「いじられキャラは注目を浴びるからおいしいポジション」というような話を聞いたことはありませんでしょうか。
落語の「与太郎(あるいは与太話)」にもあるようにいじられる存在は笑いの定番ネタ。漫才の「ボケ」の存在は、まさに笑いを呼ぶムードメーカーでありエンターテイナー。
注目を浴びて人気ものになりたいと願っている人からすればたしかにおいしいポジションと言えましょう。
しかし、いじられキャラはその性質上、嫌なことでいじられても断れないなどのおいしさの裏に隠れた辛さもあります。
いじりがエスカレートしてただのいじめへと発展する事も多いハイリスク・ハイリターンなポジションと言えるでしょう。
今回はそんな「いじられキャラはおいしい」という与太話について、お話したいと思います。
いじられキャラの「おいしさ」の例
いじられキャラのおいしさをざっくりあげてみると
- あまりやりたがらない「いじられる役」を進んで買うことで、集団内でいち早く自分の居場所を獲得できる。
- 上司や先輩からいじってもらえることで、立場が上の人に可愛がられやすい。
- いじりを通して人間関係の和の中心のポジションを手にい入れやすい。つまりムードーメーカになりやすい。
- 容姿や性格などのコンプレックスを笑いのネタに変えることができる。
- 自分に特別な才能や能力がなくてもOK
などの、人間関係を円滑にするための魅力があるキャラクターといえます。
とくに「顔が今ひとつ」「あまり頭がよくない」「昔はやんちゃをしてた」などの一般的にマイナスの材料として扱われるものですら、いじられキャラの魅力として昇華できるのが魅力的です。
これと言った人に自慢をできるものを持ってない人から見れば、実においしいポジションのように感じるのです。
また、いじる方からしても、「この人なら多少いじっても笑って済ましてくれる」という安心感が得られることから、親しみやすい人だと見られる事もあるでしょう。
いじられるのが嫌いでお高く止まっている人と比較すれば、いじられキャラの親しみやすさは明白です。
進学や就職などで新たな人間関係に所属して緊張している人が多い場面で、すかさずいじられキャラに名乗りを上げれば、簡単に自分の顔と名前を覚えてもらうことができ、その後の生活を円滑に送ることに役立つのものです。
いじられキャラのおいしさに潜む問題点
冒頭でも触れましたが、いじられキャラはおいしいところばかりではありません。
そもそもおいしいところしかないのなら、こぞって争奪戦が起きていてもおかしくないのですが…現実はいじられキャラを嫌がったり、辛い立場と見ている人が(筆者含め)いるものです。
いじりが下手な相手だとストレスが多い
いじられキャラとしてより注目を浴びるためには、上手ないじりができる人が欠かせません。
「私のことをいじってくださいよ」とアピールしているのに、何の面白みも無いただの罵倒や悪口を言ったり、いじられキャラをディスっていじった自分をよく見せるという返しをされれば、まさにいじられキャラは損な役回りでしかありません。
いじられキャラで辛さを感じている人に多い「いじりがただの悪口やいじめになっている」の原因はいじる人のスキル不足が大きな原因です。
なお、上手にいじるための例としては…
- 間を読む技術。
- ツッコミのタイミングの取り方
- 引かれすぎず滑り過ぎない言葉選び。
- 時にはスルーするなどの機転の効かせ方。
- ワンパターンにならない豊富なボキャブラリー。
- いじりの緩急の付け方。(例:辛辣&緩いいじりを使い分けるなど。)
などの、笑いを取るための高度なコミュニケーション能力や知識が必要になります。
噺家や漫才師、お笑い芸人のような厳しい稽古を、いじり役がしている…ということは、まずありえないものです。
大抵は品もなければセンスもない、それでいて自分の下手ないじりに妙な自信を感じていて、笑いを誘えない未熟さをいじられキャラになすりつけようとします。
それゆえに、進んでいじられキャラになろうとする人が出てきにくいのも自然なことと言えるでしょう
下手ないじりをしてくる傍観者の存在
仮に上手ないじりを返してくれて、いじられキャラである自分をうまく持ち上げてくれる人が見つかったとしても、その様子を見ている人(傍観者)が増長して下手で無粋ないじりをしてきて嫌な思いをすることがあります。
いじり・いじられのコミュニケーションをするときは、大抵は二者間だけではなく、その様子を誰かの前で行い、いじられている様子を見ている人…つまり、傍観者がいるものです。
厄介なことに傍観者によるいじりは、前にいじった人よりも面白いいじりをしないと、自分のいじりのセンスのなさ技術の拙さを露呈させてしまうことになるので、やたら過激ないじりになりがちです。
また、自分よりも前にいじった人がいるので「いじっているのは自分一人だけではない」といじることへの抵抗感や罪悪感が良くも悪くも薄れてしまい、過激ないじりになりがちです。
その結果いじられキャラを泣かせるようなことになっても「俺(私)は悪くないし」「いじられキャラの癖に泣くなよ」と、いじられキャラに責任を押し付け開き直ってしまうことがあります。
なお、このような心理は集団心理が深く関連しています。
集団になるからこそ起きる冷静さを欠いた興奮した心理状態の犠牲者になりやすいことが、いじられキャラになりたくないと感じる理由の一つと考えられます。
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面倒な人だけど縁切りできないから仕方なくいじられキャラに押し込む
時にいじられキャラは「友達として切るに切れないけど、かと言って今のままのさばらせて置くと面倒くさいから、とりあえずいじられキャラにはめ込んで置くか」という、厄介者の行き着く先として与えらることがあります。
不思議ちゃんや天然キャラであざとい人、わがままで自己中な一面がありそのままのキャラでは集団の和を乱すリスクが高い人がいるものの、完全に排除してしまえば「仲間はずれをした」「友達と縁を切る薄情者」と言われてしまう…
それを避ける苦肉の策として、厄介者にいじられキャラという立場を与えて、集団の一員にするのです。
この場合のいじられキャラは、集団内のムードメーカーというよりは鬱憤を晴らすためのサンドバッグ。
つまり八つ当たりの対象であり、人気者とは程遠い存在です。(場合によっては笑い物になっている可能性もあるが…)
また、いじられキャラを与えた動機が後ろ向きなために、過度ないじりからいじめへと発展するリスクも高くなります。
嫌いな人を通じて集団が一致団結するのと同じ原理が働いているために、この場合のいじられキャラお世辞にもおいしいとは呼べないポジションと言えます。
いじられキャラを脱出しようとしたら周囲から邪魔される
集団内にいじられキャラが存在している状態は、非常に安定した人間関係です。
いじられキャラ以外の人からすれば、いつもいじられているいじられキャラが集団にいる以上は、「とりあえず自分がいじられキャラになる可能性はない」という安心感を抱くことができます。
しかし、上で触れたように下手ないじり方によりいじられキャラを辞めたいと打ち明けた時点で、いじられキャラ以外の人からすれば「今度は自分がいじられキャラになって辛い思いをするかもしれない」という不安を感じて、必死にいじられキャラの脱退を引きとめようとします。
また、本当にいじられキャラを辞めたいと必死に訴えても、真剣な言動までもいじりの対象となってしまい、いつまでたっても話が進まないという怖さもいじられキャラの宿命でもあります。
いじられキャラとしてあえて弱みを見せたり、ふざけることで笑いを取ってきたツケとして、真剣なムードですらいじりの材料となり、自分の真意が相手に伝わらない。
それどころか、真剣な話を相手が笑いのネタだと感じ取り消費されてしまうのが、いじられキャラ最大の辛さと言ってもいいでしょう
そんないじられキャラの光景は、まさに顔で笑って心で泣いているピエロ(道化)のよう。
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ポジショントークとしての「いじられキャラはおいしい」
「いじられキャラはおいしい」という言葉を解釈するときは、その言葉を口にしている人の状況や立場についても目を配らせることが大事です。
例えば、いじられキャラとして人気をあげたユーチューバーやお笑い芸人が言う「いじられキャラは美味しいです!」の言葉の裏には
- いじられキャラとして人気を集めれば仕事(=金)になる
- いじりやすさを出すことファンを獲得しやすい。
と、収益や仕事ありきでのキャラ作りに過ぎないという視点を持てば「いじられキャラはおいしい」という言葉の捉え方が変わってくるでしょう。
また、実際にいじられキャラとして知名度を上げてきた人であれば、わざわざいじられキャラを悪く言うことは今まで積み上げてきた自分の実績、芸風、ファンの皆さんを否定することになります。
仮に「いじられキャラはおいしくない」と感じていても、立場上おいしいと言わざるを得ない可能性も十分に考えられます。
更に、いじられキャラとして生き残ってきた人ばかりが「いじられキャラはおいしい」と言っている裏では、いじられキャラとしてのキャラ作りに失敗して挫折した人の声は当然ながら含まれていません。
いじられキャラが本当においしいかどうかをしっかり確かめるためには、いじられキャラで成功した人と失敗した人の双方の意見を聞いた上で客観的に判断していくことが肝心です。
しかし実情はというと、成功者ばかりの声があつまり意見が極端に偏っていると考えられます。(=生存バイアス)
このように、「いじられキャラはおいしい」という与太話には言葉を発する人の立場が言わせている、すなわちポジショントークに過ぎないという視点を持つことが大事だと思います。
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