結婚している相手ではなく、恋人同士で行われるドメスティックバイオレンス(DV)のことを「デートDV」といいます。
DVと聞くと、どうしても結婚している夫婦間で行われるものだという認識をしている人がおり、恋人のように結婚してない相手から振るわれる暴力や嫌がらせはDVではない、と自分が被害者であることを認識できないことから、デートDVという言葉が作られ、若者向けに使われるようになっています。
とくに、デートDVは高校生や大学生などの学生向けにも小冊子などで啓発運動が積極的に行われています。
学生のように恋愛経験や社会経験が乏しいことから、恋人に対して理不尽な要求をしてデートDVの加害者になってしまうことを防ぐことが大事です。
そのほかにも、自分がデートDVの被害に遭っていることを自覚する、そしてそのことを誰かに相談して、自分の身を守るための行動を学ぶことも大事です。
今回は、若い人向けにデートDVとデートDVが生まれた背景についてお話いたします。
デートDVとは
デートDVとはDVの一種で、主に交際相手や恋人からの暴力や嫌がらせを指す言葉です。
DVのイメージが大人や結婚した夫婦間で行われる、というイメージが強いことから、未成年を含む若者や恋人同士の状態で行われる嫌がらせを指す言葉です。
デートDVは一般的なDV同様に「加害者が男性、被害者が女性」というパターンに限らず性別が逆でも当てはまります。
また、中学や高校の保健室、大学の保険管理センターなどではデートDVに関する小冊子が置かれたり、講演会やセミナーが学校で行われているケースも多く見られます。
学生や若者同士の恋愛の場合、大人や社会人と比較して様々な経験が浅いことから
- 相手に対して乱暴な態度をとってしまう。
- 相手の事を知りたいがために、監視したり行動を制限してしまう。
- 怒りのコントロールが出来なくなり、相手に八つ当たりをしてしまう。
などの、いわゆる「若気のいたり」とも見て取れる行動をし、相手を傷つけてしまうことが多くあります。
また、被害を受けている方も、「恋愛ならこういうことが起きるのが普通なんだ」と自分が被害を受けていることを自覚できなかったり、被害を受けていてもどこに相談したらいいのかわからず、デートDVをエスカレートさせてしまうことがあります。
また大人の場合なら、例えばセクハラやモラハラ、暴行事件があったとして警察や弁護士に比較的簡単に相談できますが、学生の場合だとなかなか相談しにくいものです。
- 相談したいけど、これは警察にいうほどのことではない
- 相談すれば大事になって学校で噂されるかもしれない
- 相談したら親や先生に付き合っていることがバレてしまうから言えない
という状況も重なって、デートDVを相談することが難しくなってしまうのです。
DVの分類から見るデートDV
DVは大きく分けて
- 身体的暴力 (殴る、蹴る、叩くなどの暴力を行うなど)
- 精神的暴力 (侮辱する、脅す、無視をする、)
- 経済的暴力 (奢るようにプレッシャーをかける、パートナーのお金を浪費するなど)
- 社会的暴力 (人間関係の監視・制限、交友関係の制限、バイトを認めないなど)
- 性的暴力 (性的嫌がらせ、避妊の拒否、堕胎など)
の5つに分類することができます。
デートDVが普通のDVの一種であるので、デートDVかどうかを調べるためには、上の5つの分類をもとにチェックしてみるのがいいでしょう。
なお、精神的暴力、経済的暴力、社会的暴力の3つは、ほかの2つの暴力と違い、怪我や傷などの体を傷つけるものではないために、周囲だけでなく被害者も加害者もデートDVをしていると気づきにくいという特徴があります。
よく「恋人ならデートで奢るのは常識」と言って、相手の気持ちを無視して自分の意見ばかりを尊重するような付き合い方は、デートDVに当てはまってしまう可能性があります。
もちろん、表面的には奢ることを受け入れているように感じて、「相手が断っていないからOKだ」と言い張るケースもありますが、実は
- 断ってしまうと相手に嫌われてしまうリスクがある
- 別れたくないから奢るのを我慢して受け入れている
と考えているために、断りたくても断ることができないということもあります。
表面的には同意しているからデートDVではないと考えることもできてしまいますが、被害者にとっては恋愛関係を解消されたくないから、渋々従っているということもあります。
このような恋人関係でも対等ではなく「主従」「上下」のような関係があると、デートDVの加害者と被害者を生み出す原因になります。
交際相手からの嫌がらせは身近に起きている
交際相手からの身体的・精神的な暴力は若者同士の間でも身近に起きています。
10代~20代の頃の交際相手(後の配偶者以外)からの被害について調べた統計によれば、「身体に対する暴行」「精神的な嫌がらせや恐怖を感じるような強迫」「性的関係の強要」をされた経験があったと回答したのは女性で19.1%、男性で10.6%となっています。(※1)
女性の5人に1人、男性の10人に1人が、交際相手(もと交際相手も含む)から、何かしらの暴力を受けていたことがわかっています。
DVは女性が男性から殴る蹴るなどの身体的な被害を受けるもの、というイメージがありますが、言葉や態度などの精神的・社会的な暴力も含めると男性の被害者も少なくありません。
また、傷や怪我のように跡に残りにくい嫌がらせであったり、「いじられキャラ」のように攻撃を受けることがコミュニケーションでプラスに働いてしまうことから、目の前で嫌がらせが起きていても、それが嫌がらせだと認識できず問題視されないケースもデートDVではよく起こります。
- ちょっと独占欲が強い。
- 心配性で束縛してくる癖がある。
- ヤンデレのように重い愛情で縛り付けてくる。
というような愛の形を示してくる交際相手は、愛情ではなく精神的な依存や支配の始まりに過ぎないのです。
交際相手からの嫌がらせは誰に相談したらいいのか
デートDVに関して、同じく10代~20代を対象に、「交際相手(もと交際相手含む)からの被害を誰か(どこか)に相談したか」という統計によれば
- 友人・知人:女性53.8%、男性38.0%
- 家族・親戚:女性21.4%、男性8.0%
- 警察:女性4.0%、男性2.0%
- 配偶者暴力相談支援センターなど:女性0.6%、男性は無し
- 学校関係者:女性は無し、男性1.0%
となっています。(数字は複数回答)
相談先の大半は友人・知人、家族・親戚に偏っており、警察や学校、支援センターなどに相談した人はごく少数となっています。
学生で公的機関への相談の仕方がわからない、そもそも相談できるとは思っていないことが影響してか、相談するにしてもなるべく親しい人に留まっていることが統計から伺えます。
ほとんどのケースでは女性の方が男性よりも相談しており、男性は交際相手(女性)からの暴力や嫌がらせを相談しにくい状況である、また相談することそのものに抵抗を感じているのではないかと考えることができます。
「彼女から嫌がらせを受けている」と打ち合けても、惚気や嫌味だと思われたり、相談することで女性にからかわれるような軟弱な男であるということを友達や家族にアピールしてしまうことになるでので、被害を受けても相談する相手がいないのだと見ることもできます。
また、同統計では「誰にも(どこにも)相談しなかった」と回答した人は、女性で39.3%、男性で55.0%となっています。(※2)
女性よりも男性の方が誰にも相談しないと答えた人が多く、被害を受けても相談できなかった、あるいは被害を被害だと自覚できず自分を苦しめてしまったのではないかとみることができます。
デートDVについて詳しく相談できる人・場所
友達や家族に相談すれば確かに安心感は得られるかもしれませんが、専門的な知識を持っていないために、「それぐらい我慢するのが恋人だろ」と的外れなアドバイスで逆に自分を苦しめるケースもあります。
デートDVという言葉の認知度はまだまだ低いので、相談することはできても、相談した相手がデートDVだと気づけず、悩みが解決されないというリスクも否定できません。
そうならないためにも、デートDVについて真剣に考えているのであれば、
- 保険教諭
- 学校の学生相談室、スクールカウンセラー
- 警察
- 弁護士
- 自治体の男女共同参画センターなど
などの、専門の知識を持った人(団体)に相談することも視野に入れることが大事です。
専門機関に相談する場合は話した内容の秘密は固く守られるので、安心して相談することができるという特徴もあります。
友達や親のように普段から顔を合わせる人に対して、デートDVという重い話をすることを躊躇してしまう人は、一人で抱え込まず専門機関に相談するのがいいでしょう。
電話でデートDVを相談する場合
デートDVは
- DV相談ナビ : 0570-0-55210 (ここにでんわ)
- 女性の人権ホットライン : 0570-070-810 (ゼロナナゼロのハートライン)
- 法テラス・サポートダイヤル : 0570-078374 (おなやみなし)
- 警察相談専用電話 : #9110 (シャープ9110)
などの電話を使っての相談も可能です。誰かと会って話すのが怖い場合は電話を使う方法も視野に入れておきましょう。
関連記事
(※1) データは内閣府の「男女間における暴力に関する調査」より。2015年3月。女性904人、男性943人から回答。
(※1)データは同上。被害経験を有する女性173人、男性100人から回答。