自己愛性パーソナリティ障害と聞くと、自己愛が強いことから面の皮が厚くてふてぶてしい態度をとる人、他人の事など気にせず自分勝手に振舞うわがままで、自己中心的で、ナルシストのような人をイメージすることが多いかと思います。
もちろん、このような傲慢で尊大な行動が目立つ人が、自己愛性パーソナリティの特徴を持っているとみなされることは多々あり、自己愛性パーソナリティ障害の特徴そのものとしては間違いではありません。
しかし、上記のような傲慢な態度を見せない人…たとえば、
- 非常に控えめで大人しい。
- 人目を気にしてしまうあまり過度な遠慮や謙遜をしてしまう。
- 人前で目立つような行動・場面を避けたがる。
などの特徴を持つ人もまた、場合によっては自己愛性パーソナリティの特徴を持っているとみなされることがあります。
こうした一見すると自己愛が強そうに見えないタイプは、自己愛性パーソナリティ障害の中でも過敏型と分類されます。今回は、この自己愛性パーソナリティ障害の過敏型について、お話いたします。
自己愛が強そうに見えないのが過敏型の大きな特徴
自己愛性パーソナリティ障害について論じた、精神科医のギャバードは、過敏型の診断基準を以下の6つ上げました。
1.他の人々の反応に過敏である
2.抑制的、内気、表に立とうとしない
3.自分よりも他の人々に注意を向ける
4.注目の的になることを避ける
5.侮辱や批判の証拠がないかどうか他の人々に耳を傾ける
6.容易に傷つけられたという感情をもつ。羞恥や屈辱を感じやすい(参考書籍:『自己愛的な人たち』より。
なお、この書籍では過敏型を「薄皮型」と表現している。面の皮が厚い事と対比して、面の皮が薄いタイプの自己愛的な人である…という意味合いあると思われる。)
過敏型は「自分が自分が」と過度な自己主張やナルシストっぷりを見せず、傍目には非常におとなしく、自己愛に囚われているようには見えないのが特徴的です。
参考に、米国精神医学会(DSM)が定めている自己愛性パーソナリティ障害の診断基準と照らし合わせてみても
1.自己の重要性に関する誇大な感覚 (例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないのにもかかわらず優れていると認められることを期待する)
2.限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
3.自分が特別であり、独特であり、ほかの特別なまたは地位の高い、人、集団、組織にしか理解されない、あるいは関係があるべきだと信じている。
4.過剰な賞賛を求める。
5.特権意識。つまり、特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由もなく期待する。
6.対人関係で相手を不当に利用する。自分の利益や目的のために他人を利用すること。
7.共感の欠如。他人の気持ちを理解しようとしない。
8.しばしば他人に嫉妬する。あるいは、他人が自分に嫉妬していると思い込む。
9.尊大で傲慢な行動や態度。(参考:『パーソナリティ障害がわかる本』より)
過敏型の特徴は、DSMの診断基準には全く当てはまらないことが、読み取れるでしょう。
なお、専門家の間でも過敏型を自己愛性パーソナリティ障害とみなしていのか、という議論がなされています。
また、後述する「回避性パーソナリティ障害」とみなした方がふさわしいという意見も上がっています。
過敏型が自己愛性パーソナリティ障害とみなされるわけ
なぜ自己愛の強さが全く見えない過敏型の人が、自己愛性パーソナリティ障害とみなされるかについては、自尊心(プライド)が傷つけられる事に対して非常に過敏な点です。
いわゆる、面の皮が厚いタイプの自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分が他人から特別扱いされることを求めたり、過度な賞賛や承認を求める一方で、自分の要求が通らない場面をひどく恐れます。
なぜ恐れるのかというと、恥をかいて自尊心が傷つく事への苦痛、自分は取るに足らない程度の低い人間であると他人に見透かされ、プライドが折れてしまう不安があるからこそ、ひどく嫌うのです。
この「自尊心(プライド)が傷つけられる事」に注目すると、過敏型も動揺の不安や恐怖を持っていることが伺えます。
特徴の
- 3.自分よりも他の人々に注意を向ける
- 4.注目の的になることを避ける
の二つは、ただ他人から見られる事を恐れるだけでなく、他人から低い評価をくだされ、プライドが傷つくことへの不安を持っている言える。
そして、
- 5.侮辱や批判の証拠がないかどうか他の人々に耳を傾ける
- 6.容易に傷つけられたという感情をもつ。羞恥や屈辱を感じやすい
の二つは、プライドが傷つけられることに敏感であるからこそ、他人からのネガティブな言葉や態度に強く反応したり、些細なことでも他人から拒絶されたと感じてしまうと言えます。
面の皮が厚いタイプも、過敏型も、その根底にある「自尊心(プライド)が傷つけられる事」が同じであるからこそ、過敏型は自己愛性パーソナリティ障害とみなされるのです。
過敏型は自己愛性人格障害以外の人格障害と間違われやすい
過敏型はその特徴故に、自己愛性パーソナリティ障害以外のパーソナリティ障害と間違えられてしまうことがあります。
回避性パーソナリティ障害との類似点
間違われることが多いのが「回避性パーソナリティ障害」とみなされる事です。
回避性パーソナリティ障害は、傷つく事や失敗を恐れるあまりに社会生活を営めなくなったり、人と関わる事そのものを避けようとするパーソナリティ障害です。
DSMにおける、回避性パーソナリティ障害の診断基準は…
1.批判、否認、または拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある職業的活動を避ける。
2.好かれていると確信できなければ、人と関係を持ちたいとは思わない。
3.恥をかかされる事、または馬鹿にされる事を恐れるために、親密な関係の中でも遠慮を示す。
4.社会的な状況では、批判されること、または拒絶されう事に心がとらわれている。
5.不全感のために、新しい対人関係状況で制止が起こる。
6.自分は社会的に不適切である、人間として長所がない、または他の人より劣っていると思っている。
7.恥ずかしい事になるかもしれないという理由で、個人的な危険をおかすこと、または何か新しい活動に取り掛かる事に、異常な頬度に引っ込み思案である。(参考:『パーソナリティ障害がわかる本』より)
の7つあり、内4つ以上当てはまると、回避性パーソナリティ障害と診断されます。
過敏型の特徴としてあげられる、侮辱や批判に過敏であること、他人からの評価が気になるあまりに、人と関わるのを避けようとする点は、回避性パーソナリティ障害に通ずる特徴があることは、きっと読み取れることでしょう
なお、人と関わることが苦手な、いわゆる「コミュ障」を自覚している人は、回避性パーソナリティ及び自己愛性パーソナリティ障害の過敏型の特徴によく当てはまる特徴があると感じます。
シゾイドパーソナリティ障害
また、過敏型はシゾイド(統合失調質)パーソナリティ障害の特徴にも似ているところがあります。(なお、シゾイドパーソナリティ障害はスキゾイドパーソナリティ障害と呼ぶこともある)
シゾイドパーソナリティ障害は、他人への関心が非常に薄く、孤独な生活にあまり苦しさを感じないという特徴がある。感情表現も乏しく、人間関係そのものを必要としていないように見えてしまうのが特徴的です。
ただし感情表現が乏しいのは、むしろ感情が非常に過敏であり些細な事で強く反応してしまう苦悩がある。その苦悩を避けるためにも、あえて人付き合いを避けて刺激の少ない生活を選んでいると言えます。(この点だけを見れば、HSPに通ずるものもある)
過敏型の場合、他人と関わる事を避けたがることから、自然と引きこもるようになると同時に、その生活に居心地の良さを感じてしまう。しかし、傍から見ればひきこもって社会と隔絶された生活を送っている様が、まるで隠遁生活をしている人のように見えてしまう。
過敏型の人が、過敏であることでストレスを感じないような生活を選ぶことが、シゾイドパーソナリティ障害の特徴と非常によく似ているために、自己愛性パーソナリティ障害ではなく、シゾイドパーソナリティ障害とみなされてしまうのです。
参考書籍