繊細で他人の影響を受けやすい気質であるHSPの人は、お店でお客さんと直接対応する接客業やサービス業、営業職、教職、介護職、などの人との密なコミニュケーションが必要な仕事に対して辛さを感じることがあります。
とくに接客業は最近は「感情労働」とも呼ばれ、お客さんを喜ばすためにあえて自分の感情(=テンション)を上げて接客をしたり、逆に不満や怒りなどの湧き出てくる自分の感情を抑えて仕事に励むなど、感情をコントロールすることは日本のようなおもてなしを大事にしている接客業に多く見られます。
そんな感情をコントロール仕事は、HSPのように他人の影響を受けやすい気質の人にとっては、時に強い負担になりストレスや疲労を抱えることになります。
今回はHSPの人がなぜ接客業に向いていないかと言う理由や、もしも接客業につくことになった場合の対処法等についてお話しいたします。
目次
接客業は感情労働である
感情労働とは、その名のとおり自分の感情を仕事の中で利用したり、コントロールしたりする労働の事を指す言葉です。
体を使う「肉体労働」、頭を使う「頭脳労働」に並ぶ概念として、近年になり使われるようになってきています。
感情労働はその性質上、接客業のようにお客さんやクライアントとのコミュニケーションが必要になる仕事の多くに当てはまり、
- クライアントと良い関係を作るために、自分の感情をコントロールして打ち解けるための雰囲気を作る。
- 逆に自分のモヤモヤとした感情を顔に出さず、あくまでも笑顔で対応を心がける。
などの、自分の感じている感情とは違う自分を演じて使い分けるという高度な技術が必要になります。
また、感情労働は対面のコミュニケーションだけでなく、例えばコールセンターなどの電話越しでの会話、メールやSNSでのやり取りなどの、相手の顔が見えない声や文字だけのやり取りも含みます。
時には自分の感じていることと真逆の行動を行う…例えば、
- 苦手意識を感じている取引先の方の機嫌を損ねないように好意的な態度で接待をする。
- 自分以外の誰かのミスで怒鳴られても、反論せず落ち着いて話を聞き入れる。
- 無愛想なお客さんに対して、あくまでも笑顔で接客を行うように努める。
などの、本音を隠し職務上の建前で行動することも求められます。
感情労働は自分の感情を抑圧するために精神的なストレスは大きくなる傾向があり、うつ病などのメンタルヘルスの悩み、抑圧しすぎたために自分で自分がわからなくなる、自分を見失ってしまう(=アイデンティティの喪失)という問題もあります。
なお、接客業に限らず社内での連携やチームワークを向上させるために、積極的にコミュニケーションを取ることもあり、接客業のようなお客さんや取引先とのコミュニケーションが必要な仕事に限らず、集団で行う仕事であれば多かれ少なかれ感情労働になるという見方もできます。
就職活動でも採用基準のひとつにコミュニケーション能力やリーダシップのような対人スキルが求める企業が大半という現状だけに、感情労働は接客業に限ったものではないという認識を持っておくのが良いでしょう。
HSPは他人の感情に左右されやすく感情のコントロールに苦手意識がある
HSPの人は、自分と他人(周囲・集団)との心理的な境界線が薄く、他人の怒り喜び、悲しみや興奮といった感情に左右されてしまうという特徴があります。
例えば、自分とは全く関係のない人が怒鳴られているのを見かけて、HSPの人はまるで自分が怒られているかのように感じて心拍数が高まったり、なんだか申し訳のない気分に襲われる…ということがあります。
自分とは関係のない人の出来事に対してこと過度に共感・同調してしまい、精神的に不安定になりやすいために、接客業のようにその場に応じて自分の感情を適宜コントロールしてお客さんのために自分を演じる仕事に対して、HSPの人は苦手意識を感じるのです。
仮に感情を上手にコントロールできたとしても、その裏では敏感な気質ゆえに感じる多くの情報を抑圧しすぎた結果、仕事に対して人一倍疲れを感じていたり、すぐに抑圧できるキャパシティを超えてしまうことで仕事が長続きしなくなることもあります。
また、お客さんとの対応だけでなく、同じ職場の人との交流においてもHSPの人は他人の感情に大きく左右されてしまい、疲れを感じることがあります。
ミーティングや仕事とは関係のないたわいもないおしゃべり、仕事後の飲み会などのコミュニケーションと感情のコントロールが必要な場面でも感情を揺さぶられて疲れてしまうのです。
HSPはクレーマーや迷惑なお客さんにも感情を大きく左右されやすい
接客業で避けては通れないのは、いわゆる「クレーマー」などの迷惑なお客さんや感情をむきだしにして迫ってくる人への対応です。
クレーマーの中でもとくに悪質な場合は客という立場を利用し、自分の理不尽な要求を無理やり押しために怒鳴る、「SNSに投稿する」などと脅す、あえて他の客から見られるように見せしにする、などの感情を全面に出して要求をつきつけて来ることが
もちろん、多くの接客業ではこのような理不尽なお客さんに対して、同様に怒鳴り返すような対応を取るわけには行かず、正当な要求であれば真摯に受け入れ、不当な要求であればなるべく穏やかに断ることが求められます。
HSPの人の場合、まず自分の感情を顕にしてくるクレーマのような人、それも乱暴な言葉で大声をあげたり、目立つようにあえて大げさな態度で要求を迫るクレーマーに感情を大きく揺さぶられてしまい不安定な気持ちになってしまいます。
しかし、気持ちが揺さぶられたからといって、パニック状態になってしまえばより相手を刺激してしまい、より感情的な要求をされてしまう恐れがあります。
もちろん、クレーマーのような迷惑な人に対して何も問題なく対応できる人自体少ないとは思いますが、ことHSPにおいては他人の感情の影響を受けやすいという気質ゆえに気持ちを揺さぶられすぎて冷静さを失ってしまったり、クレーマーの事がトラウマになり仕事に支障をきたしてしまう事があるのです。
なお、クレーマーに傷ついた態度を取ってしまうと、クレーマーが抱いている罪悪感や劣等感を刺激してしまい、より激しいクレーマーになることがあります。
このことは、心理学では「自責の念による反応増幅仮説」で説明することが可能です。
クレーマーでも内心は相手に対して悪いことをしているという罪悪感、迷惑な客になっているという劣等感や後ろめたさを感じている、傷ついている様子を見るとそれらの気持ちが強化され余計に過激な言動を取るというメカニズムが働くのです。
もしもHSPで接客業をしなければいけない時の対処方
HSPだからといって全く対人関係のない仕事を最初から選べるということは難しく、また対人関係のない仕事の数そのものが非常に少ないので簡単に仕事にありつけるというものではありません。
とりあえず生活を成り立たせるためにも就職やアルバイトで接客業を選ぶ事はあろうかと思います。そんな場面で役立つ、なるべく穏やかに日々を送るため対策やコツをまとめました。
静かで穏やかな職場を選ぶ
HSPの人は怒鳴り声や騒々しい場面では、他人の感情だけでなく音(騒音)の刺激を強く受け取ってしまい動揺してしまう事があります。
接客業の場合なら、大声でしゃべるお客さんが多い、子供や親子連れが多いなどの客層から、近くに大きな道路・路線がある、などの職場の立地にも目を配り、なるべく静かで穏やかな職場を選ぶのがいいでしょう。
また、比較的な静かで穏やかな職場なら、同じく働いている人も穏やかな人が集まりやすいというメリットもあります。
同じ悩みを共有できる人のいる職場で働く
HSPの人は、敏感な気質ゆえに自分の悩みが周囲から理解されないことに辛さを覚えたり、辛さを訴えていく中で「自分の方が間違っている、おかしい」と感じて無理に集団に合わせようとしたり、集団と深く関わることを避けて孤立してしまうことがあります。
そうなると集団での連携が必要な仕事で足を引っ張ることになるだけでなく、居場所を感じられないことで仕事をやめてしまう原因にもなります。
ですので、既に自分のことをよく知っている友達や先輩が働いている職場で働き「自分が困っている時に相談できる人が身近にいる」という安心感を得つつ働くのがいいでしょう。
自分は自分、他人は他人と割り切って働く
自分と他人との気持ちを混同しないためにも「自分は自分、他人は他人」と割り切りを持ち、程よい距離感を保ちつつ働くことが大事です。
お客さんだからといってなんでもかんでも要求を全面的に聞き入れるののではなく、無理だと思えば断りを入れたり、他の人に助けを求めるなどして一定の距離感を保つようにしましょう。
もちろん、このことはは同じ職場で働いている人との関係にも言えることです。
接客業が無理なら在宅ではたらくの方法の1つ
もちろん接客業に就いていないとしても、同じ職場の従業員同士でのミーティングやなにげない話し合い、飲み会などのコミュニケーションの場面でも、接客業同様の辛さを感じることがあり、自分にとって働きやすい環境で働くことがHSPの人にはおすすめと言えます。
例えば、仕事が自宅で完結する在宅ワークのような、なるべく他人の感情の影響を受けない仕事に就くことで、精神的にもより安定した生活を送ることができます。
ただし、いきなり仕事をやめて在宅ワークをする場合は、給料が正社員やアルバイト以下になるリスクや、経験者のみ募集している仕事ばかりで初心者は仕事にすらありつけないという事態に見舞われるリスクもあります。
在宅での仕事を採用している正社員やアルバイトを探したり、独立して在宅ワーク一本で稼ぐにしてもまずは正社員でスキルをつけることから始めるというように、計画的に働くようにしましょう。