「イネーブラー」 共依存関係を支える人の特徴について

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共依存の関係を語る上で欠かせないのが「イネーブラー(Enabler,”支え手”ともいう)」と言う概念です。

イネーブラーは、わかりやすく言えば共依存のような辛い関係を陰ながら支えてしまい、より状況を悪化させてしまう役割を持っている人です。

イネーブラーになる人は、責任感や優しさに溢れており、悩みや困りごとを抱えている人に寄り添い助けようとする姿勢を持っているため、一般的には高評価を得やすい傾向にあります。

しかし、イネーブラーの人が見せる善意は、結果として悩みを抱えている人が自分で悩みを解決することを放棄するように仕向けてしまう、危うさのある善意でもあります。まさに、ヨーロッパのことわざの「地獄への道は善意で舗装されている」を体現しているのが、イネーブラーと言ってもいでしょう。

今回はそんなイネーブラーの人の特徴や心理についてお話しいたします。

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イネーブラーのルーツ

イネーブラー及び共依存と言う言葉のルーツは、アルコール依存症の夫とその夫の世話をする妻の二者関係とされています。

夫はアルコール依存症に陥っているため、自分一人では自立した生活を送れず、妻のサポートなしでは生きていけない状況に依存している。

妻はアルコールのせいでダメになっている夫を支えることに、精神的な充足感や自分の役割意識、自分らしさ「アイデンティティー」を見出しています。それらを失う事を恐れて妻はアルコール依存症の根本的な治療を避けて、その場しのぎでしかない夫のサポートをすることに注力してしまうのです。

このように、依存症を含む困っている事の根本的な解決につながらないような形で他人を助けてしまい、困った状況を結果として支えている人のこと(上の例なら妻)がイネーブラーです。

イネーブラーが存在する限り、依存症などで困っている人はいつまでもその状態を抜け出せないままになる。そして、イネーブラー本人も自分が置かれている苦しい状況としっかり向き合うのを避けることで、お互いに共依存の関係を強めてしまうのです。(加えて、アルコール依存症の場合は健康を損なったり、社会復帰が難しくなるなどの問題に発展する事もあります。)

イネーブラーの特徴

他人に依存される関係を潜在的に強く求めている

イネーブラーになる人の特徴は、他人に依存される関係を強く求めているという点です。

  • 困っている人の助けになりたい
  • 人の役に立ちたい
  • 人から感謝されるような人になりたい
  • 他人に尽くしたい

など、どれも他人に何かを施す事を軸とした人間関係を強く求めています。

もちろん、こうした気持ちを持つのは誰でもあることですが、特にイネーブラーとなる人にはこの気持ちの強さが顕著です。

ここまで顕著になる原因として考えられるのが、イネーブラーになる人は自我が未熟であり普段から不安を感じやすい。そして、不安を解消する方法のひとつとして「他人から必要とされている自分」になることで、自分らしさ(アイデンティティ)を確立しようとします。

「人の役に立ちたい」という願望を持った人は、社会的・道徳的に見ても求められている理想的な人間像であり、自分らしさがわからない人が手っ取り早く手にしようとするアイデンティティーとしては、まさにちょうどいいお手本です。

加えて「あなたは人のために頑張ろうとするなんてとても立派だね」と、自分らしさを素直に認められるポジティブな言葉を獲得しやすいのも魅力的です。

他人を甘やかしすぎて自立心を奪ってしまう

イネーブラーの人は、優しさと責任感の強さを兼ね備えているために、アルコール依存症やギャンブル依存症など、いわゆる関わるとめんどくさい人であっても、懸命に尽くして面倒を見ようとします。

しかし、優しさが強すぎるあまりに、つい相手を甘やかしすぎてしまって、相手に自分がやっていることの重大性を認識させる機会を奪ってしまい、根本的な問題解決から遠ざけてしまうのが特徴的です。

例えば、アルコール依存症の場合、依存症患者が起こした不始末(酔って他人と喧嘩をした、飲み過ぎで生活が自堕落になった…など)を全てイネーブラーが引き受けてばかりでは、依存症患者自身が「飲み過ぎてもその後始末はイネーブラーが代わりにやってくれるから、何も気にせず安心して酒が飲める」と考えてしまい、今の生活を改めようとする意欲を持てない状態になります。

むしろ、イネーブラーがいることに安心し、ますます酒浸りの生活に拍車をかけた結果、気がつけばまともな社会生活を送れなくなるほどに堕落して、自立心が完全になくなってしまう結末にもなりかねません。

しかし、そんな悲惨な状況になることは、ある意味イネーブラーの人からすれば(不謹慎かもしれませんが)本望ともいえます。

自分のことを必要としてくれるダメ人間がいつも身近にいる状況であり、そのダメ人間がますますダメになればなるほど、イネーブラーたる自分の存在価値が揺るがないものになる事を薄々理解しているからこそ、過度な優しさで相手をダメにする関係を潜在的に求めているとも考えられます。

共依存の関係を壊さないような行動をとってしまう

イネーブラーの人は、人が嫌がるような他人の不始末を引き受ける状況に対して、必ずしも「自分は全然大丈夫ですよ」と快く思っているわけではありません。

内心は「こんな関係をいつまでも続けていてはダメだよねと」と不安を感じていたり、「このままでは自分も相手もダメになってしまう」と焦躁感を抱いているもの、それらと比較すれば今の関係が崩れてアイデンティティを失う不安の方が大きいので、結果として共依存の関係を壊さないような行動をとってしまうのです。

アルコール依存症の人に依存されていても、病院に行って根本的な治療を始めることを選ぶのではなく、所詮は一般人の自分一人でなんとか支える事を選んでしまうのも、「共依存の関係を壊さない様にしたいという」心理が、無意識のうちに行動となって表れているとも考えられます。

またアルコール依存症の他にも、暴力、暴言、浪費癖などで自分を傷つけてくる恋人と別れたいと愚痴るだけ愚痴って、結局相手と別れようとせず辛い関係を維持されてしまうのも、問題を抱えている恋人を支えることアイデンティティーを見出している。そして、相手と分かれてアイデンティティーが崩壊する不安の方が大きいからこそ、愚痴りはするものの別れることには踏み切れていないのだと考えられます。

イネーブラー自身も依存してくる人に依存している

イネーブラーの人は、他人の世話をするのを途中でやめてしまうことに対して強く抵抗することがあります。

例えば、本来なら働いている年齢なのに家に引きこもってニート生活を送っている子供と、その子供面倒を全て見ている母親という共依存関係において、母親側に子供を自立させるように助言をしてもなんとなくためらったり「この子は自分がいないとダメだから…」と現状を肯定する言動をとることがあります。

こうした態度はイネーブラーである自分らしさを失う恐怖が根底にあると考える事ができますが、見方を変えれば世話をしている相手に自分も依存している…つまり、イネーブラー自身が依存される存在であると同時に、他人に依存している存在だといえます。

イネーブラーを生む背景にあるもの

こうした共依存関係を影で支えるイネーブラーが生まれる原因背景の1つとして考えられるのが、自己犠牲を尊ぶ価値観です。

イネーブラーの生き様は

  • 「自分さえ我慢すればいい」
  • 「自分はどうなってもいいけどこの人だけはどうにかして支えたい」

と言う、自己犠牲をいとわない優しさや責任感に溢れているものといえます。

もちろん、優しさや責任感を尊ぶことは間違いではありません。しかし、それらは度が過ぎると、優しさを行使する人が取り返しのつかない犠牲を背負うことを肯定してしまうと同時に、優しさを施される人がつけあがって自分で自分を追い込む状況になる事を肯定してしまう危うさがあります。

日本だと「滅私奉公」のように自分を犠牲にしてでも他人や組織に奉仕する姿勢そのものが良いものとされていますが、そのことが結果としてイネーブラーを生む土壌になっているのではないかと考えられます。

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