や心中物という重いテーマでも、どこか他人事のように感じるものですが、それを理想的な恋のように感じてしまう皮肉な人間の心理を、ロミオとジュリエット効果は物語っているのかもしれません。