ネット上(SNS含む)で検索していると「自己愛の強い人の顔付きや表情には、これこれこう言う特徴がある」という説がよくあるものです。
自己愛性人格障害に関する書籍をいくつも調べている身ではありますが、自己愛の強い人の顔の特徴に関する情報は目にしたことがなく、あくまでも俗説や噂の域を出ないものだと筆者個人的に感じます。
しかし、ネット上に上がっている「自己愛性人格障害の顔つき」の特徴を読んでいくと、(真偽のほどは確かではないものの)言われてみればなんとなくそんな気がする…という錯覚に近いものを感じるのもまた事実です。(ただし、わかりやすいからといって正しいと判断するのは何かか違うが気する。)
今回は、そんな自己愛性人格障害と顔つきに関する諸々について、お話しいたします。
目次
自己愛性人格障害の顔つきに関する諸説
ネット上で見かけた自己愛性人格障害の人の顔の特徴としては…
- 爬虫類のような鋭い顔つき。
- 般若のように威圧するような顔付き。
- 獲物を狙う動物のように、ギョロギョロとした目をしている。
- 三白眼。目が細い。つり目。
など、いかにも極悪人で自分のことしか考えなさそうに見えるナルシスト気質な人こそ自己愛の強い人だ…という言説があります。
しかし、この言説の出処は不明であると同時に、いかにもステレオタイプな極悪人のイメージが投影されたものにも見え、鵜呑みにしてはいけない説だと感じます。
そもそもで言えば、米国精神医学会における自己愛性人格障害の診断基準に「顔付き」や「表情」に関する項目は載っておらず、どれも行動面に関する事柄で診断することになっています。
このことからわかるのは、自己愛性人格障害の診断基準において顔付きは決定的な判断材料とはみなされていない。ネット上に溢れている諸説は、あくまでも客観的な根拠は乏しく噂や俗説の域を脱していないのだと考えられます。
※もちろん、俗説として見た場合、確かにわかりやすいもの説ではあるものの、わかりやすいことを正しいと信じてしまうことは、心理学では認知的流暢性(処置流暢性)と呼ばれており、錯覚の一種とされています。
詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
自己愛が強いかどうかは顔ではなく普段の言動で判断するのが賢明
米国精神医学会の診断基準に挙げられている、自己愛性人格障害の人の行動にはどのようものがあるかというと…
1.自己の重要性に関する誇大な感覚 (例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないのにもかかわらず優れていると認められることを期待する)
2.限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
3.自分が特別であり、独特であり、ほかの特別なまたは地位の高い、人、集団、組織にしか理解されない、あるいは関係があるべきだと信じている。
4.過剰な賞賛を求める。
5.特権意識。つまり、特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由もなく期待する。
6.対人関係で相手を不当に利用する。自分の利益や目的のために他人を利用すること。
7.共感の欠如。他人の気持ちを理解しようとしない。
8.しばしば他人に嫉妬する。あるいは、他人が自分に嫉妬していると思い込む。
9.尊大で傲慢な行動や態度。
(参考:『パーソナリティ障害がわかる本』より)
の9つです。この項目のうち、5つ以上当てはまれば、自己愛性人格障害だと診断されます。
各診断基準を見てもわかるように、顔付きや表情など、顔に関する項目は一つもなく、どれも言葉や態度など行動面で判断しているものばかり。自己愛の強い人は顔ではなく行動をよく見ることが大事なのです。
顔を簡単に加工できる時代に顔で判断することの難しさ
「自己愛の強い人の顔の特徴」が仮に本当だとしても、個人的に感じるのがいくら顔で見抜こうとしても、その人の本当の顔が分からなければ判別はできない。
つまり、
- 原型が残らないほどの化粧をする
- アプリで顔の造形を変える
- 整形をしている
など何らかの形で顔を加工しており、元の顔がわからない人を前にした場合、全く歯が立たなくなることです。
とくに顔の加工は、ネット(SNS含む)上ではよく行われているため、自己愛の強い人は顔で見抜くという方法は活用しづらい。
目元を修正する、顔の輪郭を微妙に変えるなど、スマホのアプリやPCのフォトショなどの画像編集ソフトを使えば、簡単に自分の顔を一部どころか全て変えることが容易にできてしまう世の中だからこそ「自己愛の強い人は顔で見抜ける」という説は支持しづらいものがあります。
しかし、顔がわからないとしても、行動面はそう簡単に変えられるものではありません。何より行動面の特徴は顔よりも情報が多い。そして時間が経つにつれて、打ち解けてきたために行うようになった普段の傲慢な態度が垣間見えてくることによって、自己愛の強さに気づかされることもあります。
余談 自己愛の強い人と写真への写り方
余談になりますが「自己愛の強い人はこういう顔だ」という諸説が広まった原因として、自己愛の強い人ならではの、写真写りへのこだわりが影響しているのではないかと考えられます。
自己愛の強い人は、自分の特別意識であったり独特であることを周囲にアピールして注目を集めるためにも、写真を使って自分のことをアピールする方法は合理的と言えます。
とはいえ、ただ証明写真のような至って平凡なプロフィール写真では、自分の特別さや独特さは伝わりにくく、注目を浴びるイメージは描きにくい。
そのため、
- イキったり態度やキザな顔をプロフィール写真にする。
- 明らかに力が入っており、無理をしている感じがする強い笑顔の写真を載せたがる。
- 講演会で何か話しているなど、自分が権威・権力のある人間だとひと目でわかるようなシーンをプロフィール写真にする。
- 自分を中心とし、自分の周囲に人を従えるような写真を載せたがる。
- 自己愛の強い人が尊敬している人の真似をした写真をプロフィール写真にする。(例:スティーブジョブズのポーズや服装の真似をした写真を撮るなど)
- 自分が実物以上に魅力的な生活を送っている人間に見えるように、ロケーションにこだわった映える写真を取る。(例:旅行の時の写真とか、有名人とのツーショット写真とか、イベント時の写真とか…)
など、多くの人から注目を集められそうなもの。そして、自分への賞賛、尊敬、憧憬といったポジティブで自分の自己愛のを満たせそうな構図で写真を好んでアップしたがることが「自己愛の強い人の顔の特徴」という俗説を生み出したのではないかと感じます。
また、自己愛の強い人は注目を浴びたいがために、上記の写真を頻繁にアップする。そして写真通りの自分像を演出するための投稿にも余念がない。
あまり、SNSをやらない人やそこまでSNSに執着心がない人からすれば、気が付けばタイムラインには自己愛の強い人の独特な顔写真(アイコン)が並ぶという事態に。その光景から感じたいくつかの共通点が、ネット上で流布している「自己愛の強い人の顔の特徴」を生み出したのではないかと推測できます。
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