つい先日、※1某自称東大卒の起業家が実は中卒のニートだと判明した…という、香ばしいニュースがネット上で話題に。
そんな自称起業家に騙されていた人、そしていかにも胡散臭い人を見抜けないことに対して、ネット上ではちょっとした議論が展開されておりました。(ただし、この中卒という経歴にも疑義が出ているのだが…)
かつて(悪い意味で)一世を風靡した、耳の聞こえない某音楽家やホラッチョ(ホラ吹きの意)という汚名あだ名がついていたショーン某氏など、胡散臭い人の嘘になぜ騙されるのか、どうして見抜けなくなってしまうのか…については、心理学の「単純接触効果」及び「認知的流暢性」の概念を用いることで、その仕組みを知ることができます。
今回は、単純接触効果と認知的流暢性から、人が騙されてしまう心理についてお話しいたします。
目次
真偽の怪しいの話を何度も聞くうちに親しみやすさ、好感を感じてしまう
単純接触効果とは全く見知らぬ人の顔写真を何度も見ると、見る回数が増えるにつれてその人に対する好感度が高くなることを表す心理学用語です。提唱した心理学者ロバート・ザイオンスの名前とって「ザイオンス効果」と呼ばれることもあります。
その性質上、恋愛や人間関係に関する心理学を調べたことがある人ならば、1度は耳にしたことがあるはず。ただし、会えば会うほどに嫌いになる「単純接触効果の逆効果」があることも報告されています。
単純接触効果をもとに考えると、たとえ胡散臭い雰囲気を漂わせ、およそ信用できないような印象の人であっても、何度もテレビやネット上でその人の顔見る機会を重ねるうちに、次第にその人に対して親近感を覚えてしまう。
つまり、初めて見たときに感じた胡散臭さを感じにくくなり、代わりに親しみやすさや安心感、信頼感を抱いてしまうのです。
なお、単純接触効果が働く対象は、その人自身の顔や見た目といった身体的特徴に限りません。
例えば、胡散臭い人が放つ言葉やストーリーなど、実体のない事柄・情報等に対しても単純接触効果が働く。最初は胡散臭いと感じていた情報でも、繰り返し見聞きしたことで怪しく思うことが減り、つい信頼してしまうようになるのです。
つまり、胡散臭い人が何度も儲け話などのおいしい話を口にする場面に出くわすたびに、「そのおいしい話はどうやら確からしい…」と感じてしまい、つい話を信じてしまうようになるのです。
なお、儲け話等の実体のない物に働く単純接触効果は、胡散臭い人そのものに出会わなくても発生してしまうのが特徴的です。
例えば、ネット上の匿名掲示板やテレビで放送された儲け話に関する番組など、儲け話という情報を普段の生活の中でも何度も見聞きしてきた。
これにより、出処や正確性が不明な儲け話であっても、その話に対する怪しさや不信感が薄まってしまう。
そして、いざ目の前に現れた初対面の胡散臭い人であっても、すでに不信感が薄まってしまっているために、その人が放つ儲け話に親しみやすさを覚え、まんまと話を信じ込んでしまうのです。
なお、余談になりますが、この手の儲け話のテンプレートをしてよくあるのが、極貧からの億万長者…というような一発逆転のストーリーです。
このストーリーは、フィクション・ノンフィクションに限らず王道的なストーリー展開で、エンターテイメントとして楽しみやすい。またハッピーエンドになるので後味も良く、ストレスも少ない。
こうしたどこかで見聞きしたことがあるようなストーリーを雛形にして、胡散臭い人は騙す人に対して不信感を抱かせないようなブランディングをしてくることがあります。
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話された嘘の話がすんなりと受け入れやすいだけで真実であると錯覚してしまう
単純接触効果と深い関連があるものとして、認知的流暢性と呼ばれる心理学用語があります。
認知的流暢性とは、ある情報をストレスなくすんなりと(=流暢に)理解できるかどうかを表す言葉です。
人間は、ストレスなく理解できるものと、理解するのにストレスがかかるものと比較した場合、前者の方に対してより好ましいもの、正しいものであると解釈する傾向があります。
つまり、ある情報を何度も見聞きしているうちに、その情報に対する知識や記憶が定着する。こうしてある情報をストレスなく受け入れられる状況が整うと、次にその情報と出会った時にすんなり受け入れられるので好ましさや正しさを感じてしまうのです。
たとえ受け入れた情報が、嘘や誇張を含む胡散臭い情報であっても、すでに流暢に受け入れられる仕組みが自分の認知に備わっているために、「この情報どうやら確からしい」と錯覚するようになってしまうのです。
現に、儲け話などのおいしい話を詳しく見ていけば、専門用語や堅苦しい表現など理解するのにストレスがかかる表現は少ない代わりに
- 「1週間で〇〇円稼げます」
- 「たった〇分作業をするだけで1ヶ月分の給料が稼げます」
など、単純明快でストレスなく意味を理解可能な表現であることが目立ちます。
(話の真偽はさておき)騙される人が普段見聞きしているようなわかりやすく、シンプルで、メリットがはっきりしており、そして短いフレーズでまとめられているため、流暢に処理しやすく親しみやすさを感じてしまう。
つまり、胡散臭い儲け話に対する不信感が少なくなり、つい話を信じてしまうようになるのです。
なお、認知的流暢性はストーリーや言葉の選び方のみならず
- 文字のフォント、色、大きさ。
- 行間の開け方。
- 句読点、改行の打ち方。
- 平仮名、カタカナ、漢字の割合。
- (話口調の場合は)話しのスピードや声の大きさ
など、言葉やコミュニケーションに関するあらゆる要素に影響します。
人を騙してその気にさせる人が、妙にフレンドリーな一面を見せたり、まるで教えるのが上手な学校の先生そのものような態度をとるのは、騙す相手にとってなじみのない言葉、話し方、身振り手振りに対して、ストレスを感じてしまう。その結果、「よくわからないけど、この人は自分にとって好ましくない相手である」と思わせるのを未然に防ぐの悪知恵であると考えられます。
嘘を信じこんでしまうのはヒューマンエラーとも言える
このように、事実かどうか疑わしい情報を前に、ついうっかり信じ込んでしまう事は、ヒューマンエラーの一種であるとも考えられます。
ヒューマンエラーは、無意識の内に生じてしまうエラーのこと。上述した単純接触を効果や認知的流暢性は、人間が持つ物の見方の癖や物を認知する時に起きる錯覚が、疑わしい話なのに信じ込んでしまうと言う、非合理的な結果を生み出すこと(エラー)に影響しているとも考えられます。
また、ヒューマンエラーはその道の初心者だけでなく、知識や経験も豊富な人でも起こるものとされています。
つまり、怪しい儲け話を見抜けるだけの知識や経験を持っており「自分は騙されない自信がある!」と自負している人であっても、ついうっかり起きるヒューマンエラーによって騙されてしまう可能性があるのです。
単純接触効果と認知的流暢性に影響されないためにはどうすべきか
単純接触効果や認知的流暢性、ヒューマンエラー等が複雑に絡まり、胡散臭い話を信じ込んでしまう状態を少しでも防ぐためには、すぐに信じるor信じないの選択をするのではなく、一旦判断を保留して様子見をしてみることも一人でできる対策としては有効だと感じます。
もちろん、あらゆる儲け話に対して、「その話に乗る際ない」と言う徹底した姿勢をとる事ができれば良いのですが、ついうっかり親しみやすさや正しさを儲け話の中に見出してしまったときがないとは言い切れません。
そんな魔が差した時のことも考えて「その話に乗った!」と勢いで判断を下してしまうのではなく、「一旦判断を保留します」と言う、信じるor信じない以外の第三の選択肢を持っておく事は大事だと感じます。
もちろん、
- 儲け話を第三者に相談する
- 他の儲け話と比較して情報を精査してみる
など、あらゆる対策を用意しておき、情報の真偽を確かめる習慣を持つようにすれば、人間の認知の癖・傾向で起こりうるヒューマンエラーを防ぐ確率が上げられるのではないか考えられます。
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※1 参考:メディアも取り上げた「元ヤンキー東大卒起業家」の経歴が全部ウソだった!(ニコニコニュース,週刊実話)
参考書籍