日本では、「将来お金持ちや資産家になるために勉強している」とか「周囲から褒められたい、認められたいからスポーツに打ち込んでいる」というような、お金や名誉のために何か頑張る事は、あまり良く思われる事はありません。
お金や名誉がモチベーションと聞くと、なんだか自己中心的な人、ケチで上に取り入ろうと考えているズル賢い人と思われ、周囲からの信用を落としてしまうことになりがちです。
また、お金や名誉がモチベーションだと、周囲から共感されることも少なくなり、協力したい、応援したいと思える人(ファン)も獲得しにくくなります。
とくにプロスポーツ選手や政治家のように、チームやスポーツ全体のイメージを大事にしなければならない立場だと、お金や名誉がモチベーションとは言い難いですね。
スポーツ選手の場合なら、お金や名誉よりも「試合を見に来た子供の笑顔のために頑張る」とか「チームが優勝してファンの喜ぶ姿を見たいためにスポーツをしている」と、インタビューで答えるのが一般的です。
政治家も選挙に当選するためのイメージ戦略は重要です。
ストレートに「お金や名誉のために当選させてください」というと、印象が悪くなり票が集まらなくなるのは簡単に想像できますね。そんな事にならないためにも、「国民の皆さんが幸せになれるために頑張ります!」とか「障害者や社会的弱者を助けるために頑張ります!」といった、綺麗事にも見える言葉で共感を集めて、自分への投票を呼びかけるのが一般的です。
もちろん、ここではお金や名誉のために頑張っている人を否定するわけではありません。むしろ、お金や名誉のために頑張れるエネルギーをしっかり活用するのは、夢を叶えたりや目標達成のための有効な手段のひとつになります。
今回は、お金や名誉などのちょっと人前では言いにくいモチベーションのお話です。
モチベーションには「内発的」「外発的」の2種類ある
モチベーションには大きく分けて、2種類あります。
1つ目は、「好きだったり楽しいから○○をする」というような、やろうとしていることそのものが目的になっている、内発的なモチベーションです。
例えば、体を動かすのが好きだからスポーツをする、新しい知識や知恵を身につけるのが好きだから勉強をする…というようなモチベーションです。
このモチベーションは心理学では「内発的動機付け」という言葉で説明されます。
一方、「お金や名誉のために○○をする」というような、やろうとしていることを利用して、何かを手に入れる事が目的となっている、外発的なモチベーションです。あくまでもやろうとしていること(スポーツや勉強)は手段にすぎません。
例えば、人気者になって周囲から認められたいからスポーツをする、将来お金持ちになりたいから勉強をする…というようなモチベーションです。
このモチベーションは心理学では「外発的動機付け」という言葉で説明されます。
また、外発的なモチベーションにはお金や名誉の他にも…
・誰かの上に立ちたい。
・相手に命令したり従わせたい。
・親孝行や社会貢献をしたい。
・世界中の子供を笑顔にしたい。
・励まされたり、誰かの支えになりたい。
のように多くの種類があります。
そのためスポーツや勉強に対して、親孝行、社会貢献、世界平和の思いを込めたり、ボランティア精神を持って取り組んでいる人も、実はお金や名誉同様に外発的なモチベーションで行動しているということになります。
親孝行なら親からの感謝の気持ちを得るために、社会貢献なら社会に貢献して他人から褒められる感謝の気持ちを得るために、世界平和なら争いの無い世界を得るために、行動をしているということになります。
いずれにせよお金や名誉のため同様に、「好きだから、楽しいから」という気持ちから行動をしているのではなく、やろうとしていることで何かを手に入れるためにしているというわけです。
外発的なモチベーションは決して悪ではない
一般的に、お金や名誉のために何かをするのはあまり好ましくないと思われる一方で、好きだからという内発的なモチベーションは好ましいと思われる傾向があります。
お金や名誉のためというと、どうしても自己中心的で付き合いづらい人、付き合うのに不安を感じる人と思われるのは自然なこと。夢を実現させる場合でも、「お金のため」「名誉のため」と人前で堂々と主張するのは控えるべきだ、という考え方が一般的です。
もちろん、親孝行や社会貢献のような場合でも「人からよく思われるために演技をしている」「いい人と思われたいからやっている」と、動機が嘘くさいと思われてしまい、付き合いづらいと感じてしまうことがありますね。
しかし、内発的なモチベーションも外発的なモチベーションも、どちらか一報が優れている、正しいことである、と決め付けることはできません。
好きだからこそ続ける人が多くいる仕事場や部活動だと、内発的なモチベーションを持つのが正しいこと、という雰囲気が出てしまい、お金や名誉といった外発的なモチベーションを持った人が批難されてしまうケースがあります。
好きだからやるのは偉い事、お金や名誉のためにやるのは悪いこと、と決め付けてしまいそれを口に出してしまうと、結果としてお金や名誉のためにやっている人のやる気を削ぐことになってしまいます。
よく経営者とサラリーマンで意見がぶつかるのもこのためです。
経営者は仕事が好きだからやっているという内発的なモチベーションで仕事をしている。一方経営者に雇われているサラリーマンは、やりがいや好きという気持ちではなく、あくまでも生活やお金のためという外発的なモチベーションから仕事をしているというパターン。
同じ仕事でも、両者のモチベーションはまるで違うので、価値観の不一致や意見の食い違いは当然起きてしまいます。
なお、好きだからという内発的なモチベーションも万能ではなく、困難や壁にぶつかった時に好きという気持ちだけでは乗り越えられない場面も当然でてしまいます。
そこで内発的なモチベーションを絶対視していると、その場面で「好きなものが嫌いになってしまった自分はダメなんだ」「好きなことすらできない自分には価値なんてない」と、自分を責めたり、自己否定をすることになってしまいます。結果としてますますやる気が失われ、さらに調子が悪くなってしまいこともあります。
スポーツに限らず、漫画家やアニメーターのようなクリエイティブ職だと、趣味が興じて今の仕事にたどり着いたという人も少なくありません。
そういった職業でスランプに陥った時に、今まで好きだった絵を描くことが嫌いになってしまうのには、無意識のうちに内発的なモチベーションを絶対的なものとして考えてしまっていたという場合もあります。
「内発的」「外発的」両方のモチベーションのうまく活用しよう
人間は内発的・外発的の両方のモチベーション常にもっており、どちらか一方しか存在しないということはありません。
お金や名誉のためだと言っている人であっても、好きだからという内発的なモチベーションが0である、ということではありません。逆に、好きだからという人でも、お金や名誉といった外発的なモチベーションが0ということはありません。
内発的・外発的、その両方のモチベーションのバランスが人によって異なっており、そのバランスも時と状況で変化していくものだということがわかっています。
ですので、何かを始めようとする際は、今自分の中でどちらのモチベーションが高まっているのかを分析して、高まっている方のモチベーションを利用して行動を始めるのが効果的です。
行動を始めるためのモチベーションは内発的でも外発的でもどちらでもOK。今、優勢の方のモチベーションに従って行動をすることで、やる気や集中力が高まります。
また、内発的・外発的のモチベーションの効果が出やすい場面もあります。
内発的なモチベーションは、主にスランプや不調時に効果的です。スランプのときは新しいテクニックをつけるために練習したり、あれこれ対策を立てて行動しても、何をやってうまくいかずに自信をなくしてしまいがちです。
そんな時に自分の内発的なモチベーションをチェックして、好き、楽しい、嬉しい、情熱を持てるという気持ちを思い出し、自信を取り戻すのがコツです。いわゆる「初心に戻る」というテクニックです。
一方、外発的なモチベーションは、調子が良い時に効果的です。調子が良い時は自信もあるので、目標達成のために強気で行動していけます。
また調子が良いからこそ「欲」も生まれます。あれが欲しい、これが欲しいといった物欲、認められたい、注目を浴びたいという承認欲求などを満たすために、仕事や勉強に打ち込んだ結果、その欲が満たされるだけでなくスキルアップも達成できれば結果オーライです。
実際にお金のような経済的な余裕を手にい入れることは、更なるスキルアップがしやすい状況が手に入れることができます。
お金や名誉のためというモチベーションをしっかり有効活用できるように、自分の中の野心や野望を否定しないようにしていきましょう。