コミュニケーション全般が苦手、あるいは苦手意識を感じている人のことを「コミュ障」といいます。
コミュ障の原因として考えられるので、性格や気質、人と会話する経験の少なさ、自分が話をできる話題の狭さなど、様々原因がありますが、その中でも最近当たり前になっている、ネット上でのコミュニケーションが、コミュ障を生んでいる原因であると、個人的には考えております。
今や若者の間でのスマホの保有率は20代で94.2%、13~19歳で81.4%という数字も出ており、多くの若者にとってスマホを介したネット上でのコミュニケーションは、ごく自然な光景です。(数字は総務省 通信利用動向調査[2016年]より)
しかし、その事が引き金となって、新たなコミュニケーションの問題が出ているのだとも考えられます。
なぜネット上のコミュニケーションがコミュ障を招くのか
「ネット上ではコミュ強。リアルではコミュ障」な人
あなたの身の回りにスマホ(SNS、チャット、メール)ではとても活発にコミュニケーションを取るのに、実際にリアルの生活では引っ込み思案で会話に消極的という人はいないでしょうか。
ネット上ではやたら話上手で社交的なのに、リアルではそんな姿をちっとも見せないほどに口下手で内向的。ネットのコミュ強な姿か、それともリアルでのコミュ障な姿か、どちらがその人の本性なのか分からず混乱してしまうものです。
このように、ネットとリアルで全く異なってしまうのは、ネット特有の状況が関係しています。
ネット上のコミュニケーションは
- 話が下手でも文章を推敲して入力すれば問題ない。(場合によってはコピペも使える)
- 顔(表情)が見えないので、余計な気を使わず堂々と会話できる。
- (リアルと違って)周囲の目が気にならず堂々と会話がしやすい。
- 話し相手からも自分の顔(表情)や姿がわからないので、偏見を排除した会話ができる。
- もしも、自分の気持ちを文章にするのが苦手なら、顔文字、絵文字、スタンプ、写真などを代わりに使ってコミュニケーションできる。
などの、リアルではコミュ障で悩みがちな人にとって、非常に話しやすい条件が整っております。
ネット上のコミュニケーションなら、どもることもないし、小声でも問題ないし、推敲して入力すれば言い間違えて恥をかくことも無いし、もしもいい感じの言葉が出てこなければスタンプを使えばいいし、赤面していて手汗がダラダラでも相手にはバレない…という安心感を感じられるコミュニケーションなのです。
ネット上の安心できるコミュニケーションの弱点
しかし、こうした利点は炎上やアンチコメなど、ネットで起きるコミュニケーションの問題点と表裏一体です。
- 相手の表情を気にせず話せる分、会話が一方的で偏った内容になりやすい。
- 相手の表情が見えないために、会話によって相手がどのような気持ちになっているのかを文面のみで想像しなければいけない。
- 堂々と会話がしやすいために、相手の立場や状況を無視した失礼なコミュニケーションになってしまう。
- 顔文字、絵文字、スタンプ、写真などの文字以外に頼るために、自分の気持ちや伝えたいことを言葉や文章にまとめるスキルが身につかない。
などの、問題があります。
ネット上の会話は、基本的に顔(表情)が見えない状態なので、相手の感情を不必要に刺激してしまったり、感情の行き違いが起きると大事に発展しやすい側面もあります。
リアルの会話と比較してネット上の会話は、入手できる情報が基本的に文字だけであり、そこからリアル同様に相手の気持ちや伝えたいことなどを想像しなければいけません。
しかし、想像した内容が単なる自分の間違った思い込みでしかなく、相手の意図を性格に理解できないために、行き違いが発生しやすいのも、ネット上のコミュニケーションの弱点です。
例えば、リアルでは優しい表情や声色で叱るとしても、ネット上では基本的に文章だけで叱られ、優しい表情や声色は伝わりにくく「めちゃくちゃ怒られた」と感じがち。
もちろん、叱った側は激しい怒りなんかないのに、そのことは文面からでは読み取りにくい。でも叱られた側は「めちゃくちゃ怒られた」と感じており、両者の感情の行き違いが容易に起きてしまうのが、ネット上の会話の特徴なのです。
ネット上の会話が当たり前になりリアルの会話を不慣れに感じる
ネット上の会話は時間や場所を選ばず、気軽にできる。
また、リアルの会話が苦手な人にとっては、安心できる要素が多いために、ネット上でばかり会話をしてしまうことが癖になることもあるでしょう。
しかし、こうした癖のせいで、リアルで誰かと話すときの話し方を忘れてしまったり、何をどう話せばいいのか分からず、リアルの会話が不慣れになってしまった結果、コミュ障を招いていることも考えられます。
ネット特有の会話をリアルに持ち込んでコミュ障を招く
また、ネットの会話にどっぷり浸かってしまったせいで、ネットの話し方をリアルに持ち込んでしまう。ネット上だからできた、ストレートでやや乱暴な言葉遣いや話し相手の表情や態度を無視した一方的な喋り方のせいで、リアルの会話が噛み合わずコミュ障を招いてしまうのです。
ネット上ではあたり前のように使っている会話の中には、ネットだけで通じる俗語(=ネットスラング)やネット特有のノリも含まれていますが、それらがリアルの会話でも必ず通じるわけではありません。
ネットスラングを詳しく知らない相手からすれば、リアルでネットスラングを使う人の会話は「何を言っているのか理解できない」と感じるのはもちろんのこと、顔出しもせず匿名だからできる低俗でTPOをわきまえるべき話題を、他の人が見ているリアルでしようものなら「なんて非常識な人なんだろう」という偏見を受けるのも無理はありません。
絵文字やスタンプに頼って、自分の伝えたいことを言葉にするスキルが育たない
また、最近ではどのSNSでも、絵文字やスタンプのように、自分の今の感情を文章ではなくイラストや写真で手軽に説明コミュニケーションが当たり前になってきています。
スタンプは言葉にすれば長文で読むのに時間がかかりそうな内容であっても、タップ一つで効率的に、そしてわかりやすく、面白おかしく自分の気持ちを伝えられるのが魅力です。
また、ネット特有の「顔(表情)が見えない」という問題も、スタンプや絵文字を使うことによって(簡易ではあるが)表現可能であり、相手に自分の気持ちや感情をより伝えやすいのもメリットです。
しかし、スタンプや絵文字に頼ることは、言い換えれば自分の気持ちや感じていることを、自分で文章に組み立てて整理したり、自分の表情や仕草などで相手に伝わるような訓練をしていない事とも言えます。
当然ながらリアルの会話では、ネット上で使っているスタンプや絵文字を使ってコミカルかつ的確に自分の気持ちを伝えることは技術的にも物理的にも不可能です。
リアルの会話で必要な、伝えたい内容を整理する技術、相手の立場に経って伝える技術、身振り、手振り、聞く態度、間合いなどのノンバーバルコミュニケーションスキルなどが、スタンプや絵文字にどっぷり浸かりすぎたせいで身につかない。その結果として、リアルでコミュ障になっているのだと考えることができます。
コミュニケーション能力アップのためにできること
ネット上のコミュニケーションにどっぷり浸かってしまって、リアルでコミュ障に悩んでいる人は
- 自分ばかり一方的に話すのではなく、相手の話を聞く姿勢を持つ。
- 小声にならず、ハキハキとした態度で話して、相手に伝えやすい会話を心がける。
- 無表情で話すのではなく、抑揚や身振り、手振りを交えて話す。
- 伝えたいことを自分なりに言葉に落とし込んだり、整理してまとめてみる。
などの、コミュ力を強化するためのトレーニングを行うことが大事です。
いくらネット上で多くの仕事や雑務がこなせる時代になっているとはいえ、
- 恋愛全般。
- 就職活動における面接。
- 仕事の都合上、顔合わせをしなければいけない場面。
- 役所に行って相談や申請が必要になる場面。
- 病院に行って自分が感じている不調を医者に伝える場面。
など、どうしてもリアルでのコミュニケーションが必要になる場面は、社会生活を送る上では欠かせないものです。
「自分はコミュ障だから、コミュ力がなくても生きていけるネットやスマホの世界で生きていく」と、リアルでのコミュ力を付けることを放棄することは、一見すれば楽な生活を選んでいるように見えて、自分を更なるコミュ障の深みへと追い込み、生きづらさを増やすことになるのです。
関連記事