すぐ泣く、すぐ驚くなど感情の振れ幅が激しい。好き嫌いや苦手なものが多いけど、なぜ苦手なのかがよく理解できなくて「この子は繊細すぎて面倒な子」と思ったことはないでしょうか。
こうした繊細さは、単純に子供自身の甘えや癖、育った環境が影響しているばかりではなかく、「HSP(ハイリーセンシティブパーソン)」というもともとの生まれつき気質が原因と考えることもできます。
HSPはアメリカの心理学者エレイン・N・アーロンが考案した概念であり、生まれつきの敏感な感覚や共感力の高さを持った人を指す言葉。そして、子供におけるHSPはHSC(ハイリーセンシティブチャイルド)と呼ばれております。
今回は、そんなHSPの気質の子供(HSC)についてお話いたします。
HSPの子供は約5人に1人
HSPはの割合は、およそ5人に1人とされています。そもそもが先天的な気質であるため、この数字は大人や子供でも変わらないものと考えられます。
しかし、自分が実際にHSP特有の繊細や敏感さに苦しんでいる事を、自分自身が自覚したり、言葉や行動で他人に知らせる事が出来るかどうかでは、子供と大人では問題が異なってきます。
大人の場合なら、子供と比較してボキャブラリーがあるので、自分が何に辛さを感じているのか、どういった事が苦手で敏感に反応してしまうのか、という説明を具体的に行う事ができ、他者に対して自分の辛さを的確に訴える事が容易です。
しかし、子供の場合は大人と比較してボキャブラリーが乏しいだけでなく、自分が感じていることを上手く言葉(=この場合は文章と言ってもいい)にして伝えるだけの能力が乏しさが目立ちます。
そのため、「ヤダ!」「嫌い!」といったと単語単位での不快感を示すだけに留まったり、物に当たる、親の言うことを聞かないなどわがままや(第1時)反抗期の一種と見られる行動に出てしまい、HSCとしての辛さが十分に伝わりにくい背景があります。
また、「9歳の壁」という言葉にもあるように、自分自身を客観的に見て「なにがどう辛いのか」を語れるようになるには、ある程度年齢を重ねることが深く関わります。
未就学児の場合は、成長過程において、まだ自分自身を客観視できない年齢である事が、辛さや繊細さが言い出せなくなる一因ともいえます。
子供のHSPの特徴
ささいなことでびっくりしがち、動揺しやすい
どこもびっくりする要素がないTV番組やCM(最近ならyoutubeなどのネット上の動画も含まれる)、些細な物音や話し声に対してすぐにびっくりしてしまう。そして、一度びっくりしてしまうと、気持ちが動揺しすぎて、なかなか落ち着かない事が特徴として挙げられます。
HSPは五感で感じる刺激の他にも、人間関係の雰囲気や空気感といった感覚やフィーリングによる刺激に敏感に反応してしまう。他人が抱いている気持ちや感情を察知するだけでなく、自分も他人の感情に飲み込まれて影響されてしまう事があります。
着るもの、身につけるものにこだわりが強い
肌触り(触覚)にも敏感さが表れており、着る物や身に付けるものに対して、快か不快かをはっきり示す事があります。
- ラベル付きのシャツやズボンを着たがらない。
- 締めつけが強めの衣服を身につけたがらない、ボタンやファスナーを外したがる。
- 毛糸製や縫い目の粗い衣服など、チクチクするものが肌に触れるのを嫌がる。
など、繊細であるがゆえに、着る物に対して細かいこだわりを見せるものの、どうしてその服にこだわっているのかについては、先に述べたように上手く説明ができないために「この子はこだわりの強い難しい子」と見なされてしまうことがあります。
同年代の子とは異なる着眼点やユーモアさを持っている
同年代の子が、やんちゃで子供らしい言動に出ている中で、HSPの子は繊細さゆえに同年代の子には見られない独自の視点や着眼点を感じさせる言動を取ることがあります。
わかりやすく言えば、子供らしい無邪気さが控えめで、どこか大人びている一面を見せることがあるといえるでしょう。(もちろん、それとは逆に繊細さゆえに年不相応に泣いたり、ビクビクしたり、感情的になってしまうこともあります)
みんなで遊ぶよりも一人で遊ぶことを好む
音や声に敏感であり苦痛を感じやすいことから、同年代の子が賑やかに遊んでいる場ですらストレスを感じてしまい、静かな場所で一人落ち着いて遊ぶことを好みます。
「子供なんだから大勢で遊ばせておけばOK」という考えで子育てをしている人からすれば、一人でひっそり遊んでいる様子は、「仲間はずれにあって孤立しているのではないか?」「どこが具合が悪いせいで一人で遊んでいるのではないか?」と心配になるかもしれませんし、無理にでも友達の輪に入れさせて、遊ばせたほうが子供のためになると考えることもあるでしょう。
しかし、HSPの子供からすれば、無理やり集団に入れられて騒々しい状況でストレスを抱えるだけでなく、無理に大人が気を使っている事も敏感に察知して辛さを覚えてしまうこともあります。
内向的で集団生活が苦手
繊細なことから不安や恐怖に対して敏感に強く反応してしまい、子供らしい活発さが見られない、消極的で内向的な子供と見られることが多々あります。
また、内向的なせいで、進学やクラス替えなどで新しい環境になっても上手く馴染めない。馴染もうとしても、まだ顔も人となりもよく知らない他人からの声、話題、感情などの刺激を多く受けてしまうので、ふつうに生活をするだけでもぐったりしてしまう事があります。
そのため、普段から人付き合いは極端に少なく(あるいは無い場合も)なり、体育祭、文化祭、修学旅行、社会科見学などでどうしても集団として動く場面が必要なときに、強い苦手意識を訴えることがあります。
HSP(HSC)の4大特性
HSP(HSC)の考案者であるエレイン・N・アーロンは、書籍『人いちばい敏感な子』にて、HSP(HSC)の4つの特性を以下のように分けています。
- 深く処理する (Depth of processing)
- 過剰に刺激を受けやすい (being easily Overstimulated)
- 全体的に感情の反応が強く、とくに共感力が強い (being both Emotinally reactive generally and having high Empathy in particular)
- 些細な刺激を察知する (being aware of Subtle Stimuli)
深く処理する
ただ、音や匂い、その場の雰囲気などのあらゆる刺激を強くを受けとっているだけではなく、
- その刺激の本質的な部分を見極めている。
- 色々な可能性を考えて慎重な姿勢を取るために、即断即決ができない。
- 自分が受けた刺激に対して深く観察している。
などの、刺激を一つの情報として捉え、それについて深く考えたり、観察したり、見極めようとする事です。
こうした姿勢は、ときに優柔不断、臆病、ビビリ、子供らしい単純さがない、と否定的な目で見られがちであり、HSPの子供が自信を失いやすい原因となります。
過剰に刺激を受けやすい
「刺激に過剰反応してしまう」ことは、HSP(HSC)の代名詞ともいえます。
刺激に対して敏感であることは、言い変えれば受け流しておけばいいような刺激までも、つい真正面から受け取ってしまうことと言ってもいいでしょう。
非HSPの人が、とくに気に止めないような刺激までも受け取ってしまい余計なストレスを抱えてしまう。しかし、そのことを非HSPの人に訴えてもなかなか理解が得られにくいこと。
音や匂いのように、まだわかりやすい刺激ならともかく、人間関係の空気感のように言葉にしにくいのに加えて抽象的な説明に頼らざるをえない刺激に対しては、とくに理解が得られにくいです。
全体的に感情の反応が強く、とくに共感力が強い
HSP(HSC)は感情の振れ幅が大きく、オーバーリアクションな一面があります。
このことは喜び・楽しさなどの感情にも大きく反応する良い一面もあれば、不安や恐怖といったネガティブな感情にまでも大きく反応してしまう一面もあります。
また、自分以外の他人の感情にも人一倍敏感に反応してしまうことも、HSP(HSC)の特徴です。
自分とは全く関係のないことにもかかわらず、目の前で誰かが叱られているのを目撃して、まるで自分が叱られているかのように感じてビクビクしてしまう、ドッキリ番組のように誰かが恥をかかされている場面で、自分までも恥ずかしい気持ちになってしまい不快感を覚える…などの行動として出ることがあります。
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些細な刺激を察知する
非HSPの人が気づきにくい物音、匂い、味、手触り、その場の雰囲気など、些細な刺激を敏感に察知することです。
これは、感覚を受け取る感覚器が発達している場合もありますが、大半は思考の深さや感情の受け取り方が影響していると考えられています。
HSP(HSC)は病気・障害とは違う
HSP(HSC)の特徴には、発達障害(自閉症スペクトラム、ADHD[注意欠陥多動性障害]、LD[学習障害])のように、子供の発達に関わる先天的な障害と似ているところが見られます。
しかし、発達障害と異なるのは、HSP(HSC)は病名や診断名ではなく、あくまでも心理学における一種の人の見方であるという点です。
発達障害は医学的な概念として認められていますが、HSP(HSC)は心理学における一概念のひとつである。ですので、HSPだからといって「自分の子供には障害がある」と決め付けるのは現時点では早計といえます。
HSPの子供は、活発で元気で子供らしい子供とは言えない気質の持ち主であるため、無理に子供らしい子供像に合わせようとするよりは、個性や自主性を尊重して見守る姿勢を持つことが大事です。
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