モラルハラスメント(モラハラ)とパワーハラスメント(パワハラ)は、どちらも職場で起きるハラスメントです。
認知度で言えばモラハラよりもパワハラの方が上で、モラハラと違ってパワハラの方は厚生労働省でパワハラの6累計が説明されているなど、どういったケースがパワハラになるのかという情報や研究も数多くされています。
しかし、職場で起きるハラスメントには「パワハラではないけどモラハラに当たる可能性がある」というケースもあります。
また、人によってはパワハラとモラハラを混同していたり、定義や特徴を一緒くたにしていることもあります。
パワハラとモラハラは、完全に別物というわけではなく、お互いに共通しているところがあったり、明確に分かれているところもあるので、そのややこしさが混同する原因のひとつでもあります。
今回は、パワハラとモラハラの違いや特徴、共通点についてお話いたします。
パワハラとモラハラのそれぞれの特徴
パワハラの定義・特徴
パワハラは厚生労働省が決めた定義によれば、
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
という定義になっています。
「パワーハラスメント」で使われている「パワー(power)」には、腕力や力という意味の他にも、権力、支配力という意味もあります。
職場において先輩や上司などの明確な立場のある人が、自分の権力を利用して立場が下の人に身体的・精神的苦痛を与える嫌がらせのことを指します。
また、同じく厚労省が分類した職場におけるパワーハラスメントには
- 1.身体的な攻撃
- 2.精神的な攻撃
- 3.人間関係からの切り離し
- 4.過大な要求
- 5.過小な要求
- 6.個の侵害
の6つに分けられています。
ある調査によれば、この中で一番件数が多いのが「精神的な攻撃」で、パワハラを受けたことがある人の約半数が経験しています。
一方で「身体的な攻撃」はパワハラを受けたことがある人のうち約5%ほどとなっています。
モラハラの定義・特徴
まず最初に、モラルハラスメント(モラハラ)は、厚生労働省などの公的な機関で提唱されたハラスメントではありません。
モラハラはフランスの精神科医のマリー=フランス・イルゴイエンヌなど、心理学者が提唱しているハラスメントの一種にすぎず、定義と呼べるものにもばらつきがあります。
パワハラと比較すると、立場の上下関係なく行われる嫌がらせであり、立場が逆転している、同じ立場の人同士でも成立するという特徴があります。
またモラハラの特徴とも言える言葉の暴力や嫌がらせが当事者以外からは見つかりにくいという特徴から、パワハラと比較すると周囲から嫌がらせを行っていることがわからず、見過ごされやすくなります。
パワハラとモラハラの違い
モラハラは上下関係が逆転してる場合でも成立する
パワハラは
- 上司→部下
- 先輩→後輩
- 立場が上の人→立場が下の人
と、立場による権力や優位性を利用して、職務状の適正な範囲を超えて行われる嫌がらせのことを指します。
そのため、立場が逆転した
- 上司←部下
- 先輩←後輩
- 立場が上の人←立場が下の人
のような関係においては、パワハラの定義からは逸れてしまいます。
しかし、モラハラは立場関係なく起こるハラスメントであり「上司←部下」のような、パワハラではカバーできない、立場に逆らった嫌がらせがモラハラに含まれることがあります。
モラハラは立場が同じ人間関係でも成立する
上の内容の続きで、パワハラと違いモラハラは立場関係なく成立嫌がらせのため
- 上司→上司
- 部下→部下
のように、同じ立場同士の人間関係でも成立してしまいます。
また、仕事の友達同士など、普段争いごとや喧嘩などをするようには思えない人間関係でも起きるために、外部の人からはなかなか嫌がらせが起きていることがわかりにくなります。
モラハラは職場以外での人間関係で起きる
パワハラが職場や仕事関連の人間関係で行われる嫌がらせですが、モラハラは仕事も含めた全ての人間関係でおきるハラスメントです。
一般的にモラハラという言葉は、夫婦間、恋人間、友達同士、学校のクラスメイト同士、部活の人間関係など、パワハラではカバーできないできない仕事以外の人間関係においてよく使われる傾向があります。
パワハラとモラハラの共通点
パワハラとモラハラの共通点を、さきほどのパワハラの6類型と照らし合わせてみると
2.精神的な攻撃
3.人間関係からの切り離し
6.個の侵害
の3つが、とくに大きく共通していると言えます。
精神的な攻撃
コンプレックスや陰口などの相手が嫌がることを言う、追い詰めるような態度を取る、「怒ってないから正直に言ってみなさい」と言って正直に打ち明けてくれたのに怒る(ダブルバインド)、などの精神的な攻撃をする行動は、パワハラとモラハラの両方に共通しています。
例えば、仕事で部下を叱るにしても怒鳴り声を立てて、ただ感情的に怒りをぶちまけている光景を見ても、人によっては「気持ちを込めて愛のある怒り方をしている」と感じる人もいれば、「過度に萎縮させて逆効果になるのでは?」と感じてしまう人もいます。
ただ暴力に訴えたり、肉体に怪我をさせるのとは異なり、精神的な攻撃は目に見える傷がなく、且つその状況を見る人によっては感じ方に差があるので、他人の精神的な傷に鈍感な人は、知らないうちに相手を精神的な追い込んでしまいパワハラ、モラハラの加害者となってしまうことがあります。
人間関係からの切り離し
ある特定の人物を孤立させるために嘘を振りまく、無視を繰り返す、冷遇する、差別するといった行為もパワハラとモラハラの両方に共通しています。
人間関係から切り離す理由は、相手に対する嫉妬や嫌悪感、過去に何か気分を害することされた(と一方的に感じていることも)など様々ですが、こちらも外部からは嫌がらせが行われていることがわかりにくく、とても厄介で陰湿な行為です。
また、切り離す人間関係はネット上やSNSでの人間関係も同じで、炎上や特定などによって被害者のプライバシーが不特定多数の人に知れ渡ってしまい、リアルの生活でも影響が出る事態に発展することもあります。
個(プライベート)の侵害
相手に知られたくない、交友関係や恋人の有無、人には言いにくいプライベートな情報を知ろうとしたり、プライベートに干渉して相手をコントロールする行為もパワハラとモラハラの両方に共通しています。
また、私生活を知るために携帯電話やスマホを勝手に除く、相手の行動をSNSで監視するといった行為も、個の侵害にあたります。
個の侵害するする理由は、被害者のことを自分の所有物だと思っている、相手の行動をコントロールしたいといった理由のほかにも、相手と自分との境界線が薄く、相手のことを自分とは違う一人の人間だと思って接していない、つまり相手を一人の人間として尊重していないことが理由として考えられます。
また、恋愛に関するプライベートを知ろうとしつこく迫る行為は、セクシャルハラスメント(セクハラ)にも共通しています。
モラハラ・パワハラに巻き込まれ時は誰かに相談できるように
パワハラの被害者を調べた調査によれば、パワハラ被害者がパワハラのために最も行った行動は、実は「何もしなかった」という結果が出ています。
パワハラを受けていても、立場の都合上相手に強く申し出る事はむずかしく、仮に訴え出たとしてもうやむやにされたり、更に自分が怒られて職場で不利益を被ってしまったり、「お前にも責任があるのでは?」と、被害者である自分に落ち度があると責任転嫁されてしまうことを恐れて、なかなか言い出せず一人で抱え込んでしまう人は少なくありません。
嫌なことがあっても自分一人で抱え込む、「自分だけ我慢すればいいんだ」と思い込んでそうしてしまう…
そんなある一面では心優しい人、またある一面では自己主張が少なく積極性に欠ける人は、パワハラやモラハラの被害者になりやすい性格と見ることができます。
「集団の和を乱していはいけない」「自分勝手な行動は慎むべきである」と道徳的な正しさを幼い頃から大切にするべきだという環境で育ってきた人ほど、ハラスメントの被害にあってもそのことを誰にも相談できず、自分ひとりで抱え込んで心身ともに疲弊してしまう損な役回りを人間関係の中で担ってしまいがちです。
「集団の和を乱していはいけない」というのはたしかに道徳としては間違っていませんが、その考え方をパワハラやモラハラのように、明らかに自分が傷つくような場面でも貫き通すのは辛いときの対処法としては効果的ではありません。
辛いことがあったり、自分に不利益なことがあっても抱え込まずに誰かに相談をする事は、自分の健康や生活を守るための大切な方法の一つであることを、しっかり覚えておくようにしましょう。