怒りや不満を表現するときに、大声で怒鳴る、物に当たるなど、直接的で分かりやすい行動ではなく、たとえば
- 無視をする
- 不機嫌な顔をする
- 黙りこんでしまう
…など、陰湿で間接的な行動により攻撃的な感情を表現することを、心理学では受動攻撃と呼びます。
また、こうした受動攻撃が性格(パーソナリティ)の一部となるだけでなく、その性格のせいで社会生活を送る上で支障をきたすようになってしまうと、受動攻撃性パーソナリティ障害と診断されることもあります。
今回は、受動攻撃性の性格の人の特徴と心理について、お話いたします。
受動攻撃とは
冒頭でも述べているように、怒りや不満など不快な感情を間接的で目立ちにくい行動で表現することを指します。
具体例を上げるとすれば
- 頼まれていた仕事をわざと遅らせる。締切ギリギリまで手をつけない。
- わざと遅刻をして周囲を困らせる。
- 他人が提案してきた意見にやたら異を唱える。文句をつけたりや批判をする。
- 仕事の手を抜く、あえて雑な仕事をする。
- ミスが残っている不完全な状態で「仕事を終わらせました」と嘘をつく。
- 他人の指示を聞こうとしない。聞くフリをしつつ相手を敵視する。
など、直接的な反抗や主張こそしないものの、その言動から不愉快であることを間接的に表現するというタチの悪さがあります。
それゆえに、学校や職場でこの手の行動をする人と関わるとなれば、精神的にひどく疲弊するであろうことは容易に想像できるでしょう。(なお、受動攻撃はいわゆる「サボる」の語源となった、労働争議の「サボタージュ」との共通点が多い)
受動攻撃は、ストレートな言い方をすれば「クズ」の一言につきますが、直接言ってきたりストレートに感情をぶつけてきたりしないために対応しづらい。
また、相手が見せる受動攻撃に対してこちらも陰湿な方法で対処しようものなら、その場の雰囲気をドロドロとした険悪なものにしてしまい、収拾がつかなくなるリスクもあります。陰湿に陰湿を重ね、まさに底なしの泥沼のような雰囲気にさせてしまわないともいい切れません
結果として、相手の受動攻撃を察知しつつも、相手に対して何らかの主張をしないまま、不愉快な気持ちが鎮まってくれるのを待つのを選んでしまうことが多いものです。
取っ組み合いの喧嘩や大声で口論するのと違い、受動攻撃は静かに陰湿な方法で相手をチクチク且つネチネチと攻撃する、実に小賢しい感情表現の方法でしょう。
そんな陰湿な方法に対して、力や大声で圧力をかけようものなら、各種ハラスメントの加害者とみなされてしまうリスクがある。下手に波風を立てて自分の立場を悪くしないためにも、陰湿な攻撃が終わるのを黙って待つのもは、合理的な選択と言えます。
受動攻撃性の性格の人が見せる行動の特徴・癖
受動攻撃な行動が自分の性格の一部となった人たちが見せる、行動の特徴や癖について説明していきます。
他人から指図されるのを嫌がる
学校や職場に限らず、家族、友達、恋人など他人から指図されるのを嫌がることが見られます。
「○○してはいけない」という厳しく叱られることから「△△したほうがいいよ」という好意的なアドバイスに至るまで、とにかく自分の行動について他人から口出しされるのを嫌がると同時に、その嫌悪感を受動攻撃で表現しようとします。
また、他人から指図を嫌がるために、集団生活においては他人と衝突することが多い。
自分の意見が優先されないことで抱いた不快感を、受動攻撃で表現するため、上司・部下・同僚あらゆる立場の人から「扱いづらい人」「関わると面倒な人」と見られてしまいやすいのが特徴的です。
権威・権力に対して反発する
権威・権力を持っている人・集団に対して、受動攻撃により強く反発することが見られます。
身近なところで言えば先生・上司・先輩といった社会生活の中で関わる大人や立場・肩書きがある人。そのほかにも、親や親戚、祖父母、政治家、有名人、著名人など、年齢が上であったり、名声や社会的地位を手にしている人に対して、反発を見せることがあります。
上でも触れた、仕事の手を抜く、遅刻する、意見を否定するなどの行動は、この場合は仕事を振ってくる上司や先輩に対する、あてつけとして行っているとも解釈できます。
ちなみに、権威や権力を感じさせない相手であったり、仕事以外の場面だと、不快感を感じても受動攻撃をしなくなることがあります。
自分の意見をはっきり言うことを嫌がる
受動攻撃性の性格の人は、自分の意見を言葉にしてはっきり言わず、その代わりに受動攻撃によって自分の意見や間接的に表現します。
どうしてここまで自分の意見を頑なに言わないのかというと、自分の意見を述べることに強い恐怖を感じている。あるいは言ってしまったことに対して、責任を持つことを怖がるこそ、間接的でぼかすかのような表現になってしまうのです。
なお、はっきりと言わないのは意見は不快感を示すものばかりでなく、肯定的な意見や楽しい・快などのポジティブな意見でも同様であることが目立ちます。
余談ですが、日本のように自己主張することを良しとせず、自分の感じていることをやんわりを伝えたり、明文化されていないその場の空気や雰囲気を敏感に察知できることを高く評価する文化・風習が、結果として受動攻撃を行うこと、及び受動攻撃性の性格の人を肯定的に評価することに繋がっているという考え方もできます。
受動攻撃性の性格の人の心理・考えていること
受動攻撃のように、陰湿で自分の評判を下げてしまう図が容易に想像出来てしまうことを、この性格を持つ人がやめないのは、思い込みが影響しています。
それは「他人の言うことを聞いたら負けである(=自分の意見こそが正しい)」という思い込みです。
この思い込みに囚われるあまりに、後悔するような状況に自分で自分を追い込む羽目になると分かっていても、他人に対して受動攻撃による反発をしてしまうのです。
もちろん、「『自分の意見こそ正しい』と思うのであれば、それを相手に伝えるなり、じっくり話し合えばいいのでは?」とお思いになるかもしれませんが、上でも触れたように自分の意見をはっきり主張することに対して恐怖心があるため話し合うことはしない。その代わりに、受動攻撃という間接的な表現に頼ってしまうのです。
(なお、サボタージュやストライキ、ボイコットが社会で認められているように、受動攻撃は相手を根負けさせて自分の意見を押し通しすためにも(相応のリスクはあるが)有効であるため、そのメリットを享受するために、あえて受動攻撃に出ているという考えもできます。)
受動攻撃は案外身近なものである
ただし、受動攻撃性の性格の人が見せる行動は、なにもこの性格の人が持つだけの独特の行動ではないという点は理解しておくことが大事だと感じます。
たとえば、気分が乗らない仕事を頼まれたら、
- 気分がのらない仕事を後回しにする。
- 割ける時間をなるべくカットする。
- 場合によっては仕事そのものを放棄してしまう
…と、つい自分を甘やかしてしまう、あるいは甘やかしたくなる衝動に駆られることは誰にもあることでしょう。
受動攻撃はされたら確かに腹が立つものでしょうが、不都合な場面になると誰もがやってしまいがちな、身近な行動なのです。
それゆえに、受動攻撃に出てしまったあとは、反省して受動攻撃をしなくてもいいように自分を律していく。他にも、不快だと感じる相手とのコミュニケーションを取るなどして、不快な感情の前向きな乗り越え方を身につけていくことが欠かせません。
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