夫婦や恋人の間で行われる暴力や嫌がらせをDV(ドメスティックバイオレンス)といいます。
DVをしてくるような相手からは男性であれ、女性であれ別れるなり距離を置くなりして自分の心や体を守ることが大事ですが、なかなか別れる事ができずに、ズルズルと関係を続けてしまうことがあります。
もちろん、DVの被害者になる人が精神的に未熟な面があり誰かに依存しやすい、恋に溺れて現実を見失ってしまう癖があるということも、別れられない原因として考えることもできます。
しかし、DVの加害者の行動をよく見ていくと、加害者とは言ってもいつも暴力や暴言を振るっているわけではないのです。
それどころか、どこか優しい一面を見せたり、被害者である自分を守るような言動も見せるので、無慈悲で完全な悪人、クズとは言い難く、別れるに別れられない愛嬌や人間味のある人が多いのです。
いつも嫌がらせや攻撃的な態度をしてくる人なら諦めもつきやすいのですが、人前で見せる優しさや、二人きりの時に見せる思いやりのある態度も知っているために、別れることに罪悪感を覚えたり、「乱暴な面もあるけど本当は優しい人」と考えてしまうのです。
今回はDV加害者の行動や行動のサイクルについてお話いたします。
DV加害者の行動のサイクル
DVは暴力や暴言、人間関係の監視・制限をする、所持品を壊すなどのあらゆる理不尽な嫌がらせを相手から受けますが、いつも嫌がらせばかりをしているわけではありません。
DVの加害者の行動には大きく分けると
- 「緊張機(蓄積期)」
- 「爆発期」
- 「開放期(ハネムーン期)」
の3種類あります。
加害者は「緊張機(蓄積期)→爆発期→開放期(ハネムーン期)→緊張機(蓄積期)…」の順番に繰り返し、DVをエスカレートさせてしまうケースがあります。
このサイクルは全てのDVの事例に当てはまるわけではありませんので、加害者の行動の種類や変化を知る意味で参考にするのがいいでしょう
緊張期(蓄積期)
DV加害者がストレスや不満などを溜め込み、暴力や暴言をするためのエネルギーを溜め込んでいる期間のことです。
イライラを募らせることで次第に感情のコントロールが出来なくなり、些細なことでカッとなってしまったり、怒りを爆発させてしまいます。
ストレスは恋愛に関わるものから、恋愛以外の事(学校生活や仕事、趣味など)に至るまで様々です。
緊張期は、表立って怒ったり感情的になることはありませんが、どこか張り詰めた空気が広がっていたり、重苦しく気軽に話すことができない、ピリピリとして気持ちが落ち着かないキレる一歩手前の険悪なムードが漂うことがあります。
DVの被害者にとっては、「いつどんな理由で相手が怒るかわからない」という漠然とした不安に苦しめられます。
爆発期
積もり積もったストレスが限界を迎えて爆発してしまう時期を指します。
暴力、物にあたる、相手の所持品を破壊するor捨てる、などの物理的な攻撃から、暴言、侮辱、脅迫、無視などの精神的な攻撃に出たり、あるいはそのどちらも使って被害者を攻撃してきます。
また、最初は比較的軽く口でいじるだけのつもりや、じゃれあい、スキンシップのつもりだったのに、だんだん行動がエスカレートして暴力や暴言になってしまい、自分の行動をコントロール出来なくなることもあります。
激しい暴力を振るわれる時期であるため、一般的なDVのイメージに当てはまる行動がよくわかる時期とも言えます。
被害者にとっては最も恐れていた事態になってしまったために、強い恐怖や不安を感じたり、相手を怒らせるようなことをしてしまった自分を責めてしまう時期とも言えます。
もちろん、暴力のように身体的な痛みを感じるだけでなく、怪我や後遺症が残るケースもあります
開放期(ハネムーン期)
爆発期を経て加害者が我に返ることで、攻撃をやめて暴力や暴言を振るったことに対して後悔する時期です。
ストレスを相手にぶつけて解消したことで精神的な落ち着きを取り戻したことで、自分がやってしまった過ちを深く反省したり、過剰なまでに謝る、優しさを見せることがあります。
場合によっては、仲直りと言って高価なプレゼントを渡すなどの自分の罪を償う行動をして、自分の過ちを向き合うこともあります。
この開放期は被害者がDV加害者のことを
- 「暴力を振るうこともあるけど、根は優しくてちゃんと謝れるいい人」
- 「相手は未熟な一面があるからこそ、私の存在が必要に違いない」
- 「この人は私がいないとダメになってしまう」
と強く思い込んでしまう時期でもあります。
「人として誤った行動をしたあとにちゃんと反省する」というごくごく当たり前の行動を短期間で目の前で繰り広げられたことで、相手への印象が変わってしまうのです。
ハネムーン期という名前にもあるように、辛いことがあった後に急激な幸福が訪れることによる、被害者自信も舞い上がりやすく、冷静な判断が出来なくなってしまう時期とも言えます。
暴力・暴言ばかりでなく優しいときもあるから別れるのが難しくなる
DV加害者とはいえ、24時間365日暴力や暴言をしているわけではありません。
日によっては比較的穏やか軽い暴言だけで済む時もあれば、まったく逆に過剰なまでに優しく献身的に尽くしてくれることもあります。
DVというとどうしても「いつも相手を攻撃をしている」と思われがちですが、現実は「攻撃する時ことは多いけど、攻撃したあとは反省したり、むしろ前より優しくなる時もある」というケースが多いのです。
たまに優しいから惚れるのはギャンブル依存性と同じ原理が働く
DV加害者の優しさは、ギャンブル依存性でも使われる心理学用語の「部分強化」と同じです。
心理学では、
- 全強化:何かをした際、毎回必ず報酬がある事。恋愛ならどんな時でも優しくしてくれる相手がこれにあたる。
- 部分強化:何かをした際、時々しか報酬がない事。恋愛ならたまに優しくしてくれる相手がこれにあたる。
という考え方があり、ギャンブルはたまに勝つことがあるからこそ熱中しやすいのと同様に、DV加害者もたまには優しい一面を見せるからこそ、被害者は優しさに対して刺激や熱中感、高揚感を得やすいのです。
また、悪い事をしている人でも時折優しい一面を見せることで、相手への印象が変わることはフィクションの世界でもよく見られる表現でもあります。
例えば…
- 不良学生が時折動物や子供に対して優しく接することで好感度が上がる
- 借りた金を期限までに返さない癖がある人が、珍しく期限内に返済した時にキャラの印象が変わる。
- いつもツンツンして周囲にキツくあたっている美少女キャラが、一瞬だけ思いやりのあるシーンが出たことで印象が変わる(いわゆるツンデレキャラ)
のように、いつもの印象とは違った一面を見て、好感を持ってしまうのは現実の世界でもフィクションの世界でも同じなのです。
いわゆる「ギャップ萌え」にも通ずるもので、普段は暴力的、乱暴な言動が目立つ人でも、たまに見せる優しさに対して、心惹かれてしまうのです。
いつもキツくて辛いけど、たまに優しくしてくれてデレてくれる…まさに、スマホゲームのガチャにハマる人のように、時々見せてくれる優しさに対してハマる根底は、ギャンブルのようなスリルや期待が影響しているとも考えることができるのです。
しかし、DVの場合は現実世界での出来事でありフィクションのように架空の出来事の話として受け流すことは当然ですができません。
また、DVは暴力や暴言などの直接的な被害を受けたり、相手に精神的に依存してお金や自分の時間を大量に費やしてしまうことになるので、注意しなければいけません。
暴力と優しさが短い期間で繰り返されて精神的な支配や依存を生むことも
DVは短期間のうちに「暴力」と「優しさ」という相反するコミュニケーションを相手に行いいます。
ストレスが爆発して急に怒り出したかと思えば、その後ひどく反省して急に優しくなる、というコミュニケーションをされると、被害者は相手の行動がただの暴力なのか、それとも愛情の裏返しなのかを判断するのが難しく、強い不安を抱えたまま暮らすことなります。
- 相手は本当に自分のことを大切にしているのか気になって仕方がない
- 普通に話しているだけでも相手の表情にビクビクしてしまう
- ひょっとして暴力的な行動は、不器用な愛情表現に過ぎないのでは?
と、相手の顔色を伺ってしまったり、自分の考え方に自信がもてなくなることで、DVの加害者に精神的に支配されたり、自分から加害者に対して精神的に依存してしまうことがあります。
DVの被害者に「早く別れるべき」「縁を切るべき」という最もなアドバイスをしてもなかなか実行に移せないのは、相手による支配や精神的な依存があるのが原因となっていることが多いのです。
またDVを続けていくうちに、DVの加害者は無意識のうちに「アメ(優しさ)とムチ(暴力)」を用いて、相手を自分のストレスのはけ口にしたり、自分の思い通りになるように行動をコントロールするコツを身につけてしまうことがあります。
自分の思い通りに動く相手を道具のように利用し、日頃のストレスを解消することが習慣になると、加害者自身も被害者対して精神的に依存してしまい、共依存関係に陥っていしまうことがあります。