心理学者のマズローによる欲求段階説という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
ひょっとしたら高校の現代社会や倫理、保健体育の教科書でその言葉を聞いたであったり、様々な欲求が書かれたピラミッドの図をぼんやりと覚えている方もおられると思います。
今回は、マズローの欲求段階説と欲求段階説から見る「承認欲求」についてお話いたします。
目次
マズローの欲求段階説とは
アメリカの心理学者のマズローは、人間の自己実現について研究していた心理学者であり、とくに人間の欲求には5段階あるという説を発表したことで有名です。
以下の図がマズローによる欲求段階説の概要です。
ピラミッドの土台部分になっている欲求ほど、より生命維持や身の安全を求める生物本来が持つ根源的な欲求。
ピラミッドの上にある欲求ほど、自己実現、やりがい、幸福感、充実感といった文明や知能を持った人間らしい欲求となります。
それでは、各欲求について詳しく解説していきます。
生理的欲求
生理的欲求とは生きていくために最低限必要な食事、睡眠、排泄などの根源的な欲求を指します。
日本で生きている限りでは、食べるものに困らない、トイレがなくても困らないという状況は頻繁に起きず、日々健康に暮らしている人であれば大半の人は生理的欲求が満たされず苦労するということはありません。
ただし、ブラック企業で働き睡眠不足が続いていたり、食べ物を買うお金がない、ダイエットで食事を制限しなくてはいけないなどの状況であれば、生理的欲求は満たされず不安や苦痛・ストレスを抱えることになります。
安全欲求
生理的欲求が満たされると、人間はより次元の高い安全欲求という欲求が生まれ、自分の身の安全や、安心できる環境を求めようとします
具体的には事故や自然災害、戦争などの恐怖に怯えなくてもいい生活を望んだり、経済面で貧困や飢え、病気や犯罪などに生活を脅かされないといった、生活の安定を求めるようになります。
日本のように、戦争や紛争がない、病院もしっかり整っている、探せば仕事も住む場所も整っているという環境では、安全欲求が満たされないということは比較的少ないですが、地震や台風などの自然災害で自分の住んでいる街が被害を受けた、インフラが機能しなくなった場面では、安全欲求が満たされないことで不安やストレスを感じます。
また、安全欲求と生理的欲求の2つを物理的欲求と呼びます。食・住といった、文化的な生活を送るために満たすべき根源的な欲求でもあります。
ただ着れるだけの服があることよりも、冬なら風邪をひかないように厚手で寒さを遮る服の方文化的で健康な生活を送ることができる。
ただの食べるものがある状況よりも、栄養があり3食しっかり食べることができる環境の方が安心を感じることができる。
ただ雨や風をしのげる家よりも、寒さや暑さの影響を受けず快適な部屋であったり、防犯設備や水道・ガス・電気といった基本的なインフラの整った生活の方が安全である。
というように、安全欲求と生理的欲求は衣食住といった日々の生活を送るのに欠かせない物質的な豊かさと深く関連があります。
社会的欲求
安全欲求が満たされると、次は人間関係の中で満たされる「社会的欲求」を満たそうとします。
社会的欲求は「所属・愛の欲求」と呼ばれることもあり、自分は学校や職場といった人間社会で必要とされていることを、友達や恋人など他人から受け入れられているという実感を求めるようになります。
社会的欲求は仕事に就く、役職を与えられる、学校に通う、恋愛をする、結婚して家庭を持つというように、他人と関わることや集団に所属することで満たされます。
また、無職の人やニート、引きこもりなど、社会との関わりが絶たれ孤立している人は、社会的欲求が満たされないことで不安やストレス、疎外感を感じることがあります。
また、「自分は社会から必要とされていない」と自分で自分をせめてふさぎ込んでしまったり、ストレスから体調を崩しうつ病などの精神疾患になることもあります。
承認欲求
社会的欲求が満たされると次は承認欲求を得ようとします。承認欲求は「尊厳欲求」と呼ばれることもあります。
マズローの欲求段階説において承認欲求とは、自分が所属している集団や他人から認められたい、尊敬されたい、尊重されたいという欲求を抱き、それを満たすような行動をとります。
また承認欲求にも段階があり、単純に人から認められたいという次元の欲求と、他人に認められる存在になるために勉強をしたり仕事に打ち込む、立派な人間になろうとするより上の次元の欲求があります。
承認欲求が満たされない場合は、「自分は周囲と比べて劣っている」「自分はなんて能力がない人間なんだ」と感じることがあります。
承認欲求を満たす過程では成績や仕事の成果など、他人と比較されたり競争する場面も多く簡単に満たすことができないために強いストレスを感じることも少なくありません。
また、今の集団では自分は認められないと感じて、転職や付き合う人間を変え新たな人間関係において承認欲求を満たそうとすることもあります。
自己実現欲求
承認欲求が満たされると自己実現欲求を満たそうとします。
自己実現欲求とは、次は自分の持つスキルや可能性を発揮して、社会に貢献したい、自分らしさを見出したいという欲求です。
ざっくり言うと、
- 仕事にやりがいや充実感を感じたい。
- もっとクリエイティブな事を企画して人生を楽しみたい。
- 自分の思い描く理想の自分になりたい。
- 自分の得意なことや好きな事を仕事にしてみんなを喜ばせたい。
という目標や願いなどが、自己実現欲求となります。
また、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求を含めて精神的欲求と呼び、物理的欲求と比較してメンタル面での安心感や充実感といったものを満たす欲求という特徴があります。
承認欲求を満たすには、まず土台となる欲求を満たすこと
マズローの承認欲求段階はピラミッド状であり、そのピラミッドの土台となる欲求が満たされることで更に上の欲求を満たそうとします。
しかし、土台となる欲求が十分に満たされないまま、更に上の欲求を満たそうと動くこともあり、その場合は強い不安やストレスを抱えたまま欲求を満たす事になります。
例えば、土砂災害によって自分の住んでいる場所が周囲から孤立し安全が脅かされている状況において、いきなり自己実現欲求や承認欲求を満たそうとするのは…あまり賢明ではありませんよね。
自己実現欲求や承認欲求を満たすためには、まずは目先の災害の驚異に悩むことのない場所に避難して安全欲求を満たすことが重要です。
災害に巻き込まれるような危険な場所で怯えながら生活するのは心身に悪影響を与えかねませんし、そんな危険な状況で自己実現のために行動している最中に災害に巻き込まれて命を落としてしまっては意味がありません。
承認欲求が強く満たされたいという思いが強い人は、まずは承認欲求の土台となる、生理的欲求・安全欲求・社会的欲求が十分に満たされているか、自分で自分を振り返って見るようにしましょう。
…少々個人的な意見になりますが、人によっては逆境や苦境に自分らしさを見出し自己実現の欲求を満たす対象としてみたり、「男らしい」「感動した」と感じることもありますが、逆境を前にして自分の身の安全を第一に考えまずは逃げて生き延びようとすることも、同様に素晴らしく認められる行為だと考えています。
承認されたい相手や集団を落ち着いて考えるみることも大事
承認欲求は社会的欲求が満たされた状態、つまり自分が会社や学校、SNSの友達などのある特定の人間関係に所属したあとに生まれる欲求であるために、認められたいと思う相手や集団が一体誰なのかを考えておくと、より承認欲求が満たされます。
例えば、親しくない人や赤の他人に自分のことを褒められても、あまり嬉しく感じず、むしろ自分のことをよく知っている人であったり、仲の良い人、尊敬している先輩や上司から、お褒めの言葉を頂いた方が、幸福を感じたり充実感を感じることがあります。
自分が誰から認められたいのかよく考えず、とにかく今すぐ認めて欲しいという気持ちから衝動的に動いても、自分で誰から認められたいのかが分かっていないために、いつまでも承認欲求が満たされず精神的に疲れてしまうことがあります。
いくら「すごい」「頑張っているね」「いいね」と言われ続けても、かけられる言葉に反して自分の承認欲求は満たされず、認められたいという気持ちばかりが強まってしまうと、認められたいがために衝動的な行動を起こしたり、自分の行動にブレーキをかけづらくなってしまいます。
その結果、自分を見失う、周囲に迷惑をかけてしまう、ただ過激な行動をとって注目を集めるいわばピエロのようなキャラになり、顔は笑って心は泣いている…というような哀れみを誘う人になってしまうこともあります。
自分は誰に認められたいのか、誰からすごいねって言ってもらいたいのか…それがわからずに闇雲に浸走るだけでは承認欲求は満たされず、常に認められたいという一種の心の飢えで苦しむ事になります。
承認欲求を満たすために自分を見失うようなことをしてしまう場合は、まずは冷静になって自分は誰に認められたいのかを考える時間をとってみるようにしましょう。
承認欲求を認めてほしいためだけの行動はあぶない
学校や会社などの人間関係の中で、周囲から尊敬を集め認められるためには、ただ自己アピールばかりを繰り返すのではなく、勉強やトレーニングなどの自己研鑽をしなければいけません。
勉強もせず、ロクに仕事もしない状態で、昔話や過去の栄光を周囲に聞かせて自分を認めさせようとするようなことを繰り返していては、自分の学力や仕事のスキルは向上しません。
そして、そんな態度を続けていると、自分が今まで昔話を聞かせてきた相手が自分よりも成長し立派な人になった時に、嫉妬やストレスを感じる原因になってしまいます。
承認欲求を満たす上で大事なのは、ただ承認欲求を認めて欲しいがために周囲にアピールするのではなく、自分が周囲の人から認めれるように努力や研鑽を重ねることです。
ただ認められたいがために話を盛ったり、バレないような嘘を付くことは、確かに手軽に尊敬を集めることが出来る一方で、話の辻褄を合わせるために更に嘘を付き続けたり、自分の性格に合わないキャラを演じてストレスを抱える原因になってしまいます。
承認欲求を満たそうとする場面では、自分は周囲から認められるだけにふさわしい人間になっているかどうかについて、冷静かつ謙虚になって考えてみることが大切です。