自信過剰で自惚れが強い、やたら褒めてくることを求めてくる、他人をナチュラルに見下す…などの鼻につく言動が多い割には、そのことを指摘されると感情を爆発させて怒り顕にしたり、ふてくされて会話を拒もうとする。
自尊心が肥大化して対人関係でトラブルを抱えがちな自己愛性人格障害(自己愛性パーソナリティ障害)の人には、こうした特徴が見られます。
しかし、自己愛性人格障害の人には、地位や名誉、肩書き、収入など、自分を大きく見せる社会的ステータスを身に付けることに強いこだわりを持っており、(人間関係でトラブルこそ起こすものの)仕事には貪欲で、部下を従えるまでの立場に上り詰めることも少なくありません。
今回は、そんな自己愛の強い人の上司の元につくことになった場面で役立つ、上手な付き合い方についてお話いたします。
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自己愛性人格障害の上司と上手く付き合うために気をつけるべきこと
人前で指摘して自尊心を傷つけないようにする
自己愛性人格障害の人は、肥大化した自尊心を抱えている。そして、その自尊心で自分も他人も振り回すことから煙たがられてしまうと同時に、大きくなりすぎた自尊心が傷つけられることを強く恐れている人でもあります。
そのため、仕事において自分の自尊心が傷つけられるような場面、つまり…
- 指摘されたり、叱られて恥をかく場面。
- 自分の意見や考えを否定される場面。
- 多くの人の前で自分の未熟さや愚かさを暴露される場面
などを嫌うと同時に、自分の自尊心を傷つけた人間に強い敵意を持ち、執拗につけ回すことが目立ちます。
そのため、自己愛の強い上司と上手に付き合うことを第一にした場合、なるべく上司の敵意が自分に向かないように気をつけること。そして、自尊心を傷つけるような言動を控えることが重要です。
もちろん、この付き合い方では自分が抱えたもやもやとした気持ちが晴れないので苦しい思いをする問題が生まれてきます。
しかし、もし仮に人前で恥をかかせるような事をストレートにいえば、自己愛の強い上司から反感を買い、それにより自分が干される、冷遇を受ける、あらぬ噂などを流されて孤立するなど別の問題が生じるリスクがあり、上手な付き合い方とは言い難くなります。
もしどうしても指摘をしたい気持ちに駆られた場合は、上司よりも立場が上の人あるいは同じ立場の人に言ってもらえるようにお願いをしてみて、自分に怒りの矛先が向かないような対策をとるのが効果的です。
褒める時はルールを作って褒めるようにする
自己愛性人格障害の人は対人関係において、やたら自分を褒め称えるように迫ってきたり、「自分は優秀で特別な人間である」という言質を取るかのように他人に褒め言葉を言うように迫ることがあります。
もちろん、こうした言動に対して社交辞令としてとりあえず褒めておき、面倒事が起きないように徹するのも、付き合い方の一種かもしれません。
しかし、無条件に褒めてしまうと「なんでも自分の思い通りになる」という勘違いを起こす。そして、その勘違いに自分も巻き込まれてしまうリスクがあります。下手をすれば勘違いして権力を盾にパワハラやセクハラなど、プライベートへの介入など、今まで以上に面倒な状況を誘発するリスクもあります。
そうならないためにも、上司を褒める時はある一定のルールを決めておくのが効果的です。
例えば
- 仕事に関わる内容は褒めるが、仕事に関わらないことを褒めない、あるいは簡潔に褒めるにとどめておく。
- 一度目の話題は褒めるけど、同じ内容を2度以上してきた場合は褒めない、あるいは簡潔に褒めるにとどめておく。
- 本人が努力して得た成果や業績は褒めるけど、他人の成果を横取りしたり「わしが育てた」と我が物顔で語る場合は褒めない、あるいは…(以下略
など、褒める事柄とそうでない事柄について自分の中でルールを決めておき、淡々と実行するのが効果的です。
自己愛の強い人から見れば、自分のことを貶しこそしないが、よく褒められる状況とそうでない状況の2種類あるという事実を認識する。そして、どうしたら自分がよく褒められる状況へと近づけられるのかを学習させる意図が、この方法にはあります。
見返りを期待しない
自己愛性人格障害の人は、他人から褒め言葉なりチヤホヤされることを求める一方で、施しをくれた人に対して自分から何かを差し出すことをしない傾向があります。要するに、他人から褒められることを望んでいても、褒めてくれた人を褒め返すようなことはしないのが、自己愛性人格障害の人がよくとる行動です。
こうなるのは自己愛の強さ故に「褒められる人は格上、褒めた人は格下」という価値観をもっていることが影響しています。もしも自分が褒める側になれば、自分は格下で見下される存在であると自覚して自尊心が傷つく恐れがあるからこそ、意地でも褒め返そうとしないのです。
そうした心理を踏まえた上で、自己愛の強い上司と付き合う時は、上司が何かをやってくれるといった見返りが必ずあると期待しないことが大事です。
一般的に通用しているギブ&テイクの関係が通用しない相手だと理解した上で、割り切った関係にとどめておくことが肝心です。
嫉妬されそうな話題は口にしない
自己愛性人格障害の人は、自分が注目されることを過度に求める一方で、他人が自分よりも注目を集める状況をひどく嫌います。
とくに、部下という上司である自分から見て格下の人間が、上司である自分を差し置いて目立つような状況になろうものなら、それにより自尊心が強く傷つくのは明白です。
そのため、上手に付き合うことを第一にした場合、上司が嫉妬しそうな話題は口にせず、穏便に済ませる関係に徹するのが賢明です。
なお、これは自慢話をどんな時でも絶対にしてはいけないという内容ではありません。
あくまでも、上司と同席している場面やSNSやメール上など上司の目に入る場面では自慢話を控える。一方で上司がいない場面や自分のプライベートな人間関係では問題なく自慢話をする…という具合に、TPOをわきまえて行動することをさします。
礼儀作法を身につけて実施する
自己愛性人格障害の人は、自分が大事にされていないと感じる言動を取る人を前にすると、自尊心が傷つけられたと感じて強い不快感を示すのが特徴的です。(なお、自分は他人を大事にしないののに不快になるのだから、まさに「どの口が言う」というツッコミがお似合いであるが…)
ですので、面倒かもしれませんが、挨拶をしっかりするなど、上司に失礼がないように社会人としての常識や礼儀・マナーを身につけて、上司を下手に刺激しないことが重要です。
もちろん、自己愛が強くて失礼な言動をする上司に対して、「たとえ義理であっても、無礼を働く人間に対して、礼儀を尽くすなんて馬鹿げたたことはしたくない!」とお思いになるかもしれません。しかし、自己愛の強い上司に目をつけられ、職場でますます嫌な思いをしないためにも、礼儀正しく振舞って自分守ることは大事です。
加えて、「自己愛の強い人が不機嫌になるのは、自分がぞんざいに扱われているのを実感したとき」と、相手が怒る原因が一つわかっただけでも、自分の中で面倒な人との上手な付き合う術を身につけられたと感じて、メンタル面での余裕が生まれてきます。
面倒だと感じる人の内面なんて知りたくないし、知る気も起きないとは思いますが、どうしても関わらなければいけない場面を乗り切るためには、面倒な人の心理や価値観を知っておくことが大事なのです。
なお、「礼儀正しく振る舞える」こと自体が、上司以外の人と仕事をしていくにあたって、相手が安心して自分を信用してもらうための判断材料になります。とくに、社内外関わらず多くの人と顔を合わせる仕事をしている人であれば、礼儀正しさは身につけておいて損はありません。
余談 自己愛性人格障害の上司から学べるもの
自己愛性人格障害の人は性格面や対人関係においては難があるものの、仕事の面ではそれなりに見習うべきところがある人とも言えます。
- 社会的な地位を得るための貪欲さ
- 自分を有能に見せるための嘘ではないレベルの話術
- 周囲から注目を浴びるための自己アピールの多さ
- 他人よりも自分の願望を優先する物怖じしない態度
など、立場の向上や収入アップのために妥協してはいけない場面に役立つ要素については、学べるものがあると感じます。
とくに、自分が上司で部下を指揮する立場にいる人、あるいは自営業(フリーランス)や経営者など自分で仕事を獲得していく必要性がある人にとっては、自己愛の強い人が仕事で見せる貪欲さについては、見習うべきものは多くあると感じます。
もちろん、さきほども述べたように性格面や対人関係において自己愛の強さを発揮してしまうと、不要な衝突を招いて自分の信用を失う恐れがありますので、くれぐれも見習うべき点と反面教師にする点とを混同しないよう気をつけましょう。
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