風邪や花粉症のシーズンでもないのに着用するマスクのことを「伊達マスク」と言います。
伊達メガネと同じく、若者の間では一種のファッションや自分らしさを表現するアイテムの一つとして使われる。
ほかにも、鼻、口、歯並び、頬や顎の造形などにコンプレックスを持っている人からすれば、それらを覆い隠す便利アイテムとして使われることもあります。
また、秋から冬にかけて本格的な風邪や花粉症のシーズンには、マスクが本来の役割を果たして風邪予防いも役立ち、まさに実用性とおしゃれを兼ね備えた一石二鳥のファッションアイテムともなります。
しかし、一方ではマスクを外したくても心理的に外すことに抵抗を覚えていたり、マスクを取った自分に視線が集まることを恐れているために、夏でもマスクつけてしまう人(=マスク依存性)もいます。
今回は、そんな伊達マスクをする人の心理について、お話しいたします。
関連記事
伊達マスクに依存する理由・心理
物理的に包まれている安心感が心地よい
伊達マスクに限らず、マフラーやフェイスマスクのように、口元を覆うものを着用すると、どことなく、包まれている安心感が心地よく感じてしまいます。
単純に防寒や風邪予防などの機能面に限らず「口元が布で覆われており外界から守られている」という感覚が、安心感となり癖になってしまうのだと考えられます。
実際に寒い日に口元に何も装着せず呼吸をすれば冷たいだけでなく、なんだか寒くて辛くて寂しさを覚えるもの。しかし、マスクなどを装着しておけば、自分の吐いた息がマスクの内部にこもってほどよい温もりと湿り気を得られ、それらが精神的な安心感につながるのです。
顔のコンプレックスを隠すため
伊達マスクは、鼻、口、歯並び、頬や顎の造形などを手軽に覆い、他人の視界からも、そして自分の視界からも見えなくさせる便利な道具です。
鼻や口、歯、頬、ほうれい線などコンプレックスを感じて他人に見られたくもなければ、自分でも見たくないものを、安価且つ綺麗に隠してくれるのが伊達マスクの魅力です。
なお、鼻や頬の骨格、歯並び(出っ歯など)、歯の色などは、普通にメイクでコンプレックスを目立たなくさせるのと違い、短期間でどうこうできるものではありませんし、本格的に克服するなら整形手術や歯列矯正などで多くの時間とお金が必要です。
しかし、伊達マスクなら基本的にマスクを装着するだけの手軽さが売りで、且つ100均のマスクでも簡単にできる手頃さが魅力的です。
伊達マスクは根本的な改善には繋がらないものの、コンプレックスを安く短時間で他人の目から見えなくさせる利点があるので、使用している人は多いと考えられます。
目元だけで自分を美人・イケメンだと錯覚させるため
顔のコンプレックスを隠すという目的と合わせて、目元だけで自分を美人・イケメンと相手に錯覚させる目的として使われることもあります。
目元の造形が良ければ、マスクにより顔半分が見えない状況を作り出せば、目元のよさを強調することが可能です。
また、目元で好印象を獲得しているために、マスクの下の鼻や口などの造形も目元の印象に引きづられて都合よく美化してイメージしてしまいます。場合によっては実年齢以上に、若いと目元から見られるという、女性にとっては嬉しい錯覚をさせることもできるでしょう。
マスクで覆われている以上は、マスクの下の本当の顔を見ない限りは、無数のイメージが想像(もとい妄想)できてしまい、その妄想を相手の本性として捉えてしまう。しかし、マスクの下が知られてしまうと、当然イメージが沸くまでもなく「あ、そういう顔なのね」とあっさり終わってしまう。
人がもつ一部分だけを見て全体像を想像してしまう心理を知っているのか知っていないのかはさておき、伊達マスクを利用することは、相手が自分にとって都合よく自分を美化して想像してもうための一種のツールとして働いてるとも考えることができます。
マスクにより自分の顔の下半分に向けられる視線を遮断したい
マスクを身につければ、自分の顔に対して向けられている視線の多くを、マスクにより遮断できているように感じられます。
会話中に誰かの顔を見るとしても、その視線の先が相手の目であれば、なんだか睨みつけているようだし、お互いに目が合って気まずい。だから、目から少し下の鼻や口あたりに視点を合わせれば、お互い気まずくなるのを防げます。
しかし、このことは鼻や口にコンプレックスがある人は、自分のコンプレックスに他人の視線がダイレクトに集中することとなるので、あまり気持ちのいいものではありません。
だからこそ、マスクというコンプレックスを覆い隠す布を隔てることで、集まる視線から感じる違和感や不快な気持ちを軽減させるのです。
関連記事
人と壁を作って安心感を得たい
マスクをつけることは、他人との間に物理的な意味でも薄い壁を作って、適度に人と距離間を置いて安心感を得ることにもつながります。
簡単に説明すると、
- 自分=マスク=相手
と、相手との間に薄いけれど、マスク一枚分の隔たりがあり、自分のパーソナルスペースに相手が気安く入ってこれない安心感があります。
なお、マスクをかけているという見た目により、どこか近寄りがたさを与えることに成功すれば、自分から言い出さなくとも周囲と距離を置くことも可能です。
「他の人とは違う」という自分の個性をアピールしたい
ファッションとして伊達マスクが若者の間で流行していることは、マスクを着用することで、友達に対して「自分は他の人とは違う個性を持っているんだ」とアピールしているのだと考えることもできます。
また、マスクにより顔の半分以上が見えないことは、どこかミステリアスで不思議な雰囲気を漂わせるキャラを演出することにも一役買います。
ぱっと見は近寄りがたいけど、どこかミステリアスで不思議な印象があり、人を引き付ける妙な魅力を持っている人だと思われたい人からすれば、伊達マスクは手軽な自己演出のアイテムともいえます。
なお、こうしたファッションとしての伊達マスクは、人によっては思春期特有の痛さを感じるもの、中二病のように難しい年頃の揺れ動く心理を感じさせるファッションとして見られて、うざがられることもあります。
心理学の防衛機制「退行」から見る伊達マスク
心理学では防衛機制の一種に「退行」と呼ばれるものがあり、その中でも
- 爪噛み
- 指しゃぶり
- 唇を舐める
などの口周りに関する行動が出ることで、不安や恐怖、受け入れらない現実などから、自分を精神的に守ろうとすることがあります。
幼児退行という言葉にもあるように、退行によって出る行動は、大人がやっていると幼さを感じるものだり、それを見た周囲から偏見や好奇の目で見られてしまい、ストレスを抱えてしまうものでもあります。
しかし、伊達マスクの場合は幼稚さは見られないどころか、健康意識の高さや他人に風邪を移さないように気配りができることなど、「他人を思いやれる精神的な余裕を持った大人らしさ」に結び付けられる要素が豊富です。
もしも、伊達マスクを爪噛みや指しゃぶりなどの口周りに出る退行の一種として考えた場合、周囲に幼稚な自分を出して恥をかくことがなく、かつ自分が感じているストレスや葛藤をうまく処理できるという2つのメリットがある理にかなった行動だと捉えることもできます。
参考書籍
[だてマスク]依存症 ~無縁社会の入り口に立つ人々~ (扶桑社新書)