自己愛の強い人から嫌がらせを受けている、面倒事に巻き込まれそうになっているときの手段として「無視」をすることは、ある一定の効果があるのは事実です。
自分に関わってこようとしても、無視を決め込んで相手にしなければ、相手が「この人は自分の言うとおりに動かない人(=ターゲットに適さない人)」と見るので、自然と関わりがなくなり関係が自然消滅することが見込めます。
しかし、かと言って「無視」をすることが必ず、いつでも効果があるわけではありません。
人によっては無視をされたことに腹を立てて、かえって攻撃的な態度に拍車をかけてしまう、不安定で脆い自尊心に強く傷を付けられた苦しみから、身体的暴力やパワハラ・モラハラなどの行動に出てしまう恐れもあります。
今回は、そんな自己愛性人格障害の人を無視することの効果についてお話しいたします。
目次
自己愛の強い人への無視が逆効果になることもある
自己愛性人格障害の人は、自尊心が肥大化しているために自分への誇大な思い込み、賞賛や承認を強く求めてくるのが特徴的です。
わかりやすくいえば、
- 自分をチヤホヤするように無言の圧力をかけてくる。
- 褒められる事、尊敬される事、憧れられる事を求めてくる。
- 普段からマウントを取ってきて、自分の方が格上である事をアピールしたがる。
など、関わるだけで面倒な言動をとる。それも、嫌がってもそれを聞き入れないどころか「本当は嫉妬しているんだろ」「強がらなくていいんだよ」と、話を自分に都合よく解釈して受け取るために、無視するという対処法を選びたくなるものです。
しかし、普段から賞賛や注目を強く求めている自己愛性人格障害の人からみて、いやいやの反応すら示さない「無視」をされることは、自分の自尊心を強く傷つける行動として解釈してしまい、余計に感情的にさせてしまう行動とも言えます。
自己愛性人格障害の人からすれば、いやいやの反応でも「反応があるので、自分は注目されている」という実感が得られるので、比較的自尊心は傷つけられない。(むしろ、「アンチが付くのは人気の証拠」とのたまって、勢いづくこともある。)
しかし、「無視されて反応がかえってこない=自分は注目すらされていない」という身も蓋もない現実を目の当たりにすると、いやいやの反応のときよりも強く自尊心が傷付けられてしまう。
もちろん、その結果としてほかの人をターゲットにしたほうが合理的と考えて、人間関係を変えるケースもあります。
しかし、逆上した結果、かえって自分に対する攻撃的な言動を招いてしまう。場合によっては、身体的な暴力やパワハラなどの立場と権力を利用した嫌がらせを誘発する可能性について十分理解しておくことが大事です。
人間関係によって無視ではどうにもならない場合もある
自己愛性人格障害の人との関係によっても、無視による効果は変わってきます
例えば
- 友達、知り合い
- ネット上の人間関係(※但し基本的に、仕事以外のものとする)
- 恋人(※付き合い始めて間もない)
など、人間関係として仲が切れてもさほど経済的な損失がない間柄や、自分の社会的立場が損なわる心配が少ない関係においては、無視をすることの代償は小さくなる傾向があります。
しかし、
- 親子関係・夫婦関係
- 仕事の人間関係(上司、同僚、部下、クライアントなど)
- 恋人(※ある程度付き合いが長い、あるいは結婚を見据えている)
など、人間関係として切るにきれない状況に置かれている関係、立場の差があり圧力をかけられる恐れがある関係、仲が進展した結果として自分の弱みやプライベートを知られている関係…においては、無視をすることにより自分が経済的・社会的損害を受ける可能性がある事を熟知しておくべきでしょう。
仕事の関係なら、無視をしたことでパワハラを受ける、職場内で悪評を広められる、部下の育成を放棄しているとみなされる…など、更なる不利益を自分が被る危険性があります。
家族関係なら、家族仲の更なる悪化、モラハラ・DV、(子供の場合なら)非行、家出、不登校、ネグレクトなどの別の問題が生じる事がある点には留意しておくべきでしょう。
無視の他にも「逃げる」と「他人に助けを求める」事も効果は期待できる
もちろん、自己愛が強くて面倒な人に対して、泣き寝入りをすることを推奨するわけではありませんし、それを望む人は滅多にいない事でしょう。
大事なのは、無視する以外の対処法を知っておくことであり、その代表としては「逃げる」と「他人に助けを求める」の2つがあります。
「逃げる」のは、仕事なら自己愛が強くて面倒な人と一緒に働かなくてもいいように、配置替えを希望したり転職を検討する。家族関係なら、別居や独り立ちをして面倒な家族と物理的な置き、会う頻度を減らす生活を送ることがこれにあたります。
「他人に助けを求める」事は、心理カウンセラーやDV・モラハラの被害者の支援を行っている組織・団体に相談をするなど、第三者に助けを求めて自分一人で抱え込まないようにすることです。
もちろん、この二つの方法は、友達・知り合い、ネット上の人間関係や交際歴の浅い恋人など、無視による代償が小さい関係でも効果的です。
とくに、自己愛性人格障害の人は、普段から自分をよく見せるための自己演出に余年がなく、会って間もないうちは「なんとなく魅力的な人」に見えてしまうという厄介な特徴があります。
関係が浅いうちになんとなく違和感を感じるものの、「流石に無視をするのは失礼かも…」とためらってしまう人は、まずは会う回数を減らす、客観的な意見をくれる第三者の人にこっそり相談してみる事も、角が立たず効果的な対処法と言えます。
無視は相手の自尊心をひどく傷つけることを忘れずに
最後に、無視はある一定の効果がありますが、もしもその効果が自分に向けられたら…つまり、自分が無視をされる立場になってしまったらという事を考えてみることも、自己愛の強い人との関わりを語る上では欠かせないと感じます。
自分のことが認められない、誰からも声をかけてもらえない、周囲に人がいるのに自分だけ一人ぼっちで強い孤独を味わう…など、無視は地味なように見えて、他人を精神的に痛めつけて追い込むという、一種の暴力性を秘めた行動でもあります。
その暴力性故に、自己愛の強い人でなくても自尊心が傷つけられて辛い思いをしてしまう。そして、その辛さに耐え切れず、衝動的な言動に出かねないリスクについては知っておくべきだと思います。
もちろん、自己愛の強い人の迷惑な言動を擁護するわけではありませんし、無視をされる状況は自分が招いた以上は因果応報であり同情の余地なしだという考えも理解できます。
ですが、それを理解した上でも「無視」することが持つ暴力性を理解し、自分が行った「無視」という行動により、自分の方が加害者や加害者を生む立場になってしまう可能性についても、知っておくことが大事だと感じます。
無視というのは簡単ですし、殴ったり暴言を吐くよりも抵抗は無いものです。しかし、その抵抗の無さ故に「自分はえげつないことをやっている」という自覚がもてないまま、他人を無視という攻撃により、平気で痛めつける人間になることの静かな怖さを感じる次第です。
関連記事