学生さんや若い人の間では、うじうじとしていて陰気な性格をしている人のことを「陰キャラ(いんきゃら)」と呼びます。(対義語は陽キャラ)
一昔前に流行って「リア充(=陽キャラ)、非リア充(=陰キャラ)」と非常によく似た意味を持つ言葉と見ることもできます。
陰キャラとは心理学の用語でもなんでもなく、ネット、SNS、youtubeなどを中心に広まっている若者言葉の一種であり、自虐の意味としても陰キャラは使われることがあります。
一般的に陰キャラは陰と陽の「陰」の文字から見ても、暗くて、ジメジメとして、パッとしない性格の人によく使われる言葉です。
そんな意味を持つことから、陰キャラの人は周囲の人からのいじめや、ネット上で「お前陰キャだろ?」といういじりや煽りの対象になることは少なくありません。
学校におけるクラス内のヒエラルキー(スクールカースト)においても、陰キャラの人は下位に属すことが多く、上位にいる陽キャラの人から、雑用を押し付けられたり、見下しの対象になることも少なくありません。
そんな汚れ役とも見て取れる陰キャラをいじめたがる人の心理を紐解いていけば、実は陰キャラに通ずるコンプレックスがあるためちょっかいを出していたり、陰キャラをいじることで自分は「陰キャラではない」という実感を得るために、あえていじっていることもあります。(無論、そんな理由があってもいじめが認められるわけではありませんが…)
今回は、そんな陰キャラと陰キャラにいじめたがる人について、お話いたします。
陰キャラの特徴
陰キャラという言葉自体、陰気という言葉から想像して、性格面、行動面、趣味、考え方の癖に至るまで幅広い特徴を持っています。
陰キャラの特徴の数は非常に多いですが、とくに象徴的なものをざっと並べるとするならば
- 根暗、卑屈、嫉妬深い、消極的な性格である。
- コミュニケーションが苦手で、人とうまく話せない。
- 友達が少ない、あるいはネット上にしか友達がいない。
- 恋人がいない、できない、できるような見た目をしていない。
- インドアな趣味、とくにアニメや漫画に関する趣味を持っている。
などの、特徴があげられます。
漠然としたイメージでは、陰気の「陰」ということもあり、どれも性格の暗さを感じる要素が、陰キャラの特徴に当てはまっています。
ただし、陽キャラ同様に言葉の範囲が広いので、どこからどこまでも陰キャラの特徴なのかは非常に曖昧です。
そのため、簡単に陰キャラだと自称したり、都合の悪い時は「陰キャラではない」と言い換えができてしまうのが、陰キャラ(そして陽キャラも)という言葉の特徴とも言えます。
ユングの性格分類から見る陰キャラ
このように、非常に曖昧ですが、心理学者ユングの性格分類から陰キャラを見ていきましょう。
ユングの性格分類は
心理学者フロイトの影響を受け、リビドー(性衝動)が自分の外側に向かっている人を外向型、リビドーが自分の内側に向かっている人のことを内向型と呼びました。
また、外向型・内向型ともに思考型・感覚型・感情型・直感型の4つの心の機能があると分類して、合計で8つのタイプに性格を分類しています。
というものです。
陰キャラの特徴を踏まえると、外向型と内向型で言えば、内向型の性格であると考えることができます。
また、内向型の思考型・感覚型・感情型・直感型の特徴を見ていくと
- 内向型且つ思考型:物事を深く考えられる性格。しかし、アピールや説明が苦手。
- 内向型且つ直感型:言葉にしにくい直感に優れており芸術家、詩人のような性格。しかし周囲からの理解が得られにくい。
- 内向型且つ感覚型:自分独自の感性を大事にする性格。ただし、何の前触れもなく衝動的動くこともあり変人扱いされやすい。
- 内向型且つ感情型:比較的穏やかで物静かな性格だが、その反面頑固で自分の考えにこだわる癖がある。その頑固さゆえに人とうまく交流をするのが苦手。
という性格に分けることができます。
陰キャラを含め内向的なことを別に否定しているわけではありませんが、内向的な性格や考え方が災いして、
- 人と打ち解けられない
- 自分のことを理解されにくい
- 独特の感性ゆえに多くの人からの共感を得にくい
という周囲の人との噛み合わなさが、陰キャラを陰キャラたらしめているのだと考えることができます。
周囲と噛み合わないことから、学校や会社のように集団生活を強いられる場所では居場所を見つけにくく孤立しやすい性格とも言えます。
そして、いじめの対象になったり「いい年して孤立している」と見下しや蔑みの対象になることも納得できます。(もちろん、孤立したからと言ってすぐにいじめていい理由にはなりませんが…)
陰キャラをいじめたがる人が持つコンプレックス
上に述べたように、陰キャラの人はその特徴ゆえにいじめやいじりの対象になります。
しかし、陰キャラをいじめる人をよく調べていくと、陰キャラと呼ばれる人にコンプレックスを持っており、その苦しみやストレスから陰キャラいじめに走っている例があります。
純粋に「陰キャラ憎し」という理由でなく、陰陽含めたキャラに関する漠然とした不安や、自分が持っている陰キャラの人と共通点があることに気づいたモヤモヤとした気持ちが、いじめの原動力になっていることがあります。
陰キャラでも陽キャラでもない立場に不安を感じている
陰キャラと陽キャラは、お互い対になる性質ゆえに、人間は必ずどちらかに属するものだと思われがちですが、決してそうではありません。
陰キャラの人もいれば、陽キャラの人もいる、そして陰キャラでも陽キャラでもないどちらのグループにも当てはまらない人がいるものです。
陽キャラのように明るく降るまって他の人と打ち解けるわけでもなく、かと言って進んで孤独な生活を選んだり、インドアな趣味に打ち込むわけではなく、どっちつかずで人の意見に流されて自分の意見や立ち位置がよくわからない…
そうした漠然とした不安の解消先が、ちょうど見下しやすくいじめられても反撃されるリスクが少ない陰キャラへと向かうことがあるのです。
陰キャラをいじめている間は、「自分は陰キャラのような人間とは違う」実感を得られますが、かと言って陽キャラのように明るく振舞うための努力をしているかといえば、そうではなく、ただ場当たり的に陰キャラにキツくあたって、鬱憤を解消しているだけで立場の不安定さは残ったままです。
根本的な自分の立場の不安定さを解消しない限りは、自分よりも下の人に対する八つ当たりで不安を解消する癖が抜けず、下手をすれば自分が憎んでいる陰キャラ以上に陰湿な人になってしまうリスクもあります。
なお、陽キャラの人であれば不必要に自分とは違うタイプの人をいじめたりちょっかいを出すような真似をすると、自分の評判を落とすことになりかねませんし、いじめたことによる利益(自分の名声やアピール等)は乏しいものです。
ですので、「陰キャラいじめは陽キャラがやっている」というよくある考え方は、実は自分を陽キャラだと思いたい陰でも陽でもない人がやっているという考え方もできます。
自分にも陰キャラな部分があるのに、それを認められない
自分にも陰キャラだと呼ばれる部分があるものの、それを受け入れることに苦痛を感じる人がいます。
陰キャラという言葉自体、あまりポジティブな意味で使われるものではなく、プライドが高かったり自分のイメージやキャラを大事にしている人は、なるべく陰キャラと思われるような要素を周囲からバレないようにして振舞うことがあります。
陰キャラらしい要素があるとバレてしまえば、「あの人実は陰キャラだったんだ…」という失望を招いて自分の評判が揺らいでしまいます。
そうならないためにも、陰キャラらしい性格や行動を認めず敵視したり厳しく取り締まるかのように自分を戒め用としますが、その厳しさが自分以外の誰かの陰キャラらしさまで対象になってしまうことで、いじめや見下しにつながることがあります。
ダイエット中の人が、太っている人の食事に余計なお世話をするように、陰キャラな部分を認めようとしない人は、他人の陰キャラな部分にも表面的には善意のように見せかけて、陰キャラな部分を正すための余計なお世話でしかなく、煙たがられているということもあります。
結果として、自分の個性として陰キャラな部分が認めていないので、他人の陰キャラな個性を認めることもできていないという、自分も他人も尊重できていない人だと思わてしまう原因になります。
陰キャラを克服したけれど未練や後悔の念を持っている
かつて陰キャラと呼ばれる人だったけど、自分の努力で陰キャラを脱出して陽キャラへとクラスチェンジした人が、陰キャラの人にキツく当たることがあります。
- オタク趣味を卒業して人に堂々と言えるような趣味に変えた。
- 人付き合いが苦手だけど、コミュ力を磨いて友達や恋人を作った。
- ネガティブな性格をやめて、ポジティブな性格に変えた。
など、自分を変えるための努力をして結果を出しているのは素晴らしいのに、何かにつけて陰キャラの人に対して、しなくてもいい八つ当たり、お説教、ご高説、煽り、挑発などを繰り返します。
このような行動をとるのは陰キャラな自分に対する未練や後悔が原因で、陰キャラを悪くいうことでわざわざ後悔するようなことではないと思い込もうとしたり、キツく当たることで今の自分の自尊心や自己肯定感が保とうとしているのです。
陰キャラ脱出のための努力を認めてもらえない辛さを感じている
また、苦労して陰キャラ脱出をした人ほど、脱出のために自分がしたくろうをしていない現役陰キャラの人を見ると「自分の苦労とは一体なんだったのか」と思い起こされてしまい、焦りや不安の矛先が陰キャラに向かいます。
まさに、体育会系の部活で先輩・OB(OG)からのシゴキやイビリが延々と受け継がれ、負の連鎖が繰り返されるのと同じです。
陰キャラ脱出に成功した人は、「脱出のためにした自分の努力や頑張りを他の人にわかってもらいたい」という気持ちと「でも、その努力が今の周囲にいる人から受け入れてもらえず、結局陰キャラを煽ることでしか解消できない」というジレンマに苦しまされることが多くあります。
もちろん、自分自身のために陰キャラ脱出をしたので、受け入れてもらいたいと思うのは筋違いだという意見もありますが、陰キャラを脱出して他人と交流を持つ上では自分のことアピールして相手に知ってもらう場面は出てきます。
しかし、そこでアピールする話題が陰キャラ脱出のための努力や頑張った自慢話ばかりでは、相手から素直に受け入れてもらえないのも無理はありません。
相手から受け入れられないことで承認欲求は満たせず悶々とした気持ちばかりが膨らんでしまいますが、かつて属していた陰キャラのグループに戻るわけには行かず、気が付けば陰でも陽でもない不安定な立場に陥ってコンプレックスを強めてしまう…ということにならないとも言い切れません。
陰キャラいじめとペルソナ・シャドウ
さきほど登場した心理学者のユングで有名なのが「ペルソナ(仮面)」と「シャドウ(影)」の概念。
ペルソナは人前で見せる、偽りの自分、建前の自分、外面の自分という意味を持つ言葉。
一方シャドウは、人前では見せられないような本当の自分、本音、内面、心の奥底にある自分という意味を持つ言葉。
心理学では、誰かの行動に対して自分のシャドウ(影)を感じ取った時に、生理的な嫌悪感を感じて過剰に反応してしまいます。
ペルソナ・シャドウの概念に基づくと、陰キャラに対するコンプレックスやマイナスのイメージを持っている人の場合、
- 「ペルソナ=陽キャラらしさ、あるいは陰キャラらしくないもの」
- 「シャドウ=陰キャラらしさ」
と考えていることから、他人の陰キャラらしさにイライラしたり、いじめや見下しなどの行動を取ってしまうと考えることもできます。