更なるスキルアップのために勉強しなきゃいけないのに、ついスマホを触って時間を潰してしまう。部活でレギュラーを取るために自主練の計画を立てても、つい実行に移せず時間を無駄にしてしまう。
このように、意識を高くして高い理想を思い描い計画を立てても、口だけになってしまったという経験をした方は案外多いものです。
時に行動に移せない自分を「自分はなんて意志が弱くてダメな人間なんだ…」と自己否定してしまったり、自信を無くして更に行動に移しづらくなるという、負のスパイラルに陥ってしまう事もあります。
自分の将来のためにと気合を入れてもなかなか行動に移せないのは、自分が達成動機(たっせいどうき)が弱いという事を疑ってみると、ヒントが見つかるかもしれません。
達成動機とは
達成動機とは、高い目標を掲げてその目標を達成しようとする動機(モチベーション)の事を指す心理学の言葉です。
達成動機が高い人は、高い目標を立てたらしっかり行動して目標を達成する能力が高く、目標達成を先延ばしにせず、すぐに達成する事ができる人の事をいいます。
例えば、「そこに山があるから登るのだ!」という登山愛好家ならよく耳にする名台詞は、達成動機が高い人の心理をよく現しているセリフといえます。
達成動機が高い人は周囲の達成動機も高める事がわかっていますが、達成動機が高すぎる場合は、逆に周囲の達成動機を下げてしまう事があります。
周囲にも自分と同じような高い目標を持ってほしいと強く思うことで、気づかないうちにかどなプレッシャーをかけたり、威圧的な態度や「こんなのできて当たり前」という傲慢な態度をとってしまうことが、周囲の達成動機を下げる原因となります。
一方で、達成動機が低い人は高い目標を立ててもなかなか行動に移せず、口だけや三日坊主になって目標が達成できない人の事をいいます。
例えばダイエットや勉強などで「明日から頑張る」というように、理由をつけて目標達成を先延ばしにする癖が身に付いているので、すぐに始められないというわけです。
また、目標を立てたあとに「もしも、目標が達成できずに失敗したらどうしよう…」という不安感から、行動に移せないパターンもあります。自分に負荷をかけて何かに挑もうとすれば、とうぜん成功だけでなく失敗する可能性もあります。
参考:ワイナーの達成動機づけの帰属理論
達成動機に関連して、人間が何か目標に向かって行動を起こす結果に対して、4つの原因を探して自分を納得させるという、理論があります。
1.「目標のレベルが簡単だった」または「目標のレベルが難しかった」という原因
2.「運が良かった」または「運が悪かった」という原因
3.「自分には能力があった(から成功した)」または「自分には能力がなかった(から失敗した)」という原因
4.「自分は努力をした(から成功した)」または「自分は努力をしなかった(から失敗した)」という原因。
目標が達成されなかった時は、この4つの原因で説明して言い訳したり、自分を慰めようとしている事があります。
達成動機の低い人がすぐに始められるようになるコツ
簡単なことから行動する
達成動機の低い人は、今の自分のレベルと比較してあまりにも高すぎる目標を立てているために、心理的なハードルが高くなかなかスタートラインを踏み出せないという事があります。
その場合は、まずは簡単なことから初めて見るのが効果的です。
勉強なら机に座る事、あるいはそれ以前の勉強している姿のイメージトレーニングをする事から始めてもOK。
スポーツなら、まず靴を履く事から始める。もちろん、これもそれ以前の練習をしている姿のイメージトレーニングから始めてもOK。
いきなり、「勉強するぞ!」「練習を始めるぞ!」と意気込んで「でもなぁ…」と動きが止まってしまうのであれば、まずは動かなくてもできるイメトレから始めてみるのがいいでしょう。
時間を決めて行動する
なかなか行動に移せない場合に、時間を決めて行動をするようにスケジュールに組み込み日課にしてしまうという方法があります。
なんとなく、「勉強(あるいは練習)しなきゃなぁ…」とぼんやり考えているだけでは、行動に移せないのも無理はありません。
「平日は20時からまずは30分間やる、休日は9時から1時間やる」とスケジュールに組み込んでおくと、自分がやるべき目先の目標がはっきり見えるようになるので、達成動機を上げることができます。
目標そのものを具体的にする
時間を決めて行動するのところでも説明しましたが、時間を決めてやるように、目先の目標を具体的にするという方法です。
「いつ」やるか、「どこで」やるか、「どれだけ」やるかなどのように、時間や状況、場面を具体的に決めておくことで、自分が今すべき事が明確になり、行動に移しやすくなります。
大きな目標の前段階の小さな目標を作ってみる
例えば「志望校に受かりたいから勉強しよう!」と思っても、実際にまずは何の勉強から始めればいいか分かっていなければ、なかなか行動に移すことはできません。
高い目標を達成にしても、その目標を達成するには小さな目標を少しずつこなしていき、一歩ずつ階段を登っていくように努力していくことになります。
当然、高い目標ともなれば時間も労力もかかるので、途中でダレないような小さな目標をいくつか設定しておくと途中で挫折する事を防ぐことにもつながります。
受験勉強なら、まずは自分の得意科目からやるか、不得意科目からやるかから始めてみたり、まずは参考書を1ヶ月で1周、3ヶ月繰り返すという、志望校合格に対して比較的小さな目標から始めてみるというかんじです。
爆弾がちゃんと爆発するのに導火線が必要なように、行動力に火をつけるのにも導火線があると便利でやる気スイッチがつきやすいという事を覚えておくのがいいでしょう。
困ったときは誰かに頼れるようにする
目標を達成できるかどうかという不安で胸がいっぱいという人は、もしも目標達成が危ぶまれた場合は、誰か頼れる人を見つけておくのがいいでしょう。
一度失敗してしまうと自分以外に助けてもらえる人がいない、と感じていてはストレスは溜め込んでしまうのも無理はありません。
失敗が許されない、失敗すると大変なことになる状況であれば、なかなか最初の一歩を踏み出すことができないのは自然なことです。
フットワークの軽い人は、案外自分が困ったときに「ちょっと助けてくれる?」「ちょっと手伝ってもらえるかな?」と、他人に相談や応援を求めて、目標を達成していくという特徴があります。
いざ困ったときに自分には助けてもらえる人がいるという環境が、失敗が起きても大丈夫とストレスを溜め込まずに済みます。
フットワークの軽い人に急になろうとしても、それは疲れると思いますので、まずは1人でもいいから困ったときに頼れる人とつながる事。
ネットでもリアルでもどちらでもいいので、自分が安心できるような人と関係を持ってから、行動に移してみるのかいいでしょう。
他人と比較せず、行動できたら自分で自分を評価する
目標を人と比較してしまい「こんな目標で満足してはいけない」「もっと頑張らないといけない」と、意識を高く持つことは素晴らしいですが、その反面、完璧主義になって自分を苦しめたり、自己肯定感を下げてしまう原因にもなります。
何かと自分に厳しくしていては自己肯定感が育まれず、いつしか失敗するぐらいなら最初から行動しな方が傷つかずに済むという思考の癖が生まれてしまいます。
そうならないためにできるのことは、目標そのものを他人と比べるのをストップして、ちゃんと目標が達成できたら自分で自分を褒める習慣を身に付けることです。
目標を誰かと比較すれば、当然上には上がいる事を思い知ることになるものです。誰かと比べて一喜一憂するのではなく、ちゃんと目標を達成する、そのために行動することに集中力を注ぐようにしましょう。
周囲の達成動機を強くするコツは「褒めること」
部下や生徒、子供のやる気を出させたい、モチベーションを上げたいと思う場合、相手の達成動機を上げるようなコミュニケーションをする事が求められます。
そのコミュニケーションとは「褒めること」です。
目標を目指して頑張っている姿を応援し、達成できたら褒める…これを繰り返すことでやる気を高め、達成動機を強くしていくことがわかっています。
ここでしっかり褒めないと、達成動機が強化されなくなります。
- 「褒めたら付け上がってしまうのはないか?」
- 「調子に乗るのではないかと?」
と考え、あえて厳しくする指導では、指導される側も「どうせ頑張っても褒めてくれない…」と落ち込む、つまり頑張っても無駄だと感じて、達成動機が下がってしまうことになります。
なお、達成動機のところで説明したように、自分の達成動機が高すぎると、返って相手の達成動機を下げることにもつながります。
ただ大声で檄を飛ばしたり、「もっと頑張れ!」と応援のように見えて、実は具体的な支持を出していなければ、やる気が出ないのは無理もありません。
スポーツの指導者でよくある「やる気がないなら帰れ」と突き放すような言葉では、怒られた、怒鳴られた、自分は見捨てられたと感じてしまい、行動に必要な自己肯定感も育ちません。