他の子は怖がったり怯えたりしていないのに、ささいなことですぐにビクビクと不安そうな表情浮かべる。すぐに泣き付いてきて甘えてくる子供の行動は、保育や教育分野に関わる人や子育て中の親からすれば悩みの種かもしれません。
- 男の子なのにすぐに泣き出してしまい、この先学校や社会でやっていけるか不安。
- 怖がりな性格のせいで、楽しめるものすら楽しめなくなち友達ができずに孤立してしまうように思えて心配。
- すぐに泣くことを他の子が面白がって、いじめのターゲットにされそうな気がしてならない。
こうした不安の数々をきっと抱えていることだと思います。
このような怖がりな性格に対して、多くの人は「怖がりなのはその人の性格によるもの」だと結論を下しがちですが、見方を変えれば「怖いと感じる刺激に対して非常に繊細で過敏に反応してしまうことが影響して、過度に怯える、すぐに泣くという行動に出てしまう」のだとも説明できます。
こうした感覚に対する過敏性は、最近大人を中心として認知度が上がっているHSPと呼ばれる先天的な気質が影響していると考えられています。
今回はHSPから見た怖がりな性格の子供についてお話しします
目次
「HSC」…敏感な気質を持つ子供
HSCとは、音、匂い、味、皮膚への刺激、他人の感情、その場の空気や雰囲気…など、あらゆる刺激に対して敏感で繊細な気質であるHSPの子供を指す言葉です。
なお、HSCは「Highly Sensitive Child(ハイリーセンシティブチャイルド)」を省略した言葉です。
HSCの概念は、2002年にHSPの第一人者であるエレイン・N・アーロンが自身の本として出版。2015年ごろに『ひといちばい敏感な子』と日本語訳されアメリカから日本に輸入され、徐々に日本でもその概念が知られつつあります。
しかし、子どもの発達に関わるADHD(注意欠陥多動性障害)、自閉症スペクトラム、LD(学習障害)などの発達障害と比較すると、まだまだ知名度は高くないのが実情。
また、HSCの特徴、行動は発達障害の子供にも見られるものが多いために、誤診断が起きていると言う意見もあります。
子供のHSP(=HSC)は大人のHSPと比較すると、どうしても自分の感じている繊細さや敏感さからくる不快感を言葉で周囲の大人に伝えることが難しく、周囲からの理解されなかったり、「変な子」「神経質な子」として軽く扱われてしまうことがあります。
また、仮に言葉にできたとしても「やだ」「嫌い」のように、なにがどう嫌なのかの説明が乏しくなり、子供特有のわがままとして受け取られたり、だだをこねているとだけと思われしまうこともあります。
そして、子供自身も何度周囲に訴えても無駄だと言う事実を学習してしまい(=学習性無力感)自分の苦しみは理解されないと諦めていることもあります。
繊細な気質で過度に怖がる心理・原因を分析
ここでは、繊細な気質の子供(HSC)に見られる行動や心理について詳しく説明していきます。
愉快なTV番組やCM、動画コンテンツを怖がる
HSCには、他の多くの子供から見て楽しく愉快なはずのテレビ番組やCM(現代だったらYouTubeの動画を含む)に対して、恐怖や不安の表情を見せることがあります。
そんな様子を見て、「他の子は問題なく楽しんでいるのに、どうしてこの子だけ怖がっているのだろう…」と疑問を持つことでしょう。
これは、怖がる子がひねくれているとわけではなく、番組内の大声や効果音などの音(=耳に訴えかける刺激)、インパクトのある映像(=目に訴えかける刺激)に対して敏感すぎるあまりに過剰な刺激として受け取り、不安や恐怖に繋がっていることが考えられます。
他の子にとってはワイワイと騒いでいるように見えるシーンであっても、HSCの子には非常にうるさかったり、何を言っているのかがよくわからない不気味さがあるものに見えてしまう。
コミカルなシーンとして笑い飛ばす子が多い中で、そのコミカルさの中に含まれている暴力性や羞恥心を刺激する表現(お笑いにおけるキレ芸。ドッキリ番組における冷ややかな笑い声や冷たい視線)に対して強く反応し、怖がっているのです。
遊園地のアトラクションを怖がる
ジェットコースターやフリーフォールのような絶叫系のアトラクションに限らず、メリーゴーランドや観覧車、コーヒカップのような落ち着いて楽しめるアトラクションに対しても強い恐怖感を抱いてしまい、全然遊園地を楽しめないということがあります。
絶叫系のアトラクションは、高速で移動したり、落下する怖さが売りなので、子供が怖がるのは簡単に理解できるでしょう。
しかし、メリーゴーランドや観覧車のようなゆったりとしたアトラクションでも、敏感であるがゆえにまるで自分の体が宙に投げられているこのような不安定感に対して怯えたり、自分の足が届かない場所や、自分ではどうにでもできない不安定な空間に放置されてしまう感覚に強い不安を覚えて、怖がるのです。
また、遊園地のアトラクションに限らず公園の遊具や自転車などの乗り物に乗る事に対しても同様に怖がることがあります。
自分と同じ子供の大声、甲高い声などの刺激の強い音が苦手
幼稚園や学校に通っている時に嫌と言うことを聞く、同年代の子供の大声や甲高い声に対して不快感や恐怖感を抱いていることがあります。
子供の声は時に騒音として社会問題として語られることもあり、HSCのように音という耳から伝わる刺激に対して敏感である子にとっては、幼稚園や学校という自分が過ごしている空間そのものが強いストレス源に感じていることもあります。
また子供の泣き声や先生の怒鳴り声についても過剰に反応するだけでなく、悲しみ、怒り、不安といった声から想像できる他人の感情にも強く反応し、自分が怒られているわけではないのにまるで自分が怒られているかのような恐怖を味わうこともあります。
高所、閉所など特定の条件を過度に恐れる
子供をあやすための「たかいたか~い」が苦手、窮屈感を覚えるベビーカーや柵がついている子供用のベッドが苦手といった、高所や閉所などの特定の条件に置かれることを過度に恐れることがあります。
HSCの子によって感じ方や怖がる度合いの幅はありますが、共通しているのは同年代の子の多くが怖がらずにいられる状況の中で、HSCの子のみが異様に怖がっていると言う店です。
また、ある程度成長した子供によっては、怖いのを無理矢理我慢し、周囲子供たちから浮かないようにすることで、人知れず疲れを感じていたり、自分の感じている恐怖を誰も理解されないことで苦しんでいることもあります。
対策は「弱虫な子」と否定するのではなく、悩みや辛さに理解を示す
刺激に敏感な声ですぐにおびえてしまう子については、「そんなに泣き虫ではやっていけないよ」と否定して突き放すのではなく、その子が抱いている悩みや辛さに対して理解を示していくことが大事です。
上でも述べたように、子供の場合は自分が感じている恐怖や不快感をうまく言葉にして大人に説明することが難しいため、つい怖がっていると言う表面的な行動に反応してしまい、どうして怖がっているのかという感情の裏にある背景にまで考えが及びにくいものです。
もちろん「怖かったんだね」「大丈夫だった?」と寄り添って辛さを受け止めることも大事ですが、同時にHSC及びHSPについての知識を学び、その子のことを積極的に理解していく姿勢を持つことも大事です。
刺激に対する敏感さは、あらゆる刺激に鈍感であまり物事を深く考えない大人からすれば理解がしにくいだけでなく想像もつかない全く異次元の出来事のように思えてしまうでしょう。
そのため、HSC及びHSPについての知識がなければ、どうしてもその子のことを理解したり寄り添うことが難しくなるという問題を抱えているのです。
男の子の場合も怖さや生きづらさへの理解を示すことを大切に
HSCの男の子は、いわゆる男の子らしさが感じられない子供と思われがちです。
- ささいなことですぐ泣き出す。
- 小さなことをいつまでも気にしてクヨクヨ悩んでいる。
- 気分の切り替えが苦手でウジウジとしている。
- 男の子特有の大胆さや活発さが見られない。
といった一般的な男の子らしさが、敏感で繊細な気質のせいで見られず、本人が生きづらさを覚えていたり、友達や周囲の大人から浮いてしまい孤独を感じていることがあります。
こうした子供に対しても「男の子らしくないよ」と言って突き放すのではなく、その子の気質について理解を示していくことが重要です。
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