仕事で抱くストレスの多くは、人間関係によるものが多いものです。
そのストレスを減らすコツとして「他人に期待しない」ことがライフハックとして、ネットや雑誌などでたまに話題になりますが、それを鵜呑みにして誰に対しても期待しない生活を送ることは、無条件に肯定できるものではありません。
もちろん、他人に勝手な期待や幻想や都合のいい思い込み抱かない分、人間関係の悩みは減って快適になることはたしかにあります。
しかし「あの人は他人に期待していない」という態度を他人が感じ取ることで、自分に対する評判がガラッと変わってしまったり、「期待されていないから頑張らない」関わる人の無気力を招くことになります。
子育てや教育の場において、周囲から期待を受けなかった子供が、あえて問題行動に出て周囲の注目を集めたがるように、期待をしないという行動は自分は快適でも他人に悪影響を与えてしまうために、仕事の場においては実践するにしても慎重になることが大事なのです。
今回は、仕事において「他人に期待しない」を実践するときに、気をつけておきたいことについて、お話いたします。
目次
「あなたには期待していない」とストレートに言うのは危険
早速ですが、いきなり上司や同僚から「あなたには期待していないよ」と、ストレートに言われたら、あなたはどう感じるでしょうか?
「期待していないよ」と言われて、スポ根漫画のように何クソ根性で一念発起して努力できる人がどれだけいるかは知りませんが、大抵の人は
- 「この人は一体何を言い出すのか…」とあまりの唐突さに驚き呆れて不信感を抱く。
- 「自分にはこの仕事を通して伸び代がないと思われているのか…」と感じて、モチベーションが下がる。
- 「期待されていないんだから、別にこの人のために頑張ることはないよね」と解釈する。
- 「期待していないとわざわざ教えてくれただから、こっちも期待せず冷たい態度をとればいい」と、相手と同じことをする。
と、良い印象を相手に対して抱きたくても抱けないはずです。
さすがにストレートに言うのは極端な例ですが「期待していない」ということを匂わす言動には、こうした仕事で関わる人から不信感を抱かれたり、自分の信用を落としかねない要素が含まれています。
こうした「相手が自分の態度を見てどう思うのか…」視点を持たず、ただ自分がストレスから開放されたいがために「他人に対して期待しない」を実践すれば、周囲から白い目で見られたり、相手も同じく自分に期待をかけずに冷たく距離を置いた関係になっても無理はありません。
「他人に期待していないに、自分は他人から期待されて当然」という態度は通用しない
「他人に期待しない」を実践する場合、他人から自分に対して期待を求めないことを実践するのも肝心です。
この事は、心理学の社会的交換理論で仕組みを説明することができます。
社会的交換理論では、お互いに居心地のよい人間関係はギブ&テイクの関係であり、ギブとテイクの量が等しい(ギブ=テイク)の関係こそ長続きしやすいとされています。
「他人に期待しない」を実践すれば、当然ながら自分は他人にギブはしない。つまり、ギブ=0です。
そして、ギブ=テイクのときに居心地のいい関係となるために、ギブ=テイク=0となり、他人からのテイクを求めない状態であれば、お互いに心地よく続きやすい人間関係となります。
しかし、「他人に期待しない」を実践している当人が「私は他人に期待しないけど、自分は他人から期待されて当然」という態度をとるときは
- ギブ=0 … 私は他人に期待しない
- テイク>0 … 私は他人からの期待を受け取る
- ギブ≠テイク … ギブとテイクの不均衡
となり、居心地が悪くなり、関係を続けるのが辛くなります。
もちろん、実践している本人は自分何も与えないのに、他人からは期待という名目で時間や労力を絞り取って、自分だけが満足感を味わえているので、関係を続けたいと願っているかもしれません。
しかし、時間や労力を奪われている側からすれば、これほど不平等で理不尽なものはないでしょう。
相手に期待という形で奉仕しているのに、それに対する見返りが何も得られない。それどころか「私が周囲から期待を受け取るのは当然」と開き直っている人が目の前にいれば、真面目に関係を続けるのがアホらしくなり、ギブ=テイク=0の関係…つまり、期待を返さず距離をおく関係を構築して楽になろうとするのも無理はないでしょう。
「他人に期待しない」を実践する以上は、こちらも「他人から期待を求めませんよ」という態度を貫き、関係が不均衡にならないように気をつけることが大事なのです。
全く期待しないことは、自分からコミュニケーションを拒絶しているのと同じ
「他人に期待せず」「他人からの期待を求めず」という関係は、一見するとお互いに過度な期待をかけないので心地よいかもしれませんが、お互いに期待をかけるだけの義理や人情がある関係ではないと感じてしまいコミュニケーション不足に陥ることもあります。
期待をかける、かけられるという感情を感じさせないコミュニケーションなので、いつも事務的でビジネスライクな関係。この関係は表面的にはコミュニケーションをしているように見えて、実は相手の気持ちや感情が全く感じ取れない不気味さがあります。
お互いの仕事に対する興味や関心は示せても、目の前の相手の人となりや内面、考え方などは分からないまま。もちろん、会議やメールなどで会話はしているけれど、どちらも自分の内面を打ち明けて、深く関わる事を拒んでいる関係とも言えます。
もちろん、仕事において公私混同して感情を持ち込もうものなら、余計なトラブルを招きますが、あまりにも感情が欠落した機械的な関係では、相手からの共感や理解を得られなくなります。
このことが、接客業や営業など社外の人と関わる人との関係で起きたとしたら、お客様に期待しないので自分は気楽かもしれませんが、お客様からは不審感や近寄りがたさなどのネガティブ印象を与えてしまう。そして、会社全体のイメージ悪化を招くおそれがあります。
「過度な期待はせず、かと言って無視や無関心でもない」程度を心がける
もちろん、他人に対して期待をすることは
- 期待というプレッシャーを押し付けてし相手を追い詰めてしまう。
- 自分の期待が裏切られると、そのショックで嫌な気持ちになる。
という、負の側面がありますし、これを回避するためにも「他人に期待しない」というテクニックは一定の効果はあります。
しかし、上でも書いたように、自分だけ期待されるように仕向けたり、お互いに期待しないまま内面がわからない関係も、決して万能なテクニックでもありません。
この問題を解決する方法として、期待が強すぎるor弱すぎるの両極端に偏らないことが大事です。
見出しで書いているように「過度な期待はせず、かと言って無視や無関心でもない」ぐらいの、適度な期待を掛け合う関係を目指すのが大事なのです。
適度にいい期待をかければ、相手もその期待に応えられるように頑張れる。また、適度なので重荷に感じたり、無気力にならずに済む。
ピグマリオン効果のように、適度な期待は相手自身が抱いている成長を達成させるのにも効果的です。
仕事という他人との関係を切っても切れない状況において、決して「誰にも期待しない」という極端な方法にこだわるのではなく、適度な期待を掛け合える関係を目指すようにしましょう。
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